呪いの赤い紐。








「運命の赤い糸、知ってるよね?」


仮眠室で休憩していると、そこに甘い甘いご当地の土産を持って来た悟。
一つだけあげる、と数ある中から本当にモナカを一つだけ貰った。それを食べていると、彼は唐突にそう話したのだ。


「それは、どういう意味で聞いてる?」
「赤い糸で繋がれた人間は結ばれる。それを知ってるかって聞いてんの」
「そりゃあ知ってるけど。それが何?」
「それさー、見てみたくない?」
「存在しないよ、そんな物」
「実はあるんだよね。儀式をすれば簡単に見えるようになる」
「へぇ」


どうでもいいなぁ。と私はモナカを食べる。中にある餡子が甘い。一つだけで十分だな。それよりモナカは美味しいけど、口の中に貼り付いて違和感がある。

そんな関係ないことを考えている私に、彼はお土産の菓子が入っていた袋を括るための赤い紐を弄りながら「ノリ悪いな」と不貞腐れる。
恋バナとかするタイプだっけ。


「悟は自分の運命の相手が知りたいの?」
「別に。あんま信じてないし。占いだってさ、結果が悪いことなら信じないし、良いことは信じたいでしょ。そんな感じ」
「じゃあ、相手が良さそうな子だったら、信じるってこと?」
「そうだね!というか、好きな子以外認めないから、僕なら切っちゃうかもね」
「で、無理矢理意中の相手とくっつけるね。悟らしいっちゃらしいか……」
「そういうこと」


自分勝手で無茶苦茶だなぁ、とモナカを食べ終えると、テーブルを挟んで向かいに座っていた悟は身を乗り出してきた。


「目を瞑って、左手出して」
「はいはい……」


そんな儀式は聞いたことがないが、悟は言うことを聞かないと駄々を捏ねるに違いない。
そもそもここへ来たのも、モナカをくれたのも、これをしたかったからだろう。
どこからそんな話を聞いたのか知らないけど、人を使って実験しようとしているんだから相変わらずだ。

ふと左手に彼の手が触れた。目を瞑っていても分かる、大きな男の人の手。
薬指に触れられ、手とは違う別の感触がした。それが何かしらの紐だと分かった時、私は悟が弄っていた赤い紐を思い出す。
その瞬間、これは何かの儀式などではなく、ただの悟の悪戯だと分かった。ただ紐を括り付けて遊んでいるだけ。
それでも目を瞑って黙っていた。私は悟を理解しているつもりでいる。
だから、途中で文句を言って投げ出したとしても、また最初からこの儀式擬きをさせられるか、不機嫌にさせるだけだ。何事も諦めが肝心。


「でーきた!」
「はぁ……目を開けていい?」
「いいよ」


目を開けると、予想通り、赤い紐が私の左手薬指に括り付けられていた。
そして、その紐の先は悟の左手の薬指に繋がっている。何で、と思う気持ちもあったが、器用だな、とも思った。


「片手でよく結べたね」
「そこ?もっと見るべきとこがあるでしょ」


そう言って左手を引くと、繋がっている為、私の手も彼に引き寄せられる。


「何?私と悟は運命の赤い"紐"で結ばれてるってこと?」
「そっ!糸なんかより全然いいでしょ、切れにくいし、なかなか解けないよ」
「腐れ縁ってこと?」
「その言い方酷くない?僕はオマエと縁があって良かったと思ってるけどね」
「……酔ってる?お酒入りのお菓子食べたとか、」
「素面だっつーの」


彼は「面白くない反応だなぁ」とソファにもたれ掛かると、私はその手を引かれ、机に身を乗り出すような体勢になってしまった。
珍しい揶揄い方をするな、と思いながらも、その紐が鬱陶しいと感じてしまう。このままでは身動きが取れない。


