『…ひ、氷雨…?』
「っ!」
恐る恐るといった風に降って来た小さな声は、間違いなくあの子だ。ゆっくりと顔を上げると、そこに立っていたのはやはりヒナタ君だった。
「…何故、ここに?」
『さ、さっきセンターに戻って来たらどこにも氷雨いなくて…だから蒼刃達と探しに来たんだけど、そしたら…氷雨の声が聞こえて…』
小さな体が微かに震えている。あぁ…何ということでしょう、この子を怯えさせてしまった。それにもしかしたら自分の両親が亡くなった日の光景を思い出してしまったのかもしれません。
『ね、ねぇ氷雨…どうして血だらけなの…?その人達倒れてるし、何かあった…?』
「…何でもありませんよ?僕はただ…汚いゴミを処分していただけですから」
『―――…っ!!』
震えるヒナタ君を撫でてあげようと手を伸ばしたら、彼女は酷く怯えた顔をして勢い良く逃げ出してしまった。どうやら僕の手のひらが血で染まっていたことに恐怖したようです。
…おやおやヒナタ君、そちらは逃げ道としては反対ですよ?永遠と人気の無い道が続くだけですのに…。
(…いや、むしろ好都合かもしれませんね。そろそろ僕も我慢の限界でしたし…ここらであの子に自分が誰の物かを再確認して頂くのも悪くありません)
何より、僕が原因とは言え逃げられてしまったことに傷付きました。これはヒナタ君本人に慰めて頂くしかありませんよね?
僕は彼女の逃げる姿に酷く欲情し、抑えきれない衝動を表すかのように舌なめずりをした。
−−−−−−−−−−−
と、まぁそんな訳で冒頭に至ります。元々少ない体力で必死に走るヒナタ君…何て可愛らしいのでしょう。このままもう少しあの健気な姿を眺めていたい気もしますが、そろそろ止めにしてあげないと可哀相ですよね。
僕はそれまでゆっくりだった足を速め、息を切らすヒナタ君の腕を掴んで引き寄せた。突然引っ張られた反動に対応出来ないヒナタ君は呆気なく僕の胸に収まってしまう。
「ふふ…ねぇヒナタ君、追いかけっこも悪くないですがもっと別のことをしませんか?」
『へ…っ?』
耳元に唇を寄せ囁けばその大きな瞳を瞬かせる。何も分かっていない無垢な表情…僕はこの子のそういった所に惹かれる。身の穢れ、心の穢れ…僕の最も嫌うタイプの人間が持つその2つがヒナタ君にはありませんから。
僕に背を預けた状態の彼女を反転させ、顎に手を添えてそのまま口付ける。見た目通り柔らかで弾力のあるソレは大いに僕の欲を誘った。
『っう、んぅ…っや、やめっ、ん!』
「舌を出しなさい」
もがく両腕を一纏めにし、少し埃臭い壁に彼女の体を押し付ける。密着した瞬間に血の臭いが充満したのか、ヒナタ君は目を見開き涙を滲ませた。
…ダメですよ、君はそんなものより僕に集中しなさい。そう言わんばかりに激しく口付け小さな舌を引きずり出し絡ませれば、息苦しいのか段々と頬が紅潮して来ていた。
僕はと言えば初めて味わうヒナタ君の口内の甘さに魅了され、本能のままに容赦なく貪る。そしてあまりの長さに彼女の意識が霞んで来た頃ようやく唇を解放した。
『は…っ!…な、何で、こんな…!?』
「君を愛しているからです」
『…!?』
僕の突然の告白に混乱しているのでしょうか、目線を忙しなく右往左往させる彼女につい吹き出してしまった。
『ひ、氷雨…おかしいよ…?いきなりそんな…それにさっきの人達だって、どうしてあんなこと…!』
「…見られてしまっては仕方ありませんね。最も、あれが初めてではないのですよ?」
『!?』
「君と出会い愛した時から…君に近付こうとする人間は皆処分して来ました。特に男は楽には死なせて差し上げませんでしたよ。彼等は君を卑しい目で舐め回すように見つめ、手に入れる機会を虎視眈々と狙っている。その中には先程の奴等のように、君を性欲処理の道具にしようとさえ考えている者もいるのです」
