※嵐志視点
あぁ、愛してる
「ひーめーさん!!」
『わぁっ!?』
とある昼下がり、オレ達は小さな街のポケモンセンターで休息をとっていた。昼メシを食い終わって廊下をブラブラ歩いていると前方に見えるオレンジの髪と小さな背中。
その特徴的な髪色だけでそれが誰か理解出来るのはきっとオレだけじゃねーけど、ひとまずそれは置いとく。とりあえず体が勝手に動いて(まぁ確信犯と言えば確信犯)気付いたらオレは彼女を背後から抱き締めていた。
『ちょ、あ、嵐志…!ビックリするからやめてっていつも言ってるでしょ?』
「んー、姫さん良いニオイ!」
『全然聞いてないよね!?』
抱き締められたままキャンキャン吠えてた姫さんもオレの態度を見て諦めたのか、小さく溜め息を吐いて大人しくなった。そんな姿を見てオレは口元を緩め、気付かれないようにそっと旋毛にキスをする。
(…可愛いよな、ホント)
姫さんがオレのことだけ見てくれりゃいーのに、そんなことをもう何回思っただろう。
こう見えてもオレは割とモテる。昔…色々と荒れていた頃はまぁそれなりに女遊びもしたし爛れていたとは思う。
けど今は全くそんな気は起きない。女の子は可愛いし見てて癒されるから好きだけど、姫さんと比べたら月とスッポンレベルにまで落ちちまう。
これも全てはオレが姫さんに惚れたからだ。大きな瞳を縁取る長い睫毛や甘い香りのする髪、オレの名を呼ぶ女の子らしい柔らかな声に酷く惹かれる。けど何よりこの子はバカみてーに優しくて、オレはつい甘えたくなっちまう。
(姫さんの傍にいると…たまーに泣きたくなんだよな)
この子は、オレの心の奥底に潜む寂しさを拭ってくれるから。
『ねー嵐志、あたし売店行きたいんだけどー』
「!悪い悪い、お詫びにオレも一緒に行くぜ!」
『えー、それお詫びなの?』
そう言ってクスクス笑う姫さんは本当に可愛い。こんなに純粋で綺麗なモンが存在しただなんて知らなかった。
『まぁいっか!それじゃせっかくだし、行こ?』
「おう!」
クルリと身を翻し売店へと向かう。すぐ横を歩く姫さんをチラリと盗み見ると彼女は楽しそうに鼻歌を歌っていた。
まるで穢れを知らない横顔、オレの好きな笑顔。彼女にはずっと笑っていてほしい、そんなことを考えるオレがいた。
−−−−−−−−−−
最近知ったことだが、姫さんは訪れる街のポケモンセンター内にある売店には必ず足を運んでいるらしい。何でもその街によって置いてある品物が違うから見てて楽しいんだとか。
買い物好きな姫さんらしーな、そう思いつつ今も興味津々に棚に並べられた商品を眺めている姫さんに視線を向ける。…ははっ、口開いてるぜ姫さん!
(…あ、そーだ。オレも今夜飲む酒でも探してみるか)
飲み仲間でもあるこーちゃんとさめっちの好みを考慮しつつ酒を選ぶ。ここはそれなりに品揃えが豊富らしく、オレはつい夢中になって姫さんへの注意が散漫になっていた。
(…よし、まーこんなもんだろ)
吟味した酒達をカゴに放り込み姫さんの元へ戻る。多分姫さんには程々にしろって注意されるだろーな…あ、あとそーくんにも。
全く怖くない姫さんの怒り顔を想像しながら1人ニヤケていると、ついさっきまではいなかっただろう2人の男達が視界に映った。
ソイツらは目を見合わせて姫さんに近付き、あろうことか馴れ馴れしく話しかけやがったんだ。
「ねぇ君!何見てるの?」
『へ?』
「1人?俺らとどっか遊びに行こうよ!」
『え、あ、あの…?』
頭上にハテナを浮かべ困惑する姫さんを余所に、まくし立てるように会話になってねー会話を進める男達。
1人の男が姫さんの肩に腕を回すのを見た瞬間、オレの中で煮えたぎるような激情が湧き上がる。そして気付いた時にはものすごいスピードで男の元へ走り寄り、腕を回した男を思い切り殴り飛ばしていた。
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