恋とは。
恋とは何か。
そう考えるようになったのは、高専にやって来て数ヶ月経った頃だった。
同期の女、涼華がただ気になって仕方がない。
胸がキュンとしたり、じわじわと熱くなる感覚。何か違うが、俺は彼女にムラッとしてるのか。欲求不満かな。なんて話を傑や硝子に言うと、
「それって恋でしょ」
と口を揃えて答えた。
恋?確かに俺は恋愛などしてきたことはない。
許嫁候補や、俺の顔や術式を見て擦り寄ってくる女ばかりだった。恋なんてもんはまやかしのように思えた。
そんな中、高専にやって来て、容姿も地位も俺にまるで興味がなさそうな、呪術に疎めの同期の三人は新鮮だった。
それにしても、俺が涼華に恋?馬鹿げてる。ただの欲求不満だ。最近抜いてないし。
「ねぇ、五条くん」
傑と硝子のいない自習中の教室で、棒付きキャンディを舌で転がしながら、ボーッとしていると、彼女が俺の顔を覗き込みながら話しかけて来た。
元々、人懐っこいような性格の女、何かしら下心でもあるんじゃないか、とも疑ったが、傑にも硝子にもこんな調子だ。
「それ、何味?」
「プリン」
「あ!私もプリン好きなんだよね、その次はストロベリークリーム」
「ふーん……飽きたしあげる」
そう言って俺は彼女の半開きの口に、自分が食べていたキャンディを詰めてやった。
すると彼女は目を丸くし、唖然としていたが、みるみる顔が紅潮していく。
そんな表情に、俺は思わずギュッと胸が掴まれたような違和感を覚える。
「こ、これ、五条くんが、食べてた……」
「いーでしょ、別に」
「……も、らっておきます」
大人しく隣に座る彼女は真面目に座学に勤しんでいる。
何か、ムラムラする。マジで欲求不満か。こんなこと、今までなかったのに、変な欲求ばかりが募っていく。
「なぁ」
「何?」
「恋ってどんな感じ?」
「えっ!?そ、そりゃあ、胸がドキドキしたり、一緒にいたいな、とか触れたいなとか、その人のことばかり考えちゃうな、とか……」
「ムラムラとかしたりしねーの?」
「す、する人はするんじゃないかな」
一緒にいて苦じゃない。寧ろ、楽しい。見ててムラムラするし、今、正にその紅くなった頬に触れたい。俺の頭の中はそのことでいっぱいになってる。
彼女の方に向き直ると、俺は彼女の頬を掴み、顔を上げさせる。動揺しているような彼女を見下ろすと、気持ちが昂った。
「恋を自覚した後って、何すりゃいい?」
「な、に……」
触れている彼女の頬は熱を帯びていて、触れた時から、俺の心臓は彼女に支配されているように、ずっとドクドクと鳴りっぱなしだった。
「教えろよ。じゃないと、欲のままに動いちまう」
そう言って、俺はそのまま彼女と唇を触れ合わせる。
熱くて、熱くて、キャンディが邪魔だ、と引き抜くと、唇に吸い付いた。
彼女はキュッと目を瞑り、俺が動く度に、びくりと身体を震わせていて。その行動一つ一つが、俺の胸を締め付ける。苦しいが、心地良い。
「ごじょ、くん……」
あぁ、好き。好きだ。俺にしか見せないその表情も、声も、体温も。オマエも俺と同じだろ?
「涼華、教えて。どうしてほしいか」
そっと彼女の胸に触れてみると、俺よりも速い鼓動が手に伝わった。
「……もっと、したい」
その言葉は俺の理性を失わせるのには十分で。
初めての恋も、初めてのキスも、キャンディのように甘ったるくて、俺好みだった。
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