小説 | ナノ

「おい!ブン太ぁ!」
俺は早朝から教室のドアを勢いよく開け教室を見渡した。残念ながら当の本人はまだ教室にはいないらしく代わりに出てきたのは

「なんじゃ騒がしい」
くぁ〜と欠伸をして眠たげにしている仁王だった。丸井がいないのはしょうがないので俺はことの経緯を仁王に話す事にした。



「あいつ……あいつ、俺が貰う筈だったチョコ全部食べやがったんだぜ!?」
ふざけんなよ…俺が貰う筈だったチョコ……と永遠にぶつぶつ恨み辛みを仁王にぶつける。俺は無類のお菓子好きで、その中でもチョコが一番と言っても良いほどチョコが好きなのだ。そんな俺にとってバレンタインデーはチョコが大量に貰える至福の日。この整った顔に生まれてきた事を感謝したい。

「で、なんで貰うはずだったチョコが無いって気づいたんじゃ?貰っとらんのに」
そう仁王が肘をつきながら興味なさげに聞いてくる。
「ホワイトデーのお返しが無いって女子が訪ねてきたから……俺貰ってないよ?って言ったんだよ。そしたらブン太に渡してって頼んだけど、って!」まじありえないぜ……今度あったらしばいてやる。そう零せば「ははは、大変じゃの」と仁王は俺の髪をくしゃくしゃと撫で始める。慰められてるのかイジられてるのかよく分からんが退けるのも面倒で気の済むまで撫でさせることにした。

「はぁ、しゃーないの。ほれ、元気だしんしゃい」
溜息ばっかりついている俺を哀れに思ったのか、そう言い仁王は俺の目の前に小さな包み紙を出した。ばっと頭を起こし中身を開けるとそこには大量のチョコが……

「にお〜〜……お前だけだよ俺の心の友は」
そう言い仁王に抱きつく、ああ、どっかの誰かさんとは大違いだ……。


そんなことをしていると不意に後ろから聞き馴れた声が、
「おっす、何?なんの話してんだよ」俺も混ぜろよ〜と陽気な声で話しかけてきたのは丸井ブン太だった。「どの面下げて会いにきたんだよ、おい」俺はそう言い放ち悪態をつく。へ?ととぼけたブン太に俺は仁王に話した内容をもう一回伝える。すると
「はぁ!?いやいや、俺んな事言われてねぇし知らねぇって!?」と丸井はまるで本当に知らないみたいなリアクションで言い訳を始めた。そもそもチョコ渡してなんて言われてないとか、そんな事しないだとか。
「ほほぅ?自分の罪をあくまで認めないつもりかよ」

「いや、これは本当まじまじ!!てか名前の分までチョコ食うとかそこまで食い意地張ってねぇよ!」

「ああ、もういいわ。絶交だかんな?!丸井のバカ!」

そう言い俺は教室を飛び出す。もう、知らない。謝っても許してやんねーし、そう心に誓いながら。






「不思議なこともあるんじゃなー、あはは」

「…おい、まさか仁王」

「さて、何のことかわからんな」

「ぜってぇお前だろー!!おい、どうしてくれんだよ俺絶対名前に嫌われたんだけど??!」
「ぷりっ」



はぁ、と溜息を吐くも数分前に教室を飛び出して行った名前は戻ってくる気配は無い。
「てか、まだ名前にちょっかいかけるバカいんのかよ。せっかく色々牽制してんのに」
「まー、優しい上にもともと顔がええからな。それにチョコ渡してきたんは隣の学校の奴とかが多かったから知らんのじゃろ」ああ、そういえば隣の学校までは考えてなかったなもんな、と思いつつ仁王に尋ねる。
「で、結局チョコは?」

「先に柳から情報は貰っとったから先回りして回収して全部処分した」
「うっへ、結構勿体ない事すんだな」
「あんなチョコなんて処分されて当然じゃ」
「ま、何入ってっかわかんねーしな」


「しかし、どーしよな。知らないとこで名前が彼女作ってたら」
「いや、別れさせればええだけじゃろ。それに参謀の情報収集能力舐めたらあかんぜよ」
「あー、確かに。まあどうにかしてくれるか」

近づいてくる奴から排除すれば良いだけだからな。と笑い合いながら仁王と話す。ああ、俺はそれよりも機嫌を損ねた名前をどうにかしなきゃいけないんだからな。


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