友達以上の存在
僕には気になっていることがあった。それは、
「涼華って、彼氏いたっけ」
久々に予定が合い、傑と硝子と飲み会に来ていた。時々、四人で時間を作って飲み会をするのだが、この場にはもう一人足りない。
僕はメロンソーダにバニラアイスを乗せながらそう訊ねると、傑と硝子は考えるようにうーん、と唸る。
「そんな話は聞いたことないけど」
「私もないね」
「ふーん……僕も聞いたことないし、隠してんのかなーと思ってたけど、どうなんだろうね」
彼女に恋人が出来たという話は、出会ってからずっと聞いたことはない。告白を断った、という話は何度か聞いたことはあったが。仕事ばかりで付き合っても長続きしないだろうから、という理由で断る彼女は真面目だ。でも、そろそろ結婚を考えてもいい年頃なんだろう。
「悟って他人の恋愛事情に首突っ込む人間だっけ」
「いや、何となく思っただけ。アイツ、今日も飲み会参加しなかったし?」
「確かに。休日だけど、急遽予定が入ったとか……そう考えるとデートかな」
「私とは時々デートしてくれるけどな。歌姫先輩も交えて、女子会とか」
「なーにそれ、不公平」
最近は会ってないような気がする。彼女は補助監督で、色んな呪術師を担当している。僕は伊地知に仕事を頼むことが多いけれど、時々は彼女にも頼んでいいのかもしれない。そう思うと、傑はふと笑う。
「そう嫉妬するなって」
「はぁ?」
「恋人くらい、悟にも出来るさ。学生時代よりかは愛想良くなれたんだし」
「別に興味ないしぃ、そういうの面倒」
そもそも、そんな時間は僕にない。適当に遊ぶならまだしも、そういう関係になると、自分勝手に出来なくなるのが面倒だ。束縛されるのとか、好きじゃないし。
「なーんか、やな感じ」
「それこそ嫉妬じゃないか。まあ、分からなくもないけどね」
「涼華の邪魔だけはしてやるなよ」
「しないしない」
そう二人には言ったものの、気にはなる。二人がタクシーで帰った後、僕は彼女にもう家に帰ってるのか、メッセージを送る。
コンビニスイーツでも買って返事を待つか、と近くのコンビニへ向かい、新発売のスイーツを見ていると、家にいると返事が来た。だったら家に行ってやろう、と僕はいくつかスイーツや紙パックジュースを買い、タクシーで彼女の家に向かう。
安っぽいアパートだ。せめてオートロック付きのマンションに越したらいいのに、と思いながらインターホンを押して待っていると、カチャリとドアが開く。
「やっぱり来た……もう、何度もメッセージ送ってるのに」
開口一番にそう言われ、不満そうな彼女を尻目に、ポケットのスマホを見ると、彼女からのメッセージ通知がズラリと並んでいた。その内容はこれから予定があるから、家にいない≠ニそういったものであったが、出てきてるということは、嘘を吐いていることになる。
「全然気がつかなかったわ」
「悪いけど、今日は帰って」
「何で?」
ふと彼女の背後を見ると、玄関に男性用と思われる革靴があった。家にまで来る仲なのか、と廊下の先、部屋がある方を見ると、扉越しに人がいることが分かる。非術師だ。
「今日、飲み会来なかったらからさぁ、僕に会えなくて寂しいんじゃないかと思って。でも邪魔したみたいだね」
「邪魔ではないんだけど……会わせると色々と面倒だから」
「あっそ、じゃあ僕帰るわ」
「わざわざ来てくれたのに、ごめんね」
「いーよ。ごゆっくりー」
僕は軽く手を振ってその場を去って行く。コンビニ袋片手に住宅街を歩いていると、何だか苛々としてきた。そして何だか虚しさを感じた。
今の僕、すっごいカッコ悪い奴じゃない?友達の家に行ったら、勘違いさせるから帰れって言われちゃって。彼氏いるなら、言えばいいだろ。傑は非術師が嫌いだから、気を遣ったとか?でもそれは傑にだけに伏せておけばいい話だろう。
何故、こんなにも腹立たしいのか。途中でタクシーを拾い、高専へ帰る途中で、ふと気づいた。
