※氷雨視点







欲しい物は、1つだけ。








『っは、はぁ…っ!』

「ふふ…」


僕は現在進行形で逃げるヒナタ君を追い掛けている。何故そんなことになったのか…その理由は今からほんの少し前に遡ります。





原因は、僕の犯した些細なミスでした。僕はいつものように部屋で読書をしていたのですが、喉の渇きに気付き飲み物を買おうとポケモンセンター内の売店へ向かったのです。

ヒナタ君は蒼刃と疾風と共に買い物へ行きました。ちなみに嵐志も紅矢と雷士を連れ別行動を取っているようです。(雷士は心底面倒くさそうな顔をしていましたが)

つまり僕は1人で留守番をしていました。ヒナタ君がいないのは少し退屈ですが、静かな空間での読書も好きなのでまぁいいでしょう。

ヒナタ君のことですからきっと帰ってきてからこんな物を買ったですとか、あんな物があったですとか楽しそうに話すのでしょうね。僕はそんな彼女を見るのが楽しいのですが。

そんなことを考えながら売店へと向かうと、そこには店員の他に2人組の男性がいました。…昔なら、たったこれだけの人間でも同じ空間にいると思うだけで吐き気がする程だった。今はヒナタ君の影響である程度耐えられるようにはなりましたが、それでも憎い存在であることに代わりはない。


(…いや、むしろ憎い理由が1つ増えましたかね。事実それが原因で数日前にもゴミを排除しましたし…)


その時の光景を思い出し自分の口元が歪に吊り上がるのを感じながら、目当てのアイスコーヒーを見つけ手を伸ばす。…だが、先程の2人組の会話が耳に入った瞬間僕は動きを止めた。


「なぁ、さっきセンター出てった子可愛かったよな」

「あー、あのオレンジ色の髪の子か!確かに可愛かったなー。それに何かほわんとしてて何でも言うこと聞いてくれそうっつーか…都合よく付き合えそうだよな!」

「だなー。そういやあの子夕食の予約してたしまたセンターに戻ってくるんじゃねぇか?そしたら声かけてみようぜ!」




――――あぁ…また、か。




僕は売店を出る2人の後を追った。ドロドロと胸の内を巡るモノに身を震わせる僕の目は、その時果たして光など映していたのだろうか。

尚も下衆な会話を続ける彼等に声をかける。呼び止められた理由を欠片も理解していないその間抜けな面…あぁ、本当に忌々しい。


「…少し、お付き合い頂けますか?」


にっこりと、人の良さそうな笑みを浮かべれば途端に警戒心を解いてノコノコと付いて来て下さいました。そして導いたのは辺りに人気の無い路地裏…おや、ようやく不審に思い始めたようですね。ですがもう手遅れですよ?


「な、何の用だよ…?こんな所連れて来て…!」

「黙れ」

「!?」


甘く柔らかな声色や口調など最早必要無い。言葉を紡ぐことは許さないとばかりに低く言い放てば、案の定彼等はビクリと震えて縮こまってしまった。


「人間とは本当に汚らわしい生き物だ…素直な心を利用し、自分の思うがままに支配しようと嘲笑う。そして…その醜い心をあの子に向けることが、僕は何より腹立たしい!!」

「―――っひぃ…っ!?」


思い切り壁に拳を叩き付けると、鈍い音を立ててそこが凹んだ。…おや、少し力を込め過ぎましたかね…蒼刃には劣るとは言え、僕も原型時の体躯の通り力は強い方ですので。

どうやら今ので完全に恐怖にとりつかれたらしい彼等は必死に逃げる機会を窺っている。やれやれ…逃がす訳がありませんのに馬鹿な方々です。


「ヒナタ君は、貴方達のように生き恥を晒している人間が近付いていい存在ではないのですよ。あの子を卑しく映すその目も、触れようと企てるその手足も…バラバラにして差し上げましょうか?」

「…っや、やめろ…!うわぁああああ!!」


あぁ喧しい、黙りなさい。何て耳障りな声なのでしょう…ヒナタ君とは雲泥の差ですね。

貴方達のような人間はこの世に必要ありません。ヒナタ君の為、僕の為に消えて下さい。あぁ、少し間違いでしたね…消えて下さいではなく消させて下さいでした。


「僕の物に近付こうとしたのが過ちでしたね…それもよりによってあのような下衆な理由で。だから今こうして酷い目に遭っている」

「…も、もう…やめて、くれ…っ」

「そうですね…そろそろ終わりにして差し上げましょうか」


貴方達の命と共に、ね。

そう言って微笑むと実に絶望的な表情を浮かべた。たまりませんねぇその顔…一体見るのは何度目でしょう。ヒナタ君に近付こうとした男は皆最後はこの顔になる。

要らない、要らない、お前達など必要無い。価値のないゴミは綺麗に片付けるべきでしょう?


「あの子は、僕の物だ」


そして僕は「ゴミ処理」をした。それについ夢中になってしまったのが僕のミスだったのです。

その時の僕は体中が返り血で真っ赤に汚れていたことにも、いつの間にか彼女が近くまで来ていたことにも…気付かなかったのですから。




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