恋の行方。








呪術高専に来て、もうすっかり肌寒くなって来た季節。
私は、新しく買ったマフラーを首元に巻き、自販機でココアを買って、ホッと一息ついていた。
そんな所に、ふらりとやって来たのは五条くんだった。
私と同じココアを買い、ちらりとこちらを見た。


「何でわざわざ、こんなとこで飲んでんの?」
「寒い所で温かいのが飲みたくて」
「ふーん……」


そう言って彼はカコッとココアを開けて、私の隣でそれを飲む。
彼はマフラーもしていない、見るからに寒そうだ。


「五条くん、寒そう」
「別に」
「嘘、鼻が真っ赤だよ」
「うるせぇ」


何を強がってるんだろうか、と私は肩を竦め、ココアで身体がぽかぽかと温まってくる。
すると強風が吹いて、私は身を縮めると、彼は身震いした。


「さっむ」
「やっぱ寒いんだ。中入れば?」
「……」
「待ち合わせとか?」
「そ、じゃねーけど」


赤い鼻を啜った彼に、私はマフラーを解くと、彼の首に巻いてやる。
彼は驚いて背筋を伸ばし、私から離れる。


「貸してあげる。私はココアでポカポカしてるから。カイロも貼ってる」
「……」


五条くんはそのままマフラーに口元を埋めながら、ジッと自販機の方を見つめており、私は何を考えてるんだろうな、と思っていれば、彼は辿々しく話す。


「あの、さ、」
「ん?」
「俺達、付き合わねぇ?」
「えっ?」
「オマエ、俺のこと、好きだろ?だから……」


そう、彼は私に向き直り、私の顔を覗き込む。


「俺と、付き合って」


そんな唐突な言葉に驚き、私は、ココアを落として、五条くんの頬を拳で殴ってしまった。


「いっってぇ!!」
「っ、ご、ごめんなさい!!」


私は走り出していた。断る意味での『ごめんなさい』ではない。殴ったことへの『ごめんなさい』だ。
とにかく私はパニックになっていた。
だって、あの五条くんが、私に『付き合って』だなんて。しかも、私の行為がバレていたなんて。

校舎まで走って来て、その場で呼吸を整えていたが、すぐ背後から声がした。


「俺の一世一代の告白を断んのかよ!しかも思い切り殴りやがって!しかもグーで!」
「ご、ごめんなさい!!」


いつの間に、背後にいたのか。
彼の頬には私が殴った痕がくっきりと残っていて、申し訳なさと同時に、まだパニックになっている私は、近づいて来た五条くんをまた殴ろうとした。
しかしその手を掴まれ、振り解こうと必死で足掻く。


「は、放して!」
「襲ってるわけでもねーだろ!ジッとしてろ!」
「だって、恥ずかし、」


恥ずかしい。全部バレていたことが。必死になって殴り、逃げようとしていたことが。
顔に熱を帯びているのが分かる。
ダメだ、泣きそう。

その瞬間、五条くんは私の手を放したかと思えば、ギュッと私を抱きしめた。
私の頭は丁度、五条くんの胸の位置になる。目の前でドクドクと速い鼓動が聞こえ、彼の匂いに包まれた瞬間に、私は抵抗出来ず、ただ頭が真っ白になった。


「俺のこと、好きって言うまで、放さないからな」




彼はそのまま、何の反応も示さない彼女を抱きしめ続けた。そう、私達の前で。


「悟、くっさくて甘い台詞を吐いてるとこ悪いけど、涼華、気を失ってないか?」
「いきなり距離縮めすぎなんだよ」


彼女が自販機の前でボーッとしているのを見かけた私達は、気を利かせて悟に缶コーヒーのおつかいを頼んだつもりだった。
しかし、どうなったのか気になった私と硝子がそこに向かっていると、二人が突然、校舎へ飛び入って来たから驚いたものだ。