「もう何年一緒にいると思ってるの。新鮮な反応を期待する方が悪いよ」


私はその紐の結び目を摘んで、解こうとするが、固く結ばれていて、取れそうにない。片手なら尚更だ。


「全然、取れない……!」
「固く結んだからね」
「ちょっと、これから任務なんだけど」
「取れないんだったら仕方ないねー」
「取って。どこにも行けないじゃない」
「任務だったら僕もついてってやるよ」
「迷惑……事務室に行く、立って」
「何で?」
「鋏で切る」
「僕らの運命の赤い糸は簡単には切れないさ」


余裕の笑みを浮かべながらも立ち上がり、彼は私の背後を歩いて行く。
左手同士が繋がっているから、隣に立つことも出来ず、背後に立ち、歩くのが一番楽だ。


「意味ないと思うけどなぁ」


短めの紐はピンと張って、指が引っ張られる。
悪戯にしては長く、手間が掛かる。暇ってわけじゃないだろうに、いつ飽きるんだか。

事務室に行くと、伊地知くんがそこにいた。悟と共に帰ってきたのだろう。


「お疲れ様、伊地知くん。鋏ある?」
「お疲れ様です。ありますけど……」


背後にピッタリとくっつく悟が気になるのだろう。チラチラと彼を見ながら、私に鋏をくれる。
私が手を引き、紐を切ろうとするが、なかなか刃先が紐まで辿り着かない。この感覚を知ってる。


「無下限解いて」
「えー?何のこと?これはおまじないだから、僕の想いは入ってるけどね」
「呪いの間違いでしょ」


いつまで経っても解いてはくれない。だったらこちらが負けるしかない。
私は諦めて伊地知くんに鋏を返す。


「ありがとう、伊地知くん。もういいや」
「あの、それは?」
「運命の赤い糸」
「悟の悪戯だよ、面倒くさい。このまま悟を引き連れて任務に行ってくるよ」
「えーと……送迎しましょうか?運転、出来ませんよね」
「…….そうだった。ごめんね、お願い出来る?」
「気が効くじゃん、伊地知


伊地知くんは渇いた笑いをしており、申し訳なくなった。彼も休みたいだろうに。

そうして私達は伊地知くんに運転してもらい、車に乗る。私の左側に座った悟は左手をこちらに伸ばしている。


「どうせなら右手にしたら良かったのに」
「左手じゃなきゃ意味ないだろ?」
「そもそも薬指じゃなくて小指でしょ?」
「薬指の方がいいって」
「……結婚指輪ってこと?」
「今更気づいた?」
「……悟が何考えてるのか分かんない」


いつまでも結婚しないからって、こんなことする?
悟だってこの性格の所為で相手いないくせに。


「僕は結構、単純だと思うけどなぁ」


  そんなことを話している間に任務先に辿り着くと、すぐに呪霊は現れた。
私は近距離線でしか戦えない。襲ってきた呪霊に、私は呪力でその攻撃を受けると、後ろにいた悟にぶつかる。
私はそれを気にせずに目の前に来た呪霊に持っていた呪具を振り、追い討ちをかけようとしたが、薬指を引っ張られ、思わず立ち止まる。


「いたたた!」
「繋がってるから、自由に身動き出来ないね」
「切る気なかったら、祓ってよ」
「でもオマエの任務じゃん」
「じゃあ取って。マトモに動けない」
「仕方ないなぁ、祓ってあげる」


悟はピタリと私の背後につくと、左手を取り、呪霊に向ける。
その瞬間、その呪霊はまるで風船のように破裂して祓い終えた。


「どう?自分で祓ったみたいだったでしょ」


私の腹に腕を回し、耳元でそう囁いた。
昔から距離は近いが、今日は特におかしい。私達はそういう関係じゃない。きっと、これから先も、そうなることはない。
悟は私のことなんて興味ないんだから。


「はぁ……もういいよ。帰ろう」


悟に期待するのはやめた。諦めたんだ。そうやって、掻き乱すのはやめてほしい。

私は彼の腕から抜け出して、歩いて行く。
紐がピンと張るが、引っ張られることはなかった。悟も大人しく私について来ている。


「何が不満なんだよ」
「悟には一生分かんないよ」
「分かんないね!こんないい男、他にいないでしょ?」
「ソーデスネ」


そのまますぐに伊地知くんの待つ車に乗ると、伊地知くんは「お疲れ様です」と労ってくれる。
私が不機嫌だと分かっていない悟は、左手を動かしてみたり、私の手を握ってみたりしている。


