誓いの耳飾り
※チェリー様よりリクエスト「特級過呪怨霊の夏油と一年生の夢主」二人の詳細な過去の関係性もリクエストいただきました。
「呪いを非術師を憎み、嫌い、大義を掲げて特級過呪怨霊を手に入れようとしたオマエが……笑うべき?それとも憐れむべきか?」
無数の護符に覆われたその部屋には少女と僕と二人でいた。
一年ほど前にも同じ状況があった、と思い返しながら、僕は行儀よく足を揃えて椅子に座る彼女、特級被呪者、壱紀 涼華を見下ろしていた。彼女は五条の言葉に、俯き気味だった顔を上げる。
それに僕は、いや、と彼女に対して言葉を続ける。
「悪いね、君に言ったんじゃない。君に憑いている特級過呪怨霊 夏油 傑≠ノ言ったんだ」
十二月二十四日の百鬼夜行にて、僕は確かに傑を呪殺した。呪力でしっかり、親友に止めを刺したのだ。にも関わらず、特級過呪怨霊に転じ、十五の少女に憑くなど、どういう理屈だ、と顎に手を置き、考える。問題は夏油と彼女との接点や、呪い、術式の有無だった。
「……救ってくれたんです」
「へぇ?」
「傑は、救ってくれたんです。私を、連れ出してくれた。ずっと待ってた、ずっと、ずっと……」
傑に心酔しているのか、と彼女を憐れんだ。どういった経緯で知り合ったのかは知らないが、壱紀家といえば、呪術師の家系であり、長年、本家の術式を受け継ぐ者はおらず、弱体化していった家柄だった。まぁ、そんな本家も、壱紀家も、もう存在しないのだが。
「壱紀家……君の家族、皆殺しにすることが救い?」
「……自業自得。憂さ晴らしに、意味もなくただ永遠と繰り返される実験、人間のすることじゃない」
「なーるほどね。ま、恨みたくなる気持ちも分かる」
彼女の存在は表立って出ていない。壱紀家には本家の術式を受け継いだ人間、ましてや相伝した人間はいないとされていた。その存在がまさか、隠されて呪霊に凌辱されていたなんて、思わないだろう。無惨に殺された人間達の中から、彼女の伯父に当たる人間の手記が出てきた。そこには彼女に対する酷い仕打ちが見て取れる。望んで手に入れた訳でもない術式を相伝したというだけでこれだ。こういったしがらみはどの家にも存在するのだろうな、と呆れてしまう。
「ま、そういったのも加味して、情状酌量で君は生きていられるんだけどね。本当なら秘匿死刑もんよ?」
「傑は、どうなるの?」
「君はどうしたい?」
「どんな姿でも、傑は傑。傍にいたい」
「解呪する気はないのかな」
「かいじゅ……?」
「呪いを解く気はないの?」
何故、解呪する必要があるのか、と言いたげなその真っ黒な瞳を向けられ、僕はしっかりイカれてるな。と感じた。憂太は他人の為に行動出来る人間、彼らの間にあった愛は正しく純愛というに相応しい。しかし彼女達は違うのだろう。もっと深い、深い、歪な呪い。
「僕が祓ってもいいんだけどさ、得体が知らないんだよね。厄介だよ。それが分かるまで、呪術高専で預かることになった。君も今日から学校に通うんだ。今年も粒揃いだね」
「……学校、」
「君は傑を制御出来る。その真珠の耳飾りを通してね。だから今は、傑を頼ったっていい。でもいつか、傑の力なんていらなくなる」
それから、彼女は黙り込んでしまった。
それでもいつかは、彼を解呪する時が来る。その時はきっと、憂太とは全く別の方法でだろうけど。
最期にもっと別の方法で救うことだって出来ただろうに。
本当、つくづく馬鹿な奴だと僕は心中で親友の最後の足掻きに付き合ってやろうかと思った。
***
「いつか必ず、ここから連れ出すから待っていて」