悟は私に指摘され、そっと腕の力を抜くと、フラッと彼女が倒れそうになり、悟はそれを抱える。


「なぁ、これって、成功ってこと?」
「どこがだよ。側から見れば、強姦魔だぞ」
「はぁ!?人聞きの悪いこと言うな!コイツが殴って来たんだよ!」
「怖いな、彼女のマフラーまで奪って」
「奪ってねぇ、コイツが巻いたの!寒いだろうって……なぁ、これ、もう俺のこと好きだよな。絶対そうだよな」
「知らないよ」
「放せ、強姦魔」
「絶対放さないからな!俺のもんだから!」


悟はそのまま走り去って行き、私達は呆れたようにため息を吐いた。


「あの二人、無茶苦茶だな」
「でも逆にお似合いだ」


誰にでも距離が近い彼女だったが、少なからず、悟のことは意識していた。
だから好意はあるのだろうと思っていたが、あんな取り乱し方をするとは思っていなかった。


「あ。動画撮り忘れてた」
「まさか、こっちに来るなんて思ってなかったからね」
「探して、撮るか


硝子は後で揶揄う用に欲しい、と探し始め、私もそれについて行った。
二人を見ていると飽きないな。




ふと気づけば私は、部屋の中にいた。寒くないし、見慣れた天井だ。
ぼんやりとした頭で、まだ眠いと思いながら布団を被ろうとした。
しかし、いつもと違ったのは匂い。私のものではない、そう思った瞬間、私は告白され、五条くんに抱きしめられたことを思い出した。

飛び起きると、ベッドを背もたれに携帯ゲーム機で遊んでいる五条くんの姿があり、更にはそこが私の部屋ではなく、彼の部屋であることに、ただ動揺する。


「五条、くん」
「まだ何にもしてねぇよ」
「まだ……」


彼はゲームの電源を落とすと、こちらを見る。
私はそっと布団から抜け出し、ベッドから下りようとするが、彼はそれを許してはくれない。私の方を向いて、マフラーを私に押し付けた。


「わっ!」
「なぁ、俺のこと好きなんでしょ?」
「す、き……」


バレていたことが恥ずかしい。マフラーで顔を隠しながら呟く。
しかし返事はなく、私はずっと待っていると、マフラーを顔に押しつけている私の左手に彼の手が触れた。
そして、そのまま手を滑らせていけば、私の耳や首筋にかけてを触れてくる。


「っ、」
「顔、見せて」


耳元でそう囁かれ、びくりと身体が震える。
そっと目だけを出して、五条くんを確認すると、頬を紅潮させ、まるで欲情したような目でこちらを覗き込む五条くんがおり、胸が高鳴った。
その蒼に何もかも見透かされているような、そんな気持ちにさせられる。


「ぁ……」
「じゃあ、付き合うだろ?」
「……うん」
「だろうな、好きなんだから、当然付き合うよな」


当たり前だというような口調をしているが、どこか嬉しそうで。
私は本当に五条くんと付き合えるのか、と夢じゃないのか、と考えていたが、彼はそんな混乱状態の私のことなどお構いなしに、こちらに唇を寄せてくる。
私はパニックになって、マフラーを彼の顔に押しつけ、後ろに逃げる。


「……オマエ、すぐに手ぇ出すのやめろ」
「だ、だって、」
「だってじゃねぇよ」


五条くんは私の両手を掴み、片手で持つと、私のマフラーでぐるぐると巻いて、縛り上げる。
一瞬の出来事に戸惑っていれば、彼は拘束された私の腕の中に自身の頭を入れ、抱きついて来た。
目と鼻の先に彼が現れ、私は更に顔に熱が集中する。


「ぅ、あ、」


後ろに下がろうとすると、五条くんの後頭部で縛られている手の所為で、彼を引き寄せることとなり、そのままベッドに倒れた。
彼は私に跨り、覆い被さりながら楽しそうに笑う。


「もう逃げんな」
「っ、」


私の唇を啄むようにキスをする。普段の荒々しさからは程遠く、優しく、優しく私に触れていく。
私も緊張でギュッと目を瞑っていたが、長く触れられていたからか、徐々に力が抜けていき、彼に身を任せていた。


「……続き、したいだろ?なぁ、涼華」


そう、甘えるように胸に顔を埋め、問う彼に、私は。



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