彼女のピアスホール








一般人の通う中学へ潜入することとなった。
いや、普通に入校許可証を貰ってるから潜入というわけでもないか。

今回の任務は簡単だ。この学校に呪霊を引き寄せている呪物を回収するだけ。
他の奴が夜に取りに行ったが、その日はなかったらしい。誰かが持ち歩いている可能性がある。

授業中なら目立たないと思い、その時間に校内を歩いて回るが、教室の前を通ると、窓から見えた俺の姿を見て、騒ぎ始める奴もいる。
俺、どこでもモテちゃうよなぁ……いや、どうでもいい。

三年の教室辺りを歩いていると、ふと呪物の気配がして立ち止まる。
廊下側の窓際、扉の一番近くの席に座る女子。
見た目は特に目立ちそうにない、大人しそうな奴。まぁまぁ可愛い。
彼女が呪物を持っていると同時に、こっち側の人間だと分かる。
当たりだ。
しかし、休み時間まで待つのは面倒だ、と俺はそっと窓を開けると、授業に集中していた彼女はすぐに気づく。


「なぁ、お前、呪物持ってるだろ」
「……?」


何を言ってるんだ、という顔。
見えるくせに知識はないんだろうな。


「荷物持って出て来い。変なもん見えてんだろ」
「……!」


次は図星だという顔。
戸惑った彼女はバッグを手にすると、手を挙げる。俺はサッと隠れて待つ。


「……すみません、腹痛で座っているのが辛いので、保健室に行ってもいいですか?」
「あぁ……付き添いはいらないか?」
「大丈夫です」


彼女はそのまま出てくると、黙って教室から離れる。
辿り着いた先は保健室で、そこには誰もいなかった。


「誰もいない」
「ほとんど誰も来ないんです。使ったら名前を書く」


そう、彼女はバインダーに挟まれた用紙に名前を書いていく。壱紀 涼華、か。
何となく名前を覚えながら、俺はベッドに座ると、彼女は向かいのベッドに座り、バッグを膝の上に置く。


「貴方も見えるんですか?変な生物」
「あれは呪霊。それを引き寄せてる呪物をお前が持ってんの。変なもんだって自分でも分かってるだろ」


心当たりがあるのか、彼女は風呂敷に包んでいた小さな手鏡を取り出す。
完全にそれだ、と俺は手を伸ばすと、彼女はそれを避ける。


「これ、どうするんですか?」
「壊す」
「そんな……これ、お婆ちゃんの形見なのに」
「仕方ないだろ。呪物だ。人が死ぬのと形見、どっちが大事だよ」


そう天秤にかけられると、彼女はちゃんと風呂敷に包んで鏡を差し出してきた。


「……よろしくお願いします」
「ん」


酷い落ち込みように、俺が悪いことをしたみたいになっているのが気に入らなかった。
これだから知識もない弱い奴は……


「納得しただろ、そんな顔すんなよ」
「ごめんなさい、大丈夫です……私はしばらくここにいます。行ってください」


そう言われても。
俺はダラっと足を伸ばし、ジッと彼女を見る。
何か……エロいな。誰も来ない保健室に真面目な女と二人きりってシチュエーションが。
そういうAV見た気がする。
何かムラッとした……させてくれたりしないかな。

そう、俺は足を彼女のキッチリ揃えた足に自身の足を擦り寄せてみる。
避けようとしない彼女に、そう受け取っていいのか、とふと膝丈のスカートの中にするりと指を入れる。


「……なぁ、ちょっと遊んでか、ねっ!?」


左頬に衝撃と痛み。
思い切りグーで殴られた。
呪力は篭っていないものの、殴り慣れているようなパンチだ。でなければグーで殴らない。


「グーはないだろ、グーは!」
「ご、ごめん!反射的に……」


彼女は吹っ飛ばされたサングラスを拾うと、焦って俺の方に向ける。
大人しい顔して容赦ねぇぞ、この女!


「痛ってぇ……萎えたわ」
「それは良かった」


コイツ、元ヤンか何かかよ。
サングラスを取り、掛け直そうとすると、フレームが折れた。


「最悪……」
「ふふっ……!」


彼女は吹き出すように笑う。
すぐに口元を押さえてごめん、と口先だけの謝罪をする。
この女……ブチ犯すぞ。


「どうしてくれんの?パンピーにはそこそこいい値段すんだけど」
「手を出す貴方が悪いと思うけど」
「はぁ?」
「金出せって言うなら、学校に言うけど?」


性格悪いな。最悪な奴に手を出そうとしたな。もっと真面目ちゃんかと思ったのに。


「……でも呪物とか、呪霊とかのこと、教えてくれるなら、黙ってていいよ」
「誰が教えるか、ブス」
「ブスに手を出そうとしたアホはどこのどいつよ」
「手を出してやったんだよ」
「うわ、クズの物言い」


