※蒼刃視点








貴女は、美しい。








俺達はある町にて買い出しを終え、ポケモンセンターで一休みをしていた。雷士はいつもの事だが他の仲間達も道中の連続的なバトルが堪えたのか、珍しく皆一様に睡眠をとっている。

普段から鍛錬を欠かさない俺にとってこの程度の疲れでは全くと言っていいほど眠気は来ないので、部屋でヒナタ様と2人静かに過ごしていた。

ヒナタ様は先ほど買い揃えた物品を整理し終え今はテレビを見ている所だ。俺も擬人化して整理を手伝い、そのお礼だと言ってヒナタ様が煎れて下さったお茶を有り難く啜っている。

何てお優しい方なのだろう…俺はこうしてまたヒナタ様に魅了される。



(…それに、)



俺は隣りでココアを飲むヒナタ様をチラリと見やる。ふわりと揺れる太陽の髪、コロコロ表情の変わる愛らしいお顔、鈴を転がしたような暖かい声…どれをとってもヒナタ様しか持ち得ないものだ。

所構わず触れたくなるような柔らかな頬に思わず手を伸ばしかけた時、ある事に気付いた。


…あぁヒナタ様、また人差し指を怪我されたのですね?一週間程前にもマチ針で引っ掛けて…お料理は得意なのに針仕事は少し苦手らしい。ですがそんな所も可愛らしいです。

それとその花柄のスカート、前実家に戻った時ハルマさんからプレゼントされたものでしたよね。ちょっと派手じゃないかとハルマさんには文句を言っていたのに本当は凄くお気に入りなのも俺は知っていますよ。自室で1人嬉しそうにスカートを眺めていた貴女にも本当に癒されました。

…とまぁそんな可憐で美しいヒナタ様だからこそと思えば仕方ないのかもしれないが、彼女に魅了される男が後を絶たないのが俺の専らの悩みである。

それと言うのもヒナタ様を見る目がどいつもこいつも汚らわしいのだ。純白可憐なこの方の全てを暴きたいと、卑しい目つきで舐め回すように見る…俺はそれが許せない。

彼女は純粋で天使のようなお方だ。仲間達は俺も一目置いている者達ばかりだからまだ安心出来るが、いつかそんなヒナタ様に付け込んで不貞な行為を強いる輩が現れるかもしれない。

だから俺は何があってもヒナタ様をお守りすると決めた。この方を悲しませるもの全てからお守りするのだ。

ヒナタ様に救われたあの日から、彼女が俺の全て。

それに…





『…あ、ライブキャスター鳴ってる!』


ヒナタ様が腕から鳴る電子音に反応しテレビから視線を外す。…一体、誰だ。


『あー久し振りヒュウくん!元気?』

(ヒュウ…確か、以前サンギ牧場で会った男か)


悪い人間ではないようだが…奴もヒナタ様を狙う1人だ。ヒナタ様は全く気付かれていないが、俺には分かる。

俺とヒナタ様の時間に水を差すなどいい度胸だ…。ヒナタ様がお優しいからと調子に乗るな。



『わ、今近くにいるの!?それならもしかしたら会えるかも…え?どうしたのヒュウくん?』

「…?」


ヒュウが何を話しているのかまでは聞こえない。だがヒナタ様がやたら真剣なお顔をされている所を見ると、何やら浅からぬ話らしい。


『…え、今から?う、うん…分かった。うん、じゃあね』


ヒナタ様がライブキャスターを切る。今から…とは、どういうことだ?


『ゴメン蒼刃、あたしちょっと用事出来たから少しだけ出かけるね。皆のことお願い!』


顔の前でヒナタ様が両手を合わせ懇願する。そんなことをされずとも俺がヒナタ様のお願いを断るなど有り得ないのに。


「…分かりました。お気をつけて、ヒナタ様」

『うん、ありがとう!』


彼女はパーカーを羽織って部屋を出て行った。…先ほどの会話からするとまず間違いなく、ヒュウの元へ行くのだろう。


(…ヒナタ様のお願いだから引き受けはしたが…やはり心配だ。何と言っても相手はヒナタ様に好意を抱いているのだからな)


俺は暫くの間考え、ヒナタ様の後を追うことにした。ヒュウのこともあるが、もしポケモンやトレーナーに絡まれでもしたら俺がお守りしなければならないからだ。

雷士達には書き置きをしておいた。アイツらも子供ではない、内容を読めばすぐに理解し大人しく帰りを待つだろう。



この時の俺は何故だか嫌な予感がしていた。ヒュウがヒナタ様を呼び出した理由を予測してしまったからだ。


(…杞憂であれば、いいのだがな)


俺はポケモンセンターを出て、ヒナタ様の波動を探り走った。




prev|next

 BookMark

×
「#甘甘」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -