※疾風視点









ボクを生かして、
    








蒼刃といつものように手合わせした後擬人化してシャワーを浴び、ポケモンセンターで借りた一室にあるリビングへ向かう。

水滴が滴る指を見てワキワキと動かし、改めて人の体って複雑だけど便利だなぁと思った。


『はーやてー!一緒におやつ食べよー!』


扉を開けると飛び込んできたのはボクのマスター。ビックリしたけれど何とか受け止め、ゴメンゴメンと笑う彼女に僕も釣られて笑う。


「…あ、あれ?雷士とか紅矢は一緒じゃないの?」

『うん、雷士はいつも通り寝てるし…横暴キングは嵐志と氷雨が連れ出しちゃったからいないの。あの3人意外と仲良しなんだよねー、大人組ってやつ?』


そ、そっか…蒼刃はまだ鍛錬するって言ってたからここには当然いないし、雷士も寝てるとなると…マスターと2人きり…だよ、ね。


(…うん、正直嬉しい…な)


マスターの周りはいつも賑やかで、あまり積極性の強くないボクはいつも出遅れてしまう。ボクだってマスターといっぱい話したいのに…見ているだけしか出来ないんだ。

だからこんな機会は滅多にない。マスターを独り占め出来るなんて嬉しい、な。


『あ、疾風髪ビショビショじゃん!ほらおいでー、』

「え…?」


マスターに手を引かれソファへ座らされる。するとマスターはボクの背後に回り、首にかけていたタオルを取ってそのまま髪を拭き始めた。


「ま、マスター…!?」

『はいジッとして!』


振り向こうとするボクを制しワシャワシャとかき混ぜられる髪。ある程度水滴が飛ぶと、マスターはドライヤーを取り出した。


『熱かったら言ってね?』

「う、うん…」


マスターがスイッチを入れると温風がボクの髪を揺らす。 マスターの指が髪に触れた瞬間、情けないけどピクリと震えてしまった。


『んー…疾風の髪ってやっぱり気持ち良い!サラサラで羨ましいよー』

「そ、そんなこと…マスターの髪だってサラサラ、だよ?」

『えー、こんな癖毛なのに?』

「それは毛先だけでしょ?」

『むー…』


…ちょっと面白い。納得がいかないらしいマスターはぷくりと頬を膨らませて難しい顔をしている。

その間にも小さくてスベスベな手がボクの髪を優しく掬っては梳き、湿気を取り除いていく。


(…気持ち良い、な…)


当然だけど、こんなこと野生の時は体験したことなかった。多分マスターと出会わなければ一生…。

そう、マスターはボクにたくさんの初めてをくれる。初めての旅、初めての仲間、初めての、恋。

ボクはきっとマスターがいなきゃダメなんだ。マスターの存在がボクに勇気をくれるし、こうして心地良い空間を作り出してくれる。


(…大好きだよ、マスター)


ボクの唯一は、マスターなんだ。




『よーし終わり!サラッサラ過ぎてもはや嫌味だね美少年!』

「そ、それ褒めてるの…?」

『あは、勿論!じゃあ一緒におやつ食べよ?』


そう言ってニッコリ笑われるとボクは何も言えなくなる。マスターは全然気付いてないけど…マスターのこと好きな人はいっぱいいるからボクはいつも不安になるんだ。

マスターがその中の誰かを選んでしまったら、ボクはどうなるんだろう?ボクにはマスターしかいないのに…マスターは、




『…疾風?』

「っ!ご、ゴメン…何でもない、よ」


マスターに顔を覗き込まれてハッとする。…嫌なこと考えるのは止めよう。それより今はマスターとの貴重な時間を満喫しないと、ね。




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