聞かなきゃよかった、とふん、と顔を逸らすが、彼女は横目で鏡を見る。


「本当に、壊すしかないの?」
「利用価値ないし」
「そう……」


ふと、床に置いたバッグを見ると、一口サイズのチョコの袋が入っているのが見え、それを取る。


「良いもんあるじゃん」
「あげるから教えてよ」
「呪いだよ、呪い。人間の負のエネルギーが集積したのが呪霊。お前も見てるような、変な奴」
「へぇ、どこでそんな知識を?何か……陰陽師みたいな家系なの?」
「そんなとこ。あと、呪術高専に通ってる」


そんな学校があるんだ、と彼女は興味を持ってるようだった。
俺はチョコを食べながら、見えるなら来たら?と言うと、別にいい、と彼女はすぐに返し、俺の壊れたサングラスを掛けて遊んでいる。


「暗……よく見えるね、こんなの」


そう、彼女はサングラスを覗きながら、顔に掛かった髪を耳にかける。
髪で隠れていた耳には耳朶から軟骨まで、無数のピアスホールがあり、ぞわっとした。いや、ムラッときた。


「その耳」
「……前に、ちょっと遊んだってだけ」
「見せて」
「やだ」


すぐに髪を下ろして、耳を隠した。
俺はチョコを投げ、彼女が受け取った隙にベッドに押し倒すと、彼女は驚いた表情をするが、すぐに俺を殴ろうとした。
だが、二度も同じ手は食らわない。
腕っ節はいいからといって、俺より力があるはずがない。
彼女の両手を片手で拘束すると、もう片手で顔を横に向かせる。
露となった耳を見て、俺ってこんな性癖あった?と感じるくらい、何故かそれに惹かれた。
何でこんなに開けたのか、何で今は大人しい振りをするのか。
そもそも見た目が大人しいのに対してこれは……唆る。


「ちょっと、クズ。叫ぶよ」
「いいの?サボって保健室来ちゃったのバレるよ。しかも俺とこんなだし」
「うっ……」


耳元で喋りながら、耳を軽く甘噛みしたり舐めたり、吸ってみる。
彼女は途端に大人しくなり、時折びくりと身体を震わせる。


「可愛いとこあんじゃん」
「離れろ、クズ」


あー、最後までしそう。
でもよくよく考えるとまずいよな、時間。
俺は散々彼女の耳をいじめ倒した後、顔を見ると、唇を噛んで声を押し殺しており、顔を真っ赤にしていた。
やばいな、これ。ハマりそう。
だが、そこでチャイムが鳴り、時間だ、と俺は手を離す。


「楽しんだからいっか。続きしたい?」
「いらない……」
「あっそ」


俺は彼女の上から退くと、鏡を手に取る。


「んじゃね」
「……じゃあね、クズ」


返事はするんだ、と何となく思いながら、俺は高専へと帰って、彼女の存在と鏡の回収を報告した。





「夜蛾先生、これさ、鏡の部分だけが呪物で、周りの柄は関係ないから壊したら俺にくれないですか?」
「お前に必要か?女物だぞ」
「欲しい」
「まぁ、いいが……」



その後、夜蛾先生から受け取った鏡の柄に新しく鏡をつけるよう修復した。
暫くして、俺は無性に涼華に会いたくなって、その近くで任務があった為、会いに行くことにした。鏡は口実だ。

俺は壱紀 涼華という名前と通う中学しか知らない。
放課後、校門の前で立っていると、女が群がってきた。
興味ねぇ……
彼女達に涼華はいないのか、と問えば、最近学校に来ていない、と話を聞いた。
遠くに進学するから引っ越すらしい、など。
俺が涼華に興味を持っているからか、人はまばらになっていく。
会えないなら帰ろう、と俺は鏡を持ったまま帰った。
忘れられないなんて、俺らしくないな。



二年になり、新入生がやって来た。
その中に、涼華はいた。


「あ、耳フェチクズ先輩こんちわ」


喧嘩を売るような態度、彼女は髪を切っており、全てのピアスホールにピアスをつけていた。
周りにいた傑や硝子、新入生の七海や灰原は知り合いか?と俺を見る。


「任務で会った」
「あぁ、もしかして、悟のサングラスを壊した子?ふふ、大人しい雰囲気とは聞いていたけど……耳はすごいね」
「よろしくお願いしまーす」


嬉しいような、コイツらにバレたら弄られるよな、と思いながらその場をやり過ごした。

寮に戻り、俺は再び涼華に会いに行く。


「あ、クズ先輩」
「やめろよ、その呼び方」
「五条先輩、何か用?」
「……これ」


そう、鏡を取り出すと、彼女は驚いたようにそれを見る。


「何で……」
「呪物は鏡だけ。柄は無事だったから、鏡だけ別ので補った」
「あ、ありがとう……!」


よかった、と彼女は笑顔を向けた。
胸が騒つく、何これ。
でも、喜んでもらえて嬉しくなった。


「あのことはチャラにしてあげます」
「あっそ。じゃあ……」


俺は少し屈んで彼女にキスしてやると、彼女は俺を殴ろうとするが避ける。
顔を真っ赤にする涼華に、俺は思わずニヤける。


「何々、初めてだった?」
「最低、クズ!許してあげないから!」
「はいはい」


ムカつく、と言いながらも、鏡を見て嬉しそうにした彼女の笑顔が頭から離れなかった。


これから何かが始まる予感がしていた。













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