小説 | ナノ
ぬいとの生活
「……ん、けんや、けんや、すき」
顔を擦り寄せ、手をかぷ、と甘噛みして俺を離そうとしない名前。こんな状況にどうしてなってしまったのだろう。俺は身動きもできないまま名前にされるがまま身体を弄られていた。いや、身体といってもこの姿は、

「ぬいはやっぱふっわふわできもち……へへ、ユウジに作って貰ってよかったぁ」
そう言って俺を持ち上げたと思ったらぎゅっと名前の腕の中へ抱きしめられる。よしよし、と髪を撫でてはキスをおとす名前のでれでれした姿。いつも俺に辛辣で、財前と一緒に揶揄ってくる彼とはまるで別人で、不意に可愛いと思ってしまった。いや、なんやねん本当この状況!
今日家に帰り、布団で寝ていたはずの俺は気が付いたらぬい、いわゆるぬいぐるみの姿になってしまっていた。一体何が起きたというのだろうか。
そんな俺に気づくはずもない名前はむにむに、と頬をつねたり大切なものを愛でるように優しく撫でてくる。俺はどうすればええんやろか……


「ね、けんや。どうしたら本物の謙也と仲良くなれるかなぁ、本当はすっごい大好きなのに……本人を前にすると素直になれない、というかキツく当っちゃう。……やっぱ嫌われれてるよな」
本当は大好きだよ、そう言い柔らかくはにかむ名前。
今、なんて。彼は今……

「そんな事あらへん、お、俺かて名前のこと好きやで」
心の中で言っていたはずの言葉が部屋に響く。あれ、さっきまで声出なかったやん。と、考える前に名前は俺を布団に置いたまま部屋の隅っこへ後退りして逃げ出した。
「しゃ、しゃべった!!!え!?こわ……え?」
完全に困惑している彼は頬を引っ叩いたり、幻聴が……と病気かもしれないとぶつぶつ言いながらスマホで調べはじめた。

「お、落ち着きや……」
あまりの落ち着きのなさに声をかけるも、聞こえていないのか全く反応は無かった。
気づけば身体も動くようになって、寝っ転がっていた体勢からよいしょと身体を起こす。
「そうだ、ユウジ、ユウジに連絡しなきゃ、あいつなんちゅうもん作ってくれたんだ。お焚き上げして、除霊しなきゃ……あれは化けだ絶対そう……」

「まてまて、そんな怖がることないやろ!!しかもお焚き上げて、殺す気か!」

「う、動いた……ポルターガイスト!?お、お母さん!」

「ちょ、まち!!名前!」

そうこうして何分経っただろうか、名前が落ち着きを取り戻すまですごい時間がかかった気がする。そういえば名前はお化け嫌いだと言っていたのを聞いた記憶がある。それでこんな非科学的な場面に出くわして過剰に怖がっていたのだろうか(にしても取り乱しすぎる気がするが……)


「名前も落ち着いたし……とりあえず話そうや、なんかめっちゃ疲れたわ」




「……、うそ、謙也なの……?ほんとに……?」
「じゃ、じゃあ俺がキ……スしたのも」

「おん、ばっちし記憶も感覚も残ってるで」
涙目で俺を揺さぶる名前。忘れろ、と懇願してくるもあいにくあんなことをされてそう簡単に記憶が消えるわけがない。顔を真っ赤にしたまま名前と現状と今後の話を進める。
今、俺がどうしてこの姿になったのかわからないこと、喋る、動くことはできること。今後どうするか。

「じゃ、じゃあ俺どうすればいい?」
「できれば元の姿に戻れるまでお世話して欲しいんやけど……」
そもそもこの身体に空腹などの概念があるか謎だが、今のままでは部活どころか学校にもいくことはできない。そもそも家族にも心配をかけてしまっているのではないかと思うと申し訳ない気持ちで苦しくなってきた。

「うん、わかった。とりあえず俺のとこでお世話はするよ」



これからよろしく。名前と俺の不思議な生活が始まった。


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