2-B/316番隊は隊務も無いし…といくら考えても心当たりは浮かばないので、仕方なくもう一度食堂に行ってみる事にした。
カウンターに置いた籠の中身は既に半分位に減っていて、居合わせた家族にはこんな小さなチョコ一つでお礼を言われてしまい、なんだか申し訳ない気持ちになる。
「きっちり全員分用意するあたりが、ルリらしいよな」
「あ、サッチ。夕べはありがとう」
朝食担当では無かったサッチは、さっきは食堂に居なかった。
その理由は一目瞭然で…
「…今日は特に気合入ってない?」
「分かるか?」
わざわざポケットから櫛を出して撫でつけながら答えたサッチのリーゼントはいつも以上にかっちり整えられていて、気の所為か大きくも見える。
「そんなに重大なイベントなの…?」
「当たり前だっての。エースはともかく、マルコやビスタに負ける訳にはいかねーからな」
「そういうモノなんだ…」
実はわたしは、海に出てからも出る前も、バレンタインの贈り物を用意した事がない。
今年初めて用意したけど…男の人にとってもそんなに重大なイベントだったなんて…
「…これ、足しにして?」
「虚しくなるから足しとか言うなっての…」
「あっ、ホントだ!ごめんね」
「謝られると益々虚しさが増すんだけどな…」
「久々に出たな、天然発言」と、ケタケタ笑いながら受け取ってくれたサッチは、その場で包みを開いてポンと一つを口に放り込んだ。
「上出来じゃねぇの?」
「ホント?良かった。ありがとう」
サッチのお墨付きを貰えたなら、イゾウさんにも安心して渡す事が出来る。
でも、その肝心のイゾウさんが何処にも居ない。
「サッチ、あのね…イゾウさん知らない?」
「…いや、知らねーな。居ねーの?」
「うん…後はイゾウさんだけなんだけど…」
わたしの手元に残る、サッチに渡した物とは違う包みを見ると、サッチはニヤリと獲物を見つけた時の顔をした。
「代わりに俺っちが貰ってやろうか?」
「えっ…!?これはダメだよ!?」
「ぶはっ、予想以上の反応。冗談だっての。しっかし、随分と素直に反応する様になったじゃねーの」
「な…なっ…」
サッチのからかいにまんまと乗ってしまい、しかも素直な反応だなんて言われてぷすぷすと音を立てるくらい真っ赤になったのが自分でも分かった。
「…サッチなんて、チョコに埋れちゃえばいいんだ」
自分でもよく分からない捨て台詞を残すと、何故かツボに入ったらしく爆笑するサッチの声に見送られながら食堂を後にした。
可能性が有って行っていないのは、後はイゾウさんの部屋だけになった。
何と無く後回しにしてしまって居たけれど、午後からは鍛練の予定も有る。
意を決して、イゾウさんの部屋に向かう事にした。
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