『このシュークリーム美味しい!ね、疾風も食べてみて?』
「ん、う…うん、美味しいね!」
『ねー!』
う…マスター可愛い。甘い物食べてるとき本当幸せそうに笑うんだよね…。
…そういえば、紅矢も甘い物大好きだからよくマスターと一緒におやつを食べている。ということは、紅矢は今みたいな笑顔を毎日こんな近くで見てるのかな。
チクリと、胸に棘が刺さったような気がした。
『あ、クリームついちゃった…洗ってこよーっと』
「!ぼ、ボクも行く!」
『え?』
マスターが目を丸くしてる…それはそうだ、ボクが突然立ち上がったから。
『でも…疾風どこにもクリームついてないよ?』
「え、えと、いいんだ。マスターと一緒に行きたいだけ…だから」
『?あは、よく分かんないけど疾風可愛いね!いいよ行こう?』
よ、よかった、マスターは笑って許してくれた。少しも離れたくないなんて言ったら絶対呆れられるよね…。
マスターについてキッチンで手を洗い、再びリビングのソファへ。マスターはまた美味しそうにシュークリームを頬張る。
ボクももう1つ貰おうと手を伸ばしたとき、隣りの部屋からドサッという何か物が落ちたような音がした。
『…!今の…もしかして雷士がベッドから落ちたのかも。あたし怪我してないか見てくるね!』
「―――っ!!」
普段滅多にマスターと2人きりになれることは無かったから、この時のボクは少しおかしかったのだと思う。
マスターにどこにも行ってほしくなくて…そう、たとえ仲間の所だとしても。
『わ…!?』
立ち上がったマスターを咄嗟に背後から抱き締め、抱えるようにしてソファに座る。マスターは案の定状況が飲み込めてなくてキョトンとしていた。
『は、疾風…?どうしたの?』
「…雷士なら、大丈夫だよ。だからここにいて、ボクから離れないで」
『へ?』
マスターが雷士のことを人一倍気にかけてるのは知っている。だって雷士はマスターの相棒だから。…だからきっと、マスターはボクを置いて雷士の所へ行ってしまう。
(…そんなの、嫌だよ)
「お願いマスター、ボクを見て。ボクはマスターがいればいい。マスターがいてくれれば、何もいらない」
『な、何…?』
ボクの異変に気付いたのか、マスターが身をよじってボクから逃れようとする。それが悲しくて、ボクは抱き締める力を強めた。
(…マスター良いニオイがする。柔らかくて気持ち良いし…)
初めてこんな風にマスターを抱き締め、その存在を間近で感じているとボクは妙な気分になってしまって。上手く動けないでいるマスターの顎を上向かせ、ボクの唇を押し付けた。
『っ!?』
「…ん、」
啄むようにキスをして、フニフニの唇をペロリと舐めるとマスターはビックリしたのか微かに口を開いた。ボクはその中も味わってみたくてマスターの顎を掴んだまま舌を忍ばせ絡ませる。
シュークリームを食べていただけあって甘い口内に夢中になりボクは滅茶苦茶に蠢かした。当のマスターは無理な体勢に苦しくなったのか途中で咳き込んでしまい、ボクもそこでやっと唇を離す。
『ぅ、げほっ!けほっ!』
「…ゴメンね、マスター…」
小さく呟きマスターの服の裾から手を差し込み、柔らかくてしっとりした肌を撫でる。もう片手はマスターのスカートを捲りその下の太腿をさすった。
『ちょ、はっ疾風!?何して、あっ…!?』
右手は膨らんだ胸、左手は太腿の付け根を越えた下着。両手が行き着いた箇所に触れて改めてマスターはボクとは違う女の子の体なんだと実感する。
お母さんと根本的な作りは同じ筈なのに…こんなにボクの体が熱くなるのはマスターだから、かな?
『やめ、て…離して、疾風…!あたし雷士の所に、ぅぐっ!?』
「…ダメだよ、行かないで。ボクはマスターと片時も離れたくない…ボクを捨てないで」
胸に触れていた右手でマスターの口を塞ぐ。するとマスターはその手を何とか引き剥がそうと抵抗した。
「…もし、マスターがボクを見捨てるなら…手首、切るよ?」
口を塞いでいた右手でテーブルの上にあったハサミを取り、マスターに見せ付けるように手首に添える。そして開いた刃をぐっと押し付けると、ほんの少しだけれど傷が付いてじんわりと血が滲んだ。
シュークリームの箱が開かなくて使ったハサミがまさかこんな所で仇になるとはね、マスター?
『…!?だ、だめ、危ないよ…!やめて疾風!』
「うん、マスターならそう言ってくれると思った…。ね、ボクと一緒にいてくれる、よね?ボクを見捨てないよね…?」
『見捨てたりしない、しないよ、だからハサミは置いて…!』
「ありがとう…マスター」
嬉しい、マスター泣いてる。きっとボクのこと心配して泣いてくれているんだ…。
それが嬉しくてマスターの顔を覗き込んだ時、その瞳に映るボクの顔が別人のように歪んでいたことなんて気にもならなかった。
マスター、ボクはマスターの為ならどんなことだってするよ。マスターはボクを変えてくれた人で…誰かの為に生きる喜びを教えてくれた人。
ボクはもうマスターがいないと生きられない。マスターがいない世界なんて、考えられない。
「ね…マスター、ボクをマスターのモノにして?」
ボクはそう言って涙を流すマスターの頬にもう一度キスをした。
君がいないとボクは、
(死んじゃう、よ?)
end
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