※紅矢視点です。
テメェは何も分かっちゃいねぇ。
俺はポケモンセンターの一室で1人酒を飲んでいた。うるせぇ連中は珍しく皆外出していて静かだ。出て行く時の口振りじゃ当分は帰って来ねぇだろう。
…静か、なのはいいが。
(…苛々しやがる)
俺は無性に苛々していた。理由は不本意だが分かっている…アイツがいねぇからだ。
(ちっ…何でこの俺がアイツのせいでこんな思いしなきゃならねぇんだ)
アイツ、とはチビでアホな俺のトレーナー。危機感ってのが全くねぇアイツを狙っている野郎は多い。とんだバカ共だ、アイツは俺の物だと言うのに。
まぁ正式にアイツが俺の物になると自分から誓った訳じゃねぇが…そんなモンはどうとでもなる。俺がそう言ったんだからそうしろ、とでも言えばな。
(…あのバカ女、帰ってきたら覚悟しやがれ)
どんな仕置きをしてやろうか。アイツはまた理不尽だなんだと喚くだろうが知ったこっちゃねぇ。
(そうだな…アイツの嫌がることっつったら噛み付かれることだろうな、前も痛いって泣いてやがったし)
相手の嫌がることをするのが仕置きってもんだ。んで最後は膝の上に乗せてプリンでも食わせてもらおうか。
俺は1人頷き口角を吊り上げる。あぁクソ、楽しみじゃねぇか。
こうして俺の感情を揺さぶる奴なんてテメェしかいねぇんだよ…感謝しやがれ。
だから早く帰ってこい、ヒナタ。
『たっだいまー!!』
「…はっ、」
何ともまぁタイミングのいい奴だ。
ヒナタは鼻歌なんざ歌いながら意気揚々とリビングに入ってきた。そして買い出しした食料が入っているであろう袋を俺が座るソファの前にあるテーブルの上に置く。
…目の前を細ぇ足でウロウロすんな。食いたくなるだろうが。
そんな目も気にせずコイツはやたら上機嫌に俺の方をクルリと振り返った。
…その瞬間、俺のよく利く鼻が何かを察知した。
『じゃーん!見て紅矢、これ街で貰ったんだよ!』
「…あ?」
そう言って差し出してきたのはクッキーの詰め合わせ。ピンクのリボンでラッピングされていて、如何にも女が好きそうなアレンジだ。
…だが、今の俺にとってはんな事どうでもいい。
『あのね、街で買い物してたら…わっ!?』
思い切りヒナタの腕を引っ張りソファへ押し倒す。思っていた以上に軽い体に一瞬驚いたが、すぐにそんな思考は頭から追いやった。
『っな、何?どうしたの紅矢?』
「…テメェ、何だこのニオイは」
『へ?』
全く分かってねぇコイツに苛々は募る。つーか男に押し倒されてキョトンとしてるコイツは想像以上のアホだ。
「…このニオイは誰だって聞いてんだよ」
『に、ニオイ…?』
「ちっ…、」
あぁ、苛々しやがる。俺はヒナタの胸倉を掴み顔をグッと近付けた。
『…!?』
「テメェ…浮気か?」
『は!?う、浮気!?』
「してねぇとでも言うつもりか」
『い、いやしてないも何も誰に対する…、』
「俺に決まってんだろバカが」
そうハッキリ告げるとデケェ目を更に見開いて驚愕の表情を浮かべるコイツ。…何だそのアホ面は。
『あっあたし…紅矢と付き合ってなんか…ぅぐっ!?』
素早く口を片手で押さえつけ続きを言い切る前に塞いだ。…口答えは、許さねぇ。
「…ヒナタ、もう一度聞く。テメェに染み着いてるこの男のニオイは…誰だ?」
『む…っう、お、男?』
口を塞いでいた手をどかしてやり問い質した。ヒナタは俺の質問の意味をやっと理解したのか、記憶を辿るように唸り出す。
『ん〜…男…あっ!そうそう、さっき見せたクッキーあったでしょ?アレあたしが買い物終わって休憩してた時に話しかけてきた男の人がくれたの。お近付きの印だって…それでね、コレ!』
「…?」
寝そべったままゴソゴソとポケットから何かを探し始めた。そして取り出した物を俺に見せる。
『よく分からないけど連絡先まで教えてくれたんだよ。気が向いたらでいいからって言われて…クッキーのお礼もしたいから今度かけてみようかなって思ってたの』
そうヒナタが話した瞬間、俺の中の何かが切れた音がした。
▼ BookMark