「オマエの手って小さいよなぁ」
「……女は皆、これくらいが一般的だよ」
「爪もツルツルじゃん」
「……それなりに手入れしてるからね」
「肌もスベスベ。柔らかいし」
「何が言いたいの?」
「僕にもハンドマッサージして。硝子にしてんでしょ」
「してあげるから、解放して」
「何か僕が悪いことしてるみたいじゃん」
「実際、首輪されてる気分だよ」
「分かったよ。切るから」
「じゃあ帰ったらやってあげる」


高専に帰ると、伊地知くんにお礼を言って、仮眠室へ戻った。
そこに置いてあったポーチから硝子にいつも使ってるマッサージ用のオイルを取り出す。悟の隣に座り、右腕の袖を捲って、まずは右手のマッサージを始める。
悟はジッと黙ってその手を見つめている。

当たり前だが、硝子とは手の大きさが違う為、少しやりにくい。凝視されてると余計に。黙って何を考えてるんだろう。


「手が乾燥してる。ハンドクリームでも塗ったらどう?」
「持ち歩くの面倒じゃない?」
「特定の場所に置いといたら?家とか、高専で悟の使ってる部屋とかさ」
「んー、考えとく。てか、エロくない?」
「は?」


唐突な言葉に間抜けな声が出る。
そんな声を気にせず、彼は言葉を続ける。


「何かいい匂いのオイル塗っちゃってさー、にぎにぎしてくれんの。エロい」
「……じゃあ左手は自分でして」
「最後までやってくれなきゃ、切ってやんないからね」
「はぁ……」


何でこんなことしなきゃなんないんだ、と深いため息を吐きながら、左手のマッサージを始める。
彼はソファの背もたれに身を預けてリラックスしている。

互いに沈黙して、静かな時間が流れていく。
悟が静かなんて珍しいな、と思いながら、マッサージを終わらせると、私のハンドクリームを悟の手に塗って、仕上げをする。
ダランと力の抜けた手に、私は違和感を覚える。首も若干、横に倒れていて、耳を澄ませると寝息が聞こえてきた。
目元には包帯が巻かれているから判別がつかなかったが、まさかハンドマッサージで寝るとは。
確かに気持ち良いけど、寝るほど?と思いながら、起こそうとしたが、今なら赤い紐を切れるかもしれない、と側に置いていた呪具を取り出し、ピンと張った私と悟を繋ぐ赤い紐に充てがう。
もうそこに無限はなかった。

運命の赤い糸なんてない。
もし、存在していたとしても、それは悟が無理に繋げた偽物。私達には繋がってない。
期待するんじゃない。
これはそんなんじゃない、ただの悪戯だ。
ただの土産に付属されていた赤い紐なんだ。

そうして、私は自らその紐を断ち切った。

やっと解放され、残った半分の紐は、呪具で切るには指と紐の間隔がなさすぎて危険すぎる。家に帰って、鋏で切ろう。


「……おやすみ」


別れの言葉のつもりでそう呟き、持ち物を纏めると、そのまま仮眠室を出て、自身の車に乗り、帰宅した。







 「やっぱダメか


涼華が仮眠室を出た後、僕は伸びをして、ソファに寝転がる。
過去に僕が言った言葉は、涼華を傷つけた。
でも、それは若気の至りだったんだ。まだ餓鬼で、何も分かっちゃいなかった。
自分が彼女に恋してたと気づくまで、時間が掛かった。恋心なんて知らなかったんだよ。

涼華は俺のことが好きなのに、何で他の男と仲良くしてんだ、とか。俺より大事な奴がいるのか、と考えたり。
時々、涼華を見る度に胸がキュウと締まるような感覚になる。
あと、股間にクる。
涼華は他の奴とは違う、硝子や傑とは違う、好きだったんだ。なのに俺は。

