俺の方が!








俺には好きな人がいる。
それを傑に伝えた時、アイツは衝撃的な言葉を口にした。


「……知ってたよ。悟が彼女を好きなことくらい。私も、彼女が好きだから」


親友と同じ人を好きになってしまった。傑はそんな素振りを見せないし、ずっと知らなかった。
衝撃もあったが、対抗心が芽生えた。当たり前だが譲る気はない。俺の方が、アイツに相応しい。

でもどちらかと言えば、傑が有利だ。そもそも女の扱い方も俺と傑じゃ何もかも違う。
自然とデートに誘うのが上手いし、気が使えて、人に優しく出来る。
俺にはないもので攻めていき、俺ばかりが置いていかれる。だからいい加減、俺は先に進みたい、そう思っていた矢先のことだった。


「あっ、悟、おかえり。任務終わったの?」


任務から帰って来て、喉が渇いたな、と自販機でジュースでも買おうとそこに向かうと、その場所に財布の小銭をジャラジャラと漁っている彼女がおり、俺に気づくなり、話しかけてきた。
この『おかえり』を毎日聞きたい。と思いながら俺はいつも通り、無愛想にポケットに手を突っ込み、小銭を探しながら話す。


「余裕だったわ。あんなの、俺じゃなくてもっと弱い奴に任せりゃいいのに」
「でも、私達はまだ学生だし。いくら悟が強くても、経験を積まなきゃいけないのかも。ほら、レベル上げだよ。絶対勝つ勇者にもレベルが必要なんだよ」


無愛想な俺にでもこうやって笑って接してくれる。可愛い、絶対昨日ドラクエしてたな、コイツ。
ポケットにあった小銭を使って、彼女の目の前の自販機にそれを入れていくと、カルピスを買った。
涼華はこの自販機ではいつもカルピスを買っているのを、俺は知ってる。そのペットボトルを取り、彼女の目の前にやった。


「気分が良いからあげる」
「ありがとう、百円玉が見当たらなくて」


だから探してたのか、と思いながら俺は甘いカフェオレを買った。
涼華は後ろに下り、壁にもたれ掛かりながらそれを開けると、それを飲む。
俺も隣で同様のことをすると、彼女はカルピスのラベルをジッと見ていた。


「カルピスって、悟みたいだよね」
「は?」
「ほら、白と青」


それを俺に見せながら、自身の髪と目を交互に指す。
俺の髪の色と瞳の色が同じだと言いたいんだろう。ガキかよ、クソ可愛い。


「単純すぎんだろ」
「やっぱそうかな。私、カルピス好きでよく買うんだけど、毎回思うんだよね」


それって、毎回俺のこと考えてるってこと?それを軽く聞けたら、一歩進めるはずなのに、俺はどうしても無駄にカッコつけようとしてしまう。
涼華はまた一口それを飲み、校舎の方へ視線を向けた。
あー、絶対つまんねーと思われてる。何か話題はないか、と考えながら、ペットボトルから離した艶のある唇を見て、息を呑む。
あぁ、触れたい。キスしてぇ、それ以上も。


「好き」


いい加減、前に進みたい。その気持ちの表れだった。
その言葉に涼華は「え?」と声を上げ、こちらへ視線が戻って来る。
俺の発した言葉に余程驚いたんだろう、目を丸くして、黒に近い茶色の瞳に俺が映り込んでいるのが見えた。
数秒ほど沈黙した後、彼女は「あぁ!」と笑ってカルピスを軽く上げる。


「カルピス?やっぱり悟も好きなんだ」


そうじゃない。このまま流してしまえば、いつも通りで楽なんだろうが、俺のその言葉にすら気づかない鈍感な彼女の返答に、俺の中の何かがプツリと切れた。

あぁ、もう、どうにでもなっちまえ。


「オマエが、好き、だから……付き合って、俺と」


内心では勢いよく言ったつもりだった。
でも実際、言葉として出たのは、辿々しく、弱々しいものだった。
カッコ悪い、めちゃくちゃ恥ずい。体温が上がっているのが分かる。
一方、涼華は茫然と俺を見ているだけ。
早く何か言えよ、どうせ断るんだろ。傑がいいとか言って。そう思っていた。


「いいよ」


俺にとっては意外な返答だった。だからか、何も言えずに喉がヒュッと鳴る。それに彼女は続けて話す。


「私も好きだよ、悟のこと」
「……マジで?」
「マジ。はは、悟は分かりやすいよね、知ってたよ」
「す、傑よりも俺だよな、俺だよな、やっぱ」
「え、そうだよ。傑は別に……友達だし」


鈍感じゃなかった。気持ちを知られてたし、両想いだし、めちゃくちゃ嬉しい……!
内心、俺は飛び上がるほど嬉しくて、全力疾走した時くらい鼓動が速い。


「大事に、する……」


ずっと触れたかった涼華に手を伸ばし、抱きしめる。
めちゃくちゃ良い匂いがするし、体は思ったより小さくて細い。
余裕ぶっこいてた傑に勝ったし、好きって言葉が聞けたし、抱きしめれたし、とにかく俺は今、幸せだった。


「はは、すごいドキドキいってる」
「うるせ、」


照れを隠そうと、言い放った言葉も、きっと逆効果だろう。




***




「どうだ傑、俺の勝ちだ!両想い!付き合ったんだよ!」


そう、俺は教室で傑に見せつけるように涼華を抱きしめながら話すと、傑と硝子は「おめでとー」と興味なさそうに返事するだけだった。


「は?もっと何かあるだろ、悔しいとか」
「先にどっちが彼女出来るか、競争してたの?」


 俺の腕の中でそう問う彼女に、傑はいいや、と悔しがるでも苛立つ様子もなく、笑いながら話す。


「悟がずっとうじうじと君に片想いしていたからね。ライバルがいた方が進展あるんじゃないかと思って、私も君が好きって言ったんだよ」
「あ、だから傑のこと言ってたのか……」


彼女は納得していたが、俺は納得出来ずにいた。
マジで言ってんのか、コイツ。俺が涼華のことが好きだと言ってたのに、デートに誘ったりしてたじゃん。腹立つ。


「もどかしいっていうか、面倒だから、さっさとくっつける方法ないかって、夏油と相談して、そうなった」
「作戦は成功したみたいだね。良かった良かった」
「よくねぇ!焦ったわ!!」


硝子と傑の作戦は腹立つが、でも何か安心した。涼華を誰にも取られることはない。コイツは俺が好きだし、俺だけの……


「あー……バカみてぇ」
「でも私、悟から告白してほしかったから嬉しいよ」


そうヘラヘラと笑う涼華が愛おしく思えて、好きだと大声で叫びたくなるが、恥ずかしいし、言えるはずもない。


「バッカじゃねーの……」


言葉として出てくるのはその程度。それでも彼女は幸せそうに笑うのだから、俺を理解してくれている。それが何よりも嬉しくて。


「好き……」


また洩れた本音に、傑と硝子はニヤニヤと笑い、涼華は照れ臭そうに俺の手を握った。


「私も好きだよ!」


あぁ、俺、セイシュンってやつをしてるんだなって、胸が苦しくなって、彼女を力一杯抱きしめた。






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