見透かされて





「本当に遊園地だ!」
「ダメだよ、灰原くん。私達は任務で来てるんだから!」

今日は地方の遊園地に吹き溜まる呪いを祓うという、何とも信じ難い任務であった。
予定なら閉園後の遊園地に帳を下ろすのだが、思ったよりも早く辿り着いてしまい、閉園まで三十分以上ある。
そんな中、私の同期二人は無邪気な子供のようにはしゃいでいた。
彼女も灰原を制止しているように見せかけて、あわよくば遊べるのではないか、という期待に満ち溢れている。私の隣で、補助監督は微笑ましいものを見てはにふふ、と優しく笑って彼らに声を掛ける。


「閉園まで遊んでいいですよ。私は待ってますから」
「本当ですか!」
「そういうことなら、遊んじゃおう!」


彼女も吹っ切れたようだ。まずは何に乗るか、と入口付近で取っていたマップを二人で開いている。


「七海くんは何がいい?絶叫系とか嫌い?」
「私は乗りません、待ってます」
「え堅いなぁ、七海は」
「付き添いのお父さんみたい」


私を揶揄いながら、二人は時間がないから、ととにかく空いているアトラクションに乗ろうと話す。空いている物といえば、幼児が乗るような乗り物が回転する物から、上下に揺れる物、とにかく子供騙しな物が多い気がする。それでも彼らは懐かしいなどと楽しんでいた。私はそれを下から眺めているだけ。


「次は、ジェットコースター空いてきてるよ、行こう!」
「わは緊張するなぁ、七海は本当、乗らなくていいの?」
「いいです」
「そっかぁ」
「楽しいのにね」


まるで子供のお守りをしているようだ。彼らを見守っていれば、キャストが二人を見ては笑顔を向ける。


「放課後デート、いいですね!いってらっしゃーい」


彼らは違います、という暇もなくあせあせと乗り込んでいった。特に灰原は満更でもなさそうだ。それに私は胸辺りがモヤっとした。否定しないのか、本人達はそのつもりで楽しんでいるのか。
私は何故、羨ましい≠ニ思っているんだろう。
満足気な表情で帰ってきた二人は最後に観覧車に乗ろうと話す。観覧車なんて、カップル定番の乗り物じゃないか、とそこに向かって歩き出す二人を制止する。


「……私も乗ります」


その言葉に二人は互いの顔を見合わせ、無邪気な笑顔をこちらに向ける。そして彼女は私の腕を掴んだ。


「行こう行こう!」
「七海の気が変わらないうちにね!」


あぁ、何だこの気持ちは。馬鹿馬鹿しい。

騒がしいゴンドラから見る景色は新鮮で、とても輝いて見えた。





***





「よーし、今日は任務頑張った猪野くんに、焼肉奢っちゃう!」
「マジっすか!ありがとうございまーす!」


猪野くんに先輩風を吹かしている彼女はヘラヘラと笑っており、相変わらずだと感じる。
どこの焼肉店に行くか、とスマホで検索している彼女と、それを覗き込む猪野くんを見て、ついあの遊園地を思い出してしまった。
ふと彼女の気の抜けた顔を見ていると、視線が合った。


「七海くんも行くよね?」
「……行きます」
「それじゃあ行こう。猪野くん、いっぱい食べていいよ。七海くんも半分奢ってくれるから」
「んじゃ、遠慮なく!」


あの時の羨ましい≠ニいう気持ちは、誰に対してだったのか、今ではハッキリしている。
彼女への恋心と、彼らと青春を共にしたいのに、素直になれない気持ち。だからこそ今は、デレデレと鼻の下を伸ばしている猪野くんと二人きりにするのは気に入らない。しかし、彼がいなければ、少し物足りなさも感じるのだろう。
歩き出した二人を追うように、私も歩みを進める。願わくば、このまま誰一人欠けずに、と思わずにはいられない。
私が彼らの間に入ると、彼女は私の気持ちを見透かしたように笑った。


「間抜け面、とはそういう顔を言うんですね」
「えそんな顔してないけどな」
「俺は大丈夫っすよ!七海さん!」
「……」


大人気ないとは思うが、どうも彼女の前では子供じみた自身が勝ってしまう。それもまた彼らに見透かされているのが歯痒い。

でもそんな関係も悪くない。








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