見栄を張った結果。





 恋愛って、生きていく上で必要なもの?
 それは中学の同級生である友人に彼氏自慢をされて悔しがる女の捻くれた考え方だと自覚していた。
 恋愛なんてしている余裕はないし、最低限、理解し合える友人がいればいいじゃないか。実のところ、憧れているのだけれど。だからこそ『私も最近、彼氏できたよ』なんて友人に見栄を張ってしまった。
 その翌日。悟と傑との任務帰り、今日は頑張ったし、寿司でも食べて帰ろう!と銀座の寿司屋へ向かうことになった。硝子も誘いたかったけど、別のことで忙しいらしい。仕方なく今日は三人だ。
 銀座の街を歩いていると、ふと背後から私の名前が呼ばれる。反射的に振り向くと、昨日メールでやりとりした友人がそこにおり、頭が真っ白になる。

「久しぶりだね!」
「そ、そうだね!昨日メールで話したから、あまりそんな気がしないけど……」
「友達かい?」
「うん、中学の時の……」

 傑は愛想良く挨拶をするが、悟は人見知りかというほど無愛想である。すると、友人は対照的な二人を見て、こっそりと話す。

「昨日言ってた彼氏って、もしかして、」
「は?彼氏?」

 聞いてない、みたいな顔で私を見る悟に、いや見栄を張った嘘だし、と思いながらも、どうしようかと軽くパニックになった私は、隣にいた傑の腕を引く。

「そう。実は彼と付き合っていて……」
「ふふ、皆に内緒にしていたのに、言っちゃうの?」
「はぁ!?オマエいつの間に、」

 悟の反応が真実味を増す。私はこのまま騙し通せるな、と彼女に紹介しようと言葉にしようとするが、悟は私の腕を引っ張る。

「なぁ、マジで言ってる?オマエ、傑のこと好きだったの?」
「悟、ちょっと黙ってな」

 傑は私が彼氏のフリをしてほがっていることに気づいているが、悟は気づいていない。

「傑と付き合うくらいだったら、俺と付き合った方がいいだろ」
「……いや、私の方がいいだろう。現に、彼女は私を選んでくれた」
「どうせヤり捨てるだけだろ」
「聞き捨てならないな。君はそうやって威張ってるだけだろう。彼女の気も知らないで」

 私達がいることを忘れ、頭上で喧嘩を始める二人に私はもうダメだと諦め、驚いて交互に彼らを見ている彼女に謝る。

「あの、ごめんね。嘘吐いて。彼らは同級生で。こういう喧嘩はいつものことだから」
「モ、モテるんだね……しかもすごいイケメン」
「そんなんじゃないよ。二人とも張り合いたいだけ……じゃあね」

 私は行くよ、と彼らの背を押して歩き始めると、彼らは渋々歩き出す。暫く歩くと、悟はイライラしながら、傑を指す。

「彼氏のフリにしても、傑はないだろ!俺の方がこのクソダサ前髪野郎より何倍も見栄を張れる」
「悟は態度がちょっと……無愛想だし。だったら合わせてくれる傑が彼氏と言った方がいいでしょ」
「だってさ、悟。これが彼女の意見だ」

 私の言葉で誇らしげにする傑に、一気に機嫌が悪くなった悟。こうなるんだったら、悟を選んで、ご機嫌を取っておけば良かった。傑なら大人の対応してくれただろうし。
 寿司屋で早めの夕飯を食べて帰ると、校舎から寮へ戻る途中の硝子に会う。

「お疲れ様、硝子。今帰り?」
「そう。土産はないの?」
「ん、寿司折。早めに食べな」

 傑は持っていた寿司折を渡せば、硝子は軽く礼を言いながら受け取る。すると、機嫌の良い傑と機嫌の悪い悟を見て、彼女は首を傾げる。

「また何かあったの?」
「ふふ、私は彼氏なんだ」

 そう私の手を握ってくる傑に、私は面倒くさいな、と手を払おうとするが、彼はぎっちり掴んで放さない。

「放せよ、ヤリチン」
「女性経験があるだけでヤリチン呼ばわりするなよ、童貞」
「……今日はこんな感じ。彼氏のフリしてもらおうと思って、傑を選んだだけなんだけど」
「くだらねー」
「ねー」

 二人はこうやって張り合うことばかりしている。馬鹿だなぁ、と思いながら、私と硝子は寮に戻ろうとすると、悟に引き止められる。

「次あったら俺がやる。ちゃんと合わせれるし」
「はいはい、次あったらね」

 暫くはこのネタを引っ張られるんだろうなと思いつつも、この日のことは気にせずに過ごした。






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