なぁ、もう一度言ってくれ。

あの時、今までに見たことがないくらい緊張して、顔を真っ赤にしたオマエが、俺に『悟が好きだから、私と付き合ってほしい』と言った。その言葉をもう一度。

そうしたら僕は、あの時とは違う言葉を返すのに。



「……好きだよ」


誰にも渡したくないくらい。
沢山愛を囁いて、
抱きしめて、
キスをして、
それ以上だって。
何でもしてやるのに。

僕の愛を込めた赤い糸は切られてしまった。
でも、どうしても繋がっていたい。
薬指に残った、糸の片割れは、まだ薬指に残っている。

また、繋ぎ直さないと。






帰宅して一息吐く為に珈琲を一杯飲みながら、棚から鋏を取り出しては、まるで指輪のように左手の薬指にある紐を見る。


『は?天地がひっくり返っても、俺がオマエと付き合うことなんてないっての』


私達が高専二年生の春に、悟に告白した時に言われた言葉だ。好きだった、本当に。
学生らしく皆で遊んで、任務を熟して、喧嘩もして、青春していたあの頃。悟と友人以上の関係になれたら、と思っていた。
でも、その言葉で私は悟った。
彼とは友人以上の関係にはなれないのだと。


「人の気持ちを、弄ばないでよ」


私と悟は友人だ。それ以上でも、それ以下でもない。
でも、いつだって心が掻き乱される。バカみたいだ。
でも、これで終わりにしたい。

鋏の刃を指と紐の間に入れると、その想いを断ち切るように切った。
ハラリと膝にその紐が落ちる。
しかし、薬指にはその紐の痕が残っていた。紐が擦れて、かぶれて傷になっている。
まるで指輪の痕のようなそれに私はぼんやりとそれを見つめた。

 その痕はまるで、呪いのようで。







***







「それで、紐の痕が残ったから消してほしいって?」
「そういうこと」


翌日、医務室にやって来ては、硝子にいつものハンドマッサージをしていた。
硝子は疲れが取れると喜んでくれる。少しでも役に立てたら嬉しい。


「五条がそんな行動を取ったのは、多分、私が涼華の見合い話を本人に言ったからだ」
「あぁ……すぐ断ったやつね。だからか」
「反応薄い」


驚いたり、動揺したりすると思ってたのだろうか。
私は硝子の手をマッサージしながら、自分の考えを話す。


「悟は独占欲が強いだけ。独占欲は恋人にだけあるものじゃない。友人に対してだってある。私に友人以上の関係の相手を見つけてほしいだけでしょ」
「独占したいと思われてるってとこには自信があるんだね」
「まぁ、悟の反応を見るに、そうだろうなって。天地がひっくり返っても、私とは付き合わないらしいから」
「ふ、根に持ってるな」
「乙女心を傷つけたんだから当然。もう、期待なんてしない」
「期待してないなら、何で見合い話を断ったの?」
「そりゃあ好みじゃなかったから」
「へぇ?」


彼女は揶揄うように笑う。
それに私は不満を表すようにギュッと手を握ると、彼女は「ごめんごめん」と口だけの謝罪をした。


「でもさ、五条が涼華を好きだと言ったら、付き合うだろう?」
「さぁ……悟は絶対、私にそんなこと言わないよ」
「どうしてそう思うの?」
「私と悟は友人以上の関係にはならないから。諦めた、何もかも。あの時からずっと」
「素直じゃなかった餓鬼の五条の言葉は信じて、今の五条の言葉は信じないんだな」


その言葉に、私は少し考えてしまった。でも、深くは考えないようにしていた。
あの頃の傷は未だに癒えてはいない。
悟らしいっちゃらしいツンデレなのかと思ってた。
でも言ってほしくはなかった言葉だったし、その翌日から、彼はその告白がなかったかのように、普段通りに過ごし始めた。それがもう、何年になるだろうか。
今更……