呪詛師の捕縛任務で壱紀家を拠点とする為にやって来た彼は、壱紀家で行われていることを知り、真珠の耳飾りと共にその約束をくれた。初めて見るその綺麗な真珠を、私は大切に、大切にした。どれだけ酷い仕打ちを受けようが、きっと彼は私を忘れないでいてくれる。助けてくれる、守ってくれる。この地獄から連れ出してくれる。当時五歳の私は、唯一の救いである彼に依存しきっていた。彼も、少なからず、大切に思ってくれていたはず。その優しい眼差しが、言葉が、行動が、全てを物語っていた。
でも、いつまで経っても彼は来てくれない。
発覚を恐れて場所を転々移動したから?だから、十年経った今でも来てくれないのだろうか、と不安が増していた。
ある日、突然現れたのは人の何倍も大きくなった傑だった。人の形を保ってはいるが、その姿は正に呪いそのものだった。
そして、呪いらしく一家諸共殺していった。私を凌辱した呪いも全て祓った。何もなくなったそこで、傑はただひたすらに、『大丈夫、大丈夫、だよ、大丈夫、』と呟いていた。人を殺したその大きな手に優しく包まれたが、私にとってはとても温かいもので。こんな姿になっても来てくれたんだ、と心の底から安心したのを、今でも覚えている。
「ねぇ、傑」
私は与えられた個室のベッドに寝転がりながら彼の名を呼ぶと、彼は目の前に現れ、私に覆い被さる。ベッドよりも大きな傑の髪がカーテンのように私を包む。顔に掛かった髪を擽ったい、と思いながら、彼の頬に手を伸ばしては撫でる。
「ありがとう、守ってくれて。傑のこと、悪く言う人は嫌いだよ。皆嫌い。五条先生は馬鹿だって言ってたけど、優しかった。でもまだ分からないから嫌だな」
『涼華、ぁ、ごめん、ね、』
「どうして謝るの?」
『ごめん、ね、ごめん、』
「大丈夫だよ。優しく、ギュッてして?」
そう言うと、彼は大きな手で私を掬い取り、座った自身に引き寄せてはギュッと抱きしめてくれる。温かくはない、寧ろ冷たい。それでも良かった。傍にいられるだけで良い。ずっと、ずっと傍にいてくれれば、いい。
私は彼の胸の中で眠りに就き、目覚めた頃には朝になっていて、傑は消えて、私は丁寧にベッドに寝かせられていた。
呪術高専での生活は、どうしていいのか分からないことばかりだ。同期には虎杖くんと釘崎さん、伏黒くんがいて、変わった先輩達もいる。皆、傑に対してはよく思っていない。先輩達は特にそうだ。でも、私は救われたと話せば、彼らは複雑な表情をしていた。
傑のやったことは聞いた、嫌というほど聞かされた。それでも、それでも私は傑と一緒にいたかった。
いつも通り制服を着て、任務へ向かう。
任務には慣れたが、同期にはまだ慣れない。
今日は五条先生の引率はないが、いつも通りに傑と祓えばいい、と思っていた。
呪霊に向かって行こうとする三人に、私は一言、傑に告げるだけでよかった。
「傑、呪霊を祓おう」
傑が現れると、彼らの間をすり抜けて呪霊を潰す。早いものだ。いつものように彼らは出番がなかったと不機嫌になると思っていたが、そうなる前に、私も含めて、傑の行動に驚いていた。潰した呪霊を食っており、私は彼と出会った時のことを思い出す。彼は苦しそうに呪霊玉を呑み込んでいていたことを思い出す。
私は慌てて彼に駆け寄り、その手を掴む。
「傑、もう食べなくていいんだよ!」
『いい、の?』
「いいの。戻って」
傑はスッとその場から消えると、同期の三人は何もなかったかのように切り替えていた。
「イチャつきを見せられただけだったわ」
「早く終わったし、どっかで飯食ってかね?」
「近くに人気のラーメン屋があるらしい」
「お、じゃあそこで。ほとんど夏油さんの力だったけど、お疲れ壱紀も行こ」
私は黙って彼らの後を追って行く。
先程のことが気になり、居ても立っても居られない。まだ、呪霊を食べようとするなんて。もう苦しんでほしくないのに。