そっか。付き合いの長い僕らよりも、ポッと出の男なんかを優先させたから、苛ついてるんだ。
高専の私室へ向かい、そこで眠ろうと身体を寝かし、天井をぼんやり見つめていると、僕は彼女のことばかり考えてはムシャクシャとしていた。
ふと傑の嫉妬≠ニいう言葉が脳裏を過ぎる。
「嫉妬かぁ……」
これは僕を優先してほしいという我が儘か、それとも──
***
「そういや、この間のやつ、何ともなかった?」
「少し探りを入れられたけど、別にどうってことなかったよ」
「そりゃ良かった」
いつも通りの彼女、いつも通りの彼女の部屋。
今日は彼女が補助監督として僕を担当した。高専に帰ると、僕が観たい映画があったんだけど、映画館に寄る時間がなかった、と言うと、丁度レンタルしてたから、一緒に観る?と誘われて、彼女の家へ来た。
僕だって気遣いくらい出来る。いくら僕らが十年来の友達だといえ、二人きりで映画を観るなんて、彼女の恋人は良しとするんだろうか。
「何ボーッとしてるの?」
「疲れたから、ココアでも淹れて」
「はいはい」
僕はテーブルに置かれたDVDを手に取り、DVDデッキにそれを入れていると、彼女はキッチンで飲み物の用意をした。何となく部屋を見回していると、何回か来た事はあるその部屋は何故かいつもと雰囲気が違うように感じた。
「……何か、片付いてない?」
「そう?別に何も変わってない気するけど」
掃除機はかけたけど、と言いながら、彼女はココアの入ったマグカップを二つ、テーブルに置く。
何もおかしな所がないとすれば、変わったのは自分か、と何となく思う。非術師の彼氏がここにいたということを思うだけで、こんなにも意識が変わるものなのか。自分らしくない、と僕はリモコンを取ってソファに座ると、僕の異変を察知したのか、彼女は隣に座りながら僕の顔を覗き込む。
「どうしたの?何か変じゃない?」
「いつも通だけど」
「そわそわしてる」
「してないし。何でオマエの家でそわそわしなきゃいけないわけ」
「いや、トイレ行きたいのかなって」
「ガキじゃあるまいし」
映画が始まると、僕はココアを飲みながら、何気なく訊こうと話を振る。
「この間の、よく来るの?」
「いや、初めてだよ。本当困る……突然来るなんて。連絡くらいくれればよかったのに」
「へー、自分勝手な奴?」
「そうでもないよ。あの日はたまたま」
「ふぅん、どんな奴?」
「何でそんな知りたいの……面白くも何ともないのに」
「僕だって恋バナ嫌いじゃないんだよ。いいでしょ、聞いたって」
別に変じゃない、とまるで自分に言い聞かせるように言葉にすると、彼女は暫く沈黙したかと思えば笑い始め、ついテレビに向けていた視線を彼女へ向ける。
「何か噛み合わないなと思ったら……あれ、お父さんだよ。東京出張でホテル予約したつもりでいたけど、予約出来てなかったみたいで。今から取るの面倒だから、泊まらせてくれって来たの」
「はぁーん……」
「はは、私に彼氏が出来たら、真っ先に自慢するよ」
「うざ」
あれ。何でホッとしたんだろう。久々に会う家族を優先するのは当然。しかも困ってるんだから。だから、ポッと出の奴じゃないことに安心したんだろう。それ以外の理由はない。
それから二時間、二人で映画を見続けたが、全然集中出来なかった。思ってたより面白くもなかったし。
彼女も同じ気持ちだったのか、隣で俯いて眠っている。
エンドロールが流れ始め、僕は停止ボタンを押すと、彼女の頬をツンと突いてみるが、起きる気配がない。
もう深夜であり、タクシーを拾うのも面倒だ。明日の朝、彼女と高専に向かうか、駅まで送ってもらえばいい。そう思い立ち、僕は彼女をそっと抱えると、ベッドまで運ぶ。
無防備に眠る彼女は、僕に気を許しているのだろう。そうだ、僕らは十年来の友達なんだから。特別な感情なんて存在しない。でも、これが傑だったら?これが硝子だったら?同じ気持ちになれると言い切れるのか?