『っきゃあ!?』
言い終わるや否や、ヒナタ君のブラウスに手をかけ思い切り引きちぎった。勢い良く弾け飛んだボタンが地面に落ちる音をどこか遠くに聞きながら、目線を無防備で扇情的な淡い色の下着で包まれたそこへと向ける。
…確かに、性的対象として見てしまうのも無理はない。この子は幼い顔付きをしていながらも体は立派な女性のものだ。そのアンバランスが故に艶めかしい色香に引き寄せられるは男の性と言えるでしょう。
だからこそ僕はそれが許せない。この世界にはそう言った輩が多過ぎる…本当に息苦しい。こうして彼女に触れるのも、僕1人だけで良いのです。
『いっ…!痛いよ氷雨、やだ!』
「暴れないで下さい」
この体を見つめるのが僕だけではない苛立ちに、らしくもない舌打ちをしてヒナタ君の首筋に歯を立て吸い付いた。これではまるで紅矢のようだと内心苦笑しつつも、白い肌にくっきり浮き出た赤い印を見て少しだけ満足する。
とうとう啜り泣き出してしまったヒナタ君にもう一度深いキスをして、スカートの下に手を差し込みショーツを引き下ろす。最も恥ずかしいであろう箇所が外気に触れる感覚に驚いたヒナタ君が再び抵抗しようとするが、それも呆気なく僕に阻止されてしまった。
『やだっ、嫌だよやめて氷雨!』
「暴れるなと、言っているでしょう?」
『ひゃあっ!?』
くい、と折り曲げた指でそこを刺激すれば、その瞬間上がった高く甘い声が更に僕を駆り立てる。堪らなくなって一ミリの隙間も無い程体を密着させると、彼女の優しい香りに全身が包まれた。
(僕にこびり付いた血の臭いさえ…ヒナタ君は洗い流してしまう)
罪にまみれたこの身を今更濯ごうなどとは思わない。ただ、僕の瞳に映るのが君だけであればいい。
何度も角度を変えてヒナタ君の唇を喰らいながら、肌を這うようになぞる手のひらで柔らかな感触を味わう。舌を絡ませる度に上がる湿った水音に興奮しつつも、酸欠になってはいけないと一度唇を離した。すると真っ赤な顔をして泣くヒナタ君が、蚊の鳴くようなか細い声で何かを呟いたことに気付く。
『…った、すけて…助けて、皆…っ!』
「―――っ!!」
ヒナタ君の言葉を聞いて僕の目の前は真っ赤に染まった。皆、皆…とは、やはりこの子と僕の仲間のことでしょう。
(…彼等も、僕の邪魔をするのですね)
ヒナタ君以外に唯一心を開ける存在であった仲間達さえ、枷の外れた今の僕にとっては障害でしかない。誰も彼も…ヒナタ君の心の内に染み入ることは許さない。
「分かりましたヒナタ君、彼等も綺麗に片付けて差し上げます。そうすれば、僕だけを見てくれますよね?」
『…っ!?ひ、ぁっ!』
貼り付けたような極上の笑みを浮かべ、ヒナタ君を隅々まで味わおうと舌を這わせる。ガクガク震えているヒナタ君の琥珀の瞳には間違いなく僕だけが映されていて、その何とも言い知れない充足感にうっとりと目を細めた。
本当に、何故この世界には要らないものばかりなんでしょう。必要なのは僕と君だけなのに。
ですが安心して下さいヒナタ君、君をこの場で愛した後は…邪魔者を排除しに行きますからね。だから君は何も心配しないで、僕に抱かれながら可愛く鳴いて下さい。
そして僕は嬉々として行為を再開した。これから待ち望んだ最高の世界が訪れるのだと思うと興奮も冷めやらぬというものだ。
僕と君だけが存在する世界…あぁ、何て美しい!!
渇望するは2人きりの世界
(僕達以外は、消えてしまえ)
end
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