すると釘崎さんは歩く速度を私に合わせ、隣にやって来る。
「昼食べたら、ショッピングしない?」
「……私?」
「アンタ以外誰がいんのよ。ま、男子は荷物持ちで」
「またかよー釘崎の荷物多いんだよ」
「俺は帰る」
「付き合い悪い男はモテないわよ」
「……何で私、」
「センス良さそうだし。そのイヤリングとか。可愛い」
釘崎さんは何気なくそう言うが、私は嬉しかった。ずっと誰かに見せることなく持ち続け、家から出て、五条先生に初めて見せたが、呪物としてしか扱われずにいた。だからか、嬉しくて胸が弾む。
「傑がくれたの……傑と私は、これで繋がってる」
まだ五歳の私にイヤリングなんて、と思っていたが、今ではとても気に入っている。そっとその耳飾りに触れると、前を歩いていた虎杖くんがふと笑った。
「本当、好きなんだな」
「うん」
「特級過呪怨霊は元々人だけどさ、式神と似てんね」
「全然違うだろ」
虎杖くんの言葉に、伏黒くんは溜息を吐くと、私も釘崎さん全然違う、と答えた。
「夏油さんの呪霊操術って珍しい術式と似てるってならまだしも、」
「というか、呪霊が彼氏ってのはかなりの変人だし、やめた方がいいわ」
「彼氏……?」
傑をそんな風に思ったことはない。私の言葉に、伏黒くんまで違うのか、と呟いた。
皆には、私達はどう映っているのだろう。
「好きだけど、そうなのかな……」
「そう思ってんのかと思ってたんだけど」
「えー、思わせぶりってやつじゃん、それ」
「何つー恋バナだよ」
初めて、こんなに会話をした。
ただの人間の友人として、こんなにも人と会話出来ると思ってもみなかった。
少し、楽しい。
この後のラーメンも少し楽しみだ。
・・・
その夜、いつも通り、傑の名を呼べば、彼は姿を見せてくれる。
愛おしいと思うこの気持ちは、やはり恋と呼ぶべきものなのだろうか。
「傑、私……傑のこと好きだよ」
『好き』
「うん、私達がどういう関係だとか、そんなのどうでもいいんだ。でも、恋人のようなものだったら、嬉しいかもしれない」
私はそっと、大きな彼の頬に触れて、すっかり呪霊の血もなくなって綺麗な彼の口に触れるだけのキスをする。
それに彼は私の身体を掴んでは、すり、と頬を擦り寄せた。
『ス、キ、スキ、好き、アイ、してる、好、き、愛してる、』
「傑も同じ気持ち?」
『好き、だよ、』
「私も。好きだよ、愛してる」
もう一度、口づけをすると、彼はまた、愛の言葉を囁いてくれる。
あぁ、もう少し早ければ、人としての貴方と愛し合えたかもしれないのに。
少し寂しくも思いながら、彼を抱きしめた。
***
ある日のことだった。
特級である私は一人で任務に出掛けていた。
そういえば、この近くに釘崎さんが気になっているという洋菓子店があった気がする。お土産に買って行ったら、喜んでもらえるんじゃないか、と考えつつ街中を歩いていると、目の前から同い年くらいの金髪の女の子と黒髪の不気味なぬいぐるみをもった女の子が私の行く道を塞いだ。
「夏油様のことで、話がある」
「こっち、来て」
誰かは知らないが、傑の存在を知っているようだ。彼は生前に教祖をしていたらしい。信奉者か何かだろうか、と思いつつ、危険ならば逃げればいい、と彼女達について行く。すると、背後から、傑が『みみ、こ、な、なこ、』と呟いており、私は二人を知っているんだな、と余計に話を聞かなければならない気がした。
人気のない路地で、彼女達は足を止めると、唐突に話をする。
「夏油様を解放して」
「私達の家族なの」
家族。その言葉を聞いて、少し戸惑った。理解出来ていない私に、彼女達は言葉を続ける。