そっと髪を指で撫でると、その触れた指から伝うように熱が込み上げてくる。
「オマエにとって、僕は何?僕にとって、オマエは……」
この歳になって初めて抱いたこの感情は、簡単に口に出来るものではないような気がしてならない。
まるで、呪いだ。
僕は彼女から離れると、ソファに寝転ぶ。まだ、彼女が座っていた場所には熱が留まっていた。
焼き立てのトーストと、甘いジャム、少しビターなコーヒーの香り。朝の定番とも言えるその香りで目を覚ますと、キッチン横のダイニングテーブルに二人分の朝食を用意している彼女に目が付く。
僕が身体を動かすと、それに気づいた彼女はおはよう、と声を掛ける。
「ごめんね、ベッドまで運んでもらって」
「……いいよ」
「新しい歯ブラシ用意してるから、顔洗って来たら?お風呂入りたかったら、入ってもいいし。着替えはないけどね」
「じゃあ、シャワー浴びる」
「バスタオル、用意しておく」
僕は目を覚まそうと風呂場に向かい、シャワーを浴びる。シャンプーやリンス、ボディソープは女性向けの物だけれど、まぁいいか、とそれを使う。しかし、もっと落ち着かなくなってしまった。
風呂から上がると、洗濯機の上にバスタオルが置かれていて、僕はそれで身体を拭いたり、用意された歯ブラシで歯を磨き、ドライヤーで髪を乾かす。心なしか、いつもよりサラサラしている。
部屋に戻ると、彼女は先に朝食を済ませていて、丁度僕の分のトーストを皿に盛り付けている所だった。
「食べておいて。私、準備するから」
彼女が寝室へ入って行くと、僕は彼女がつけた朝のニュース番組を観ながら、トーストにイチゴジャムを塗って食べる。久々にジャムトーストなんて食べたな、と食べながらも今日の予定を考えていると、準備を終えた彼女は出て来ては、僕の前に座る。
「何か不機嫌じゃない?不機嫌というか、浮かない顔というか……」
「そんな顔してる?ここに超絶イケメンが張り付いてたら、いつも通りの顔だよ」
「じゃあいつも通りですねー」
彼女は昔から妙に鋭い。そして、どんどんとそこに踏み入って来る。それがいいことなのか、悪いことなのかは分からないが、僕はそこが気に入っている。傑は一時期、一人で悩んだ時があったらしい。それでもフリーの呪術師として今やっていけてるのは、彼女がそこに踏み入ったからだろう。僕や硝子じゃ気づかなかったかもしれない。プライドが高いから、弱味を見せない。僕ら三人とも。
「オマエ、好きな奴とかいるの」
「んー……いないかな。はは、悟くんと恋バナとか笑える!なーんか、私達はそういう浮ついた話、あまりないよね。硝子ちゃんも、術師に誘われてたけど、付き合える余裕ないわ、って感じだったし。あとで付き合っておけば良かったかなぁって言ってたけどさ」
「全員、余裕なんてないでしょ」
「特に時間的な余裕がね。悟くんは?いいなぁって思う子、いるの?」
「……いるかなぁ」
「えぇ!意外!」
絶対、いるわけないって言うと思った。と心の底から驚いていて、少しワクワクしている。脈がないことがハッキリしてる。
「僕がオマエのことが好きって言ったら、どうする?」
「何それ。私はどうもしないよ」
「どうもしないって何だよ」
「……悟くんは少し我が儘だけれど、何だかんだ優しいし。悟くんに想われてる人は幸せなんじゃないかな。頑張れ!」
「いや、何となく可愛いって思っただけの奴だし」
「またまた、照れちゃって」
「ないっての」
あぁ、何か落ち込んだ。
その後、彼女と高専まで向かい、それぞれ別々の任務に就いた。
***
たまたま休みが取れた日、また飲みに行こうといつもの面子を誘い、集まったのは、硝子を抜いた三人。硝子は予定が合わない、と不満を口にしていた。