「お、涼華!やっぱここにいた!探し回ったんだけど。電話くらい出ろっつーの」


そこにやって来たのは悟。今一番会いたくなかった。
また何か用があるのか。

彼は意気揚々と私の前に歩いてくると、目の前に新品のハンドクリームを差し出してきた。明らかに男性用だ。


「何で私に?」
「特定の場所に置いとくのがいいんだろ?だったら涼華が持っててよ。で、マッサージして、ハンドクリーム塗って」
「何で私がわざわざそんなことしなきゃなんないの」
「だって昨日の、気持ち良かったし。思わず寝ちゃったよね……あ!しっかり残ってんじゃーん」


悟は私の左手を取ると、その薬指にある紐の痕を見る。
そして、自分の左手も見せた。そこには同じ痕がある。


「あは、お揃いだね」
「よく言うよ。女の子の身体を傷つけたって自覚があるのか?」
「いい傷だと思わない?」
「「思わない」」


私達がため息を吐けば、そこに補助監督が入って来る。そして硝子はその補助監督と共に出て行ってしまう。
二人きりにしてほしくなかったなぁ。

悟は硝子の席に座ると、私に手を差し出して来る。
マッサージしろってことだな、と私は黙ってそれを始める。


「嫌だったら嫌って言えばいいのに」
「嫌だと言ったら、やめてくれる人だっけ?」
「んー、物によるかな」
「悟は思い通りにならないと、駄々を捏ねる。それが面倒だから、悟の言うことを聞いてる。諦めてるの。私が何を言っても無駄だから」
「僕のこと、嫌いになった?」
「別に、嫌いじゃないよ。ただ、昨日みたいなことはやめてほしいと思っただけ」


淡々とハンドマッサージをしながら話すと、彼は突然、私の手を握り、思わず驚いて身体が跳ねた。


「何で?これはオマエが昔、望んだことだったでしょ」
「揶揄わないで」
「……天地がひっくり返ることよりも、大きなことが起こった」


思わずその言葉に反応する。
あの時の言葉だ。悟のことだから、忘れてるだろうと思ってたのに。


「何?」
「この僕が、オマエを好きになったこと」


その言葉に、キュウと胸が締めつけられる。
何を今更。振ったくせに。


「あの時は餓鬼だったから。オマエだってまだ、僕のこと好きでしょ。だから言えよ。あの時の言葉」
「言うわけない」
「何でだよ」
「散々、傷つけておいて。私は諦めた。なのに、好きになったから付き合えっていうの?自分勝手すぎるでしょ」
「僕はそういう男だって知ってるだろ。それこそ諦めろって。好きって顔に書いてる」
「うるさい。信じない、そんな言葉」
「何だよ、これでも僕は勇気出したんだよ?」
「知るか!私は昔、もっと勇気を出した!傷ついた!もう傷つきたくないの!」
「もう傷つかないようにする」
「信じない。私達はずっと、平行線。運命の赤い糸もない」
「だったら、僕が何度も繋いでやるから」


彼は私の腕を掴むと、そっと私にキスをした。身体がびくりと跳ねる。


「今度は優しくするから。僕と繋がって」
「……っ、分かったから、もう、いい」


包帯を取った彼の真剣な眼差しに、私は簡単に彼を許してしまった。
諦めようとしていた恋心はまた私の中で再び大きくなっていった。
指を絡めて来た彼は、そっと顔を寄せてくる。


「なぁ、見合い話は断るだろ?」
「は……?」
「だから、見合い話来てんだろ。隠すな」
「もうそんなの既に断ったけど……」
「何だよ、また硝子が騙したな」


見合い話はしたけど、私がすぐ断ったとは言ってなかったんだな。
だから急にあんな態度に……


「ま、いいや。そういや僕、独占欲強いからさ、諦めてね」
「……そうだね、諦めるよ」


ずっとそうやって来た。
私がふと笑えば、彼は少年のように無邪気な笑顔を見せた。


長い、長い、片想いだった。

今はただ、この呪いの痕が互いの薬指に永遠と残ることを願っている。











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