「私達は地図にも載ってねぇど田舎に生まれて、そこで私達、呪術師は酷い扱いを受けてた」
「それは貴女も同じだって、私達は知ってる」
「私達は夏油様に助けられて、ずっと、一緒に過ごしてきた。夏油様はあの時死んだんだ」
「もう、夏油様の物語は終わってる。親友の五条 悟に殺されたあの日から」
「五条、先生が、」
知らなかった。去年起こった事件を知ってる。傑は呪詛師で、私と同じように呪い、呪われた乙骨先輩の特級過呪怨霊を狙って死んだ。でも、五条先生が傑の親友で、彼が殺したことは、知らなかった。そもそも、興味すら持たなかったんだ。傑が死んだ事実は変わらないから。
「別にアンタを恨んでるわけじゃない。でも悔しい。夏油様に意思があるの?夏油様が望んで、貴女を守ってるの?」
「解呪して。話は聞いてるし、夏油様もずっと貴女を捜してた。でも呪いなんかになって、他人を守り続けてるなんて、辛い」
「……どうしたらいいのか、分からない」
率直な意見はそうだった。解呪方法も、私や傑の気持ちも、何もかも分からない。
伝えたいことは伝えた、と彼女達は目に涙を浮かべて去って行く。
傑がごめんね、と謝っている声が聞こえた。
・・・
今の傑に意思はあるのだろうか。
昔はよく、私に外の世界の話を聞かせてくれた。美味しい物、楽しいこと、友人のこと。まるで呪いなんて存在しないような、夢のような世界の話を聞いているようだった。
でも、今はどうだろう。何一つ、楽しい話をしてくれない。ただそこにいて、私の名を呼び、時々、謝罪の言葉を口にしたり、愛の言葉を囁くだけ。そこに残っているのは、一部の感情、生きている内に私を救えなかった罪悪感や、愛情だけが残っているんじゃないだろうか。それは、とても苦しいことなんじゃないかな。
『涼華、』
声を掛けられ、私は彼の名を呼んで、姿を見せてもらう。ベッドで横になる私に覆い被さる彼の髪に包まれ、カーテンのようだな、と思っていると、彼は指でキスを強請るように唇に触れてくる。
「キスしたいの?」
『キス、したい』
「ん、しよう」
ちゅ、とリップ音を立てて、彼の大きな口に吸いつく。いつもなら、彼はそれで満足するのだが、彼は私をベッドに押しつけ、口を開くと、ぬるりとした大きな舌で私の口を舐める。
「んっ、すぐ、」
彼はその舌を私の口にねじ込む。こんなキスは知らない。彼の舌先が私の口内を刺激していく。息苦しいのに、気持ち良い。そう思ってしまう。やめてと言いたいが、その口を防がれている為、目で訴えたり、彼に手を伸ばす。
しかし彼はそれを止めることなく、私は意識が遠退いていき、そのまま眠った。
翌朝、傑は姿を消さずにずっと私を抱えていた。
『好き』
「私も……だけど、加減してほしい」
私は彼とどう接していけばいいのか、分からなくなってしまった。
***
一級案件を任され、私は一人で任務に向かう。
私はあれから、傑に指示しなくなり、使うのも、自身の憎まれた術式だ。
今まで傑に頼ってきたこともあり、自身の術式を使うのはまだまだ苦手だった。私は意地でも使わない。と無理して、自身の術式で一級呪霊を祓った。身体中傷だらけで、引率の五条先生のいる帳の外まで行こうとするが、もう、動けない。私はその場で座り込んでいると、指示していないのにも関わらず、傑が出てきては、私を優しく抱き上げた。
それに安心して、私はそのまま意識を手放した。
傑が完全顕現した気配がしない。にも関わらず、一級呪霊の気配が消えた。彼女はやっと傑と決別する気にでもなったんだろうか。
そう思っていたが、傑の気配がして、違和感を覚える。
帳が上がり、出てきたのは、怪我して意識をうしなっている涼華を抱えた傑だった。
「やぁ、傑。意識はあるのかな」