「硝子抜きは珍しいね。飲めない二人が一緒かぁ、七海や灰原辺りでも誘えば良かったかな」
「一人で飲めよ。何で一緒に飲みたがるのか、理解出来ないね。メロンソーダお願いしまーす」
「私はウーロン茶」
「私はとりあえず、生で」
それぞれ店員に飲み物を注文し、食事もいつものメニューをとりあえず口にして、一旦下がってもらう。
傑だけでも来てくれて良かった、という気持ちがある。つい最近、彼女と部屋で二人きりになって、妙なことを口走ってしまったから、何だか気まずい。
僕の気持ちに気づいてか、傑は胡散臭い笑みを浮かべながら、そういえば、と話を振る。
「二人で映画観たんだって?」
「うん。レンタルして観たんだけど、つまんなかったよ」
「つまんなさすぎてコイツ、寝てたし」
「じゃあ私も観なくていいかな……でさ、何かあった?」
「何かって?」
「あぁ!悟くん、好きな人いるんだって。傑くんは知ってる?」
まさかバラすとは思っていなかった。傑は何となく気づいている。そんな笑みを浮かべている。言うなよ、と傑を睨んでいると、そこに注文した飲み物が届き、誤魔化せたかと思っていたが、傑は彼女の問いに答えた。
「頑張れとしか言いようがないね。相手が相手、無自覚だろうし」
「えっ!傑くん、知ってるんだ」
「予想はついてるよ」
「へぇ、私は分かんないや。悟くん、教えてくれなさそうだから、教えてよ」
「こういうのは、当てて楽しまなきゃね」
「えぇ、狡い」
下手に口を挟むとバレそうだな、と他人事のように黙っていたが、傑は楽しそうにニコニコと笑っている。腹立つな、コイツ。
「いやぁ、難しい道を選んだねぇ」
「ますます気になるなぁ、その言い方」
「ふふ、君って他人の恋愛話に興味なさそうだったのに、悟のは気になるんだね」
「身近にいる人のは気になるでしょ?手伝えることがあれば、手伝えるし」
「余計なお世話」
手伝いなんて必要ない。というか、無自覚に僕の心を傷つけてるの、分かんないのか、コイツは。
僕が息を吐くと、傑は自然に別の話題に持って行った。そういう気遣いは出来るんだな、と僕はメロンソーダをストローから飲み、傑と彼女の話を聞いていた。しかし、傑は酔うとタチが悪い。暫く気分が良くなって、次々と酒を飲んで、また話題を戻して来た。
「悟、君にも可能性はある!」
「は?何の話?」
「ん?好きな人の話?」
「またその話かよ、もういいわ。酔ってんじゃねぇよ」
「いやいや、良くないよ。相手は脈ありだ!絶対そう、親友の私を信じな」
「……根拠は?」
「ない。私の勘」
「あてになんない」
「はは、ポジティブな意見は聞いておいた方がいいよ」
彼女はおかしそうに笑っていて、自分のことだとは思っていなさそうで、時計を見ると、あ、と声を上げる。
「そろそろ私は帰らなきゃ。書類作業が残ってて。私は車で来たけど……二人共どうする?」
「私達はまだ飲むよ、呪霊で帰る」
「何で僕を巻き込むんだよ」
「いいじゃないか。たまには二人でも」
「はは、じゃあ今日は二人の奢りで。ご馳走様!」
僕も酔ってる傑は面倒だし、帰りたいと思ったが、まぁ今日くらいはいいか、と追加でデザートを注文すると、傑はハイボールを口にしながら、僕を見て大笑いし始めた。
「あぁ、面白い!今更気づくなんて」
「はぁ?」
「今の関係が心地良いと思うのは当たり前だ。でも、取り繕っても楽しくないだろう」
「……何で僕が彼女のこと、好きだって分かった?」
「分かるさ。ずっと君は自分の心に無自覚で、今まで友達として接してきたのに、今日は余裕がない。この間からそうだ。自分を優先しない彼女の行動で、自分の心に気づいた。そうだろう?」