『さ、とる……』
「こんなこと、いつまでやってんだよ」
『涼華、を、愛してる』
「はっ、馬鹿みてぇ。こんなんで幸せになれるわけないでしょ」
苛立つこともある。虚しくなることもある。
自ら彼女を救いたいと望んでなった姿だったとしても、正直、見るに耐えない。馬鹿だよ、本当。
傑はバツが悪そうに彼女を僕に預けて消えた。
「本当、厄介な呪いだよ。愛ってやつは」
・・・
自身の部屋で目が覚める。傷は治っているが、倦怠感が残っていた。
ぼんやりと天井を見上げていると、傑は勝手に出てきて、いつものように、私の顔を覗き込む。
『何で、』
彼のその一言で、私は全てを察した。何故、呼ばなかったのか。そう言いたいのだろう。思考はしているのだろうな、と思いながら、私は彼の切長で真っ黒に染まった目を見つめながら、考えていたことを話す。
「私、ずっと逃げてた。人間は醜いし、私には傑しかいないんだって。でも、傑が助けてくれて、外に出て、高専に通い始めてからは、いい人ばかりに出会えた」
二年は傑にこっ酷くやられてしまったから、多少、苦手意識があるものの、私に対してはとても優しい。
同期も同期で、親しみやすい人が多い。私の心を開いてくれる。
「私、これからもやっていけそう。傑が傍にいてくれたら嬉しいと思っていたけど、でも、傑は死んでるんだね。家族がいたし、傑も罪悪感でここにいるのを知ってる。だから、」
『愛してる、涼華』
言葉を被せるように、彼は愛を囁いては、私を掴んで、引き寄せる。
あぁ、離れ難い。辛いよ。
「私も。でも一人でやっていけるよ。もう約束は果たされたから。傑はここにいることないんだよ」
『ごめん、ね』
「ありがとう、傑。私、傑が大好き、愛してる」
顔を上げ、頬に触れてキスをする。その瞬間、私の身体は彼の手から解放される。次の瞬間には、姿が人に戻っていた。
袈裟を着ているのは相変わらずだし、大きく変わったことといえば、その大きさだが。
記憶に残っている彼とは少し違うが、優しい表情は変わらない。私の大好きな傑だった。
「元の姿、やっと見れた。記憶の中で、傑はまだ、学生だったから」
「ごめんね、もっと早くに見つけてあげればよかった」
「いいの。最期まで忘れずにいてくれた」
そして、死んでまで私を迎えに来てくれたことが、何より嬉しかったんだ。
彼は私の頬にふれ、そっと撫でる。
「私じゃ君を幸せには出来ないみたいだから。ごめんね」
「連れ出してくれた。幸せになる未来を作ってくれた。ありがとう、傑。大好きだよ、ゆっくり眠って」
「……あぁ、愛してるよ」
触れるだけのキスをすると、一瞬のうちに、そこから消える。
一抹の寂しさを覚え、私は我慢していた涙が溢れ出した。
本当は一緒にいてほしかった、本当は、一緒に幸せになりたかった。こういう結末を迎えていたとしても、美々子と菜々子が羨ましく思えてしまって。でも私は、前に進むと決めたから。
翌日、五条先生と会うと、泣き腫らした私の目元や全身に目を向け、にっこりと笑う。
「やーっと解呪したんだね」
「はい……」
「傑は、私だけのものじゃない。美々子と菜々子の家族で、五条先生の親友だって、分かったから。一人で頑張っていけます」
「君は一人じゃないよ」
そう、私の後ろに視線を向けた五条先生の視線を追うように振り返ると、そこには釘崎さん、虎杖くん、伏黒くんがいた。
「そう、ですね」
彼への愛も、彼からの愛も全て心に留めた。
そして、姿が見えなくても、この真珠の耳飾りがこれからも私を守ってくれると、そう思った。
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