確かにそうだ。何よりも僕を優先してほしい。勿論、傑と硝子もいてほしいけど、彼女が他の男を優先するようになったら、と考えると嫌気が差す。傑や硝子を優先しても腹が立つ。今まで考えて来なかった。今が楽しいから、それでいいとばかり思っていた。
「二十代半ばで気づくなんてね」
「本当にね。涼華も満更でもないさ」
「でも、映画観た時、僕がオマエのこと好きって言ったらどうする?って言ったら、どうもしないって言われたんだけど」
「冗談だと思ったんだろう。本気だと分からせればいい」
本当にそうなのか。
彼女は僕に想われている人は幸せだと言っていた。だっだら彼女は。僕が本気で好きだと伝えれば、彼女は僕を一番に考えてくれるのだろうか。
「当たって砕けな」
「砕けちゃ意味ないんだよ」
適当な傑の助言を受け、僕は吐くまで飲んだ傑を送り届けた後、静かな公園のベンチに腰掛け、スマホを取る。
僕が振られるわけない。そう思いながらも、彼女に電話を掛けようとする手が、なかなかボタンを押せない。いつから僕はこんな女々しい奴になったんだ。
やっと通話ボタンを押すと、ツーコールほどで彼女は電話に出た。
『はーい、どうしたの?』
「……今、傑を送って来たわ。超面倒なんだけど、アイツ」
『はは、無理にでも止めておけば良かったかな』
彼女は変わらず穏やかな口調で話す。まだ書類作業でもしてるんだろう、紙を捲る音が電話越しに聞こえた。それでも僕は気にせず言葉を続ける。
「好きな人の話なんだけど……」
『うん』
「オマエの、ことなんだけど……」
『え?』
「だから僕、オマエのことが好き」
『例え話のこと?』
「違う。例え話は例え話じゃなくて、本当のこと。分かれよ」
暫く沈黙が続く。紙を捲る音も止み、僕の耳にはサァという風の電子音しか聞こえない。返事を待っていると、彼女はやっと口を開いた。
『そっか……』
「そんだけ?」
『……いや、私は幸せ者だなと、思って』
「幸せなの?」
『うん、悟くんみたいな人に好きになってもらえて、すごく幸せ。悟くんは、その……私と付き合いたいの?』
「うん、だから言ったんだけど」
『そっか……そっか、じゃあ、そうしよう?』
彼女の声が少し震えていることに気づく。電話越しじゃ、どんな表情をしているのかさえ分からない。
「……会いたいんだけど」
『さっき会ったばかりなのに?』
「それでも、会いたい」
『……分かった、いいよ。待ってる』
その言葉を聞いた瞬間、僕は彼女の家の前まで飛んでいた。電話は切れていて、インターホンを押すと、ドア越しにドアチェーンや鍵が開く音がし、開かれる。パジャマ姿の彼女を見た瞬間、僕は彼女を抱き締めていた。
いつも通りに接しようと思っていたが、彼女が受け入れてくれたことが嬉しくて、つい何も考えずに行動していた。
「さ、悟くん。ここ、玄関だから……」
その言葉に、僕は彼女を抱えたままドアを閉め、リビングへと連れて行く。胸の中の彼女は戸惑っていて、何故か僕自身も戸惑っている。
「あー……カッコ悪……」
「そんなことないよ」
僕は彼女を放すと、彼女は耳まで真っ赤にしていた。ずっと、こんな顔を見たかったのかもしれない。可愛い。
「好き」
「……私も、好き」
「本当に?」
「……うん。でも私達は友達だったから」
「もっと早く、気づくべきだった」
僕はまた彼女を抱き締める。
年齢的には、これは大人の恋なんだろうけど、僕らはただ、気づくのが遅かっただけ。
友達以上の恋人になった瞬間だ。
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