私達の証







「そろそろ私達、結婚しようか」


学生の頃から付き合い始めて、十年は経っただろうか。
結婚なんて、考えていないんだろうな、なんて思い始めていた頃、彼とお洒落なレストランへやって来た。そこで唐突に指輪を取り出し、プロポーズされた。
断る理由なんて、何一つない。きっと彼もそう思っての言葉だったのだろう。
私はよろしくお願いします、と指輪を受け取った。


「でも、どうして今?」
「同棲を初めて、今日で一年……君と衣食住を共にすることが、これだけ幸せだとは思っていなかった。術師は常に死と隣り合わせだけど、これから先も、君と家庭を築けていけたら、どれだけ幸せなことだろう、と考えていたんだ。だから君の一生が欲しい」
「……じゃあ、傑の一生も貰うね」
「あぁ、君にしかあげないよ」


私の左手をそっと取ると、薬指に指輪を嵌めた。


「君に、私との証を残せるのは嬉しいことだね」
「じゃあこれで、首のキスマークはつけなくて済むね」
「それとこれとは話が違うな」


嬉しくて、恥ずかしくて、幸せで。傑に告白した時と同じくらい、ドキドキして。
それを隠すように、少し茶化しながらも、私は彼と夫婦になったのだ。




***




「えっ!夏油先生、結婚してたんだ!」


私は呪術師、傑は呪術師兼教師。
傑は任務以外のほとんどを高専で過ごしていた。
教師という立場もあり、彼は生徒と過ごすことも多い。
今日は久々に、傑が一年生と会話をしているのを見かけた。
虎杖くんは傑が結婚していたことに驚いており、伏黒くんも野薔薇ちゃんもそういえば、と彼の左手を見ていた。


「あぁ、ついこの間ね」
「そもそも、恋人がいるだなんて思ってなかったわ」
「夏油先生はモテる」


どこかで何かあったんだろうな、と伏黒くんは何かを思い出したようにふと息を吐いた。


「誰?俺達の知ってる人?」
「皆会ってるよ。この間、引率してもらっただろう?」
「え、もしかして……!」
「それよりも、今回の任務だけど……」


そうして彼らは任務について話し始めた。
そういえば、私は生徒達に傑とは恋人で、結婚もしているなんて言ったことなかった。
知っているのなんて、悟や硝子を初めとする、共通の友人くらいではないだろうか。
傑は聞かれても、私の話をしたり、ひけらかしたりしないんだなぁ。
私は散々、硝子に自慢げに話しちゃった。
そう思いながら、彼らの側を通り過ぎて任務へと向かった。



そんなことがあった今日は早めに帰宅することが出来た為、傑も夜には帰るということで、私は夕飯の支度をしていた。

ハンバーグは上手く出来た。スープやサラダ、おひたしなども作って、傑が帰ってくるのを使った調理器具を洗って待っていた。
すると、玄関からガチャリと扉が開く音がした。
帰って来た、と私はおかえり、と声を掛けると、ダイニングに入って来た傑はキッチンに立つ私を見て、笑顔を向ける。


「ただいま、いい匂いがする」
「今日はハンバーグだよ」
「うん、美味しそうだ」


そう、キッチンに置いている料理を見てから、彼は洗面所に手を洗いにいく。
スープを温めて直し、盛り付けを始めた私の元へ上着を脱いで、軽装になって戻って来た傑。
彼は私の背後にピッタリとくっつくと、それを覗き込む。


「……涼華、指輪は?」


傑はそっと私の左手に指を絡ませる。私の手に指輪はない。


「料理してたから、外したの」
「指輪つけながらでも出来るだろう?」
「え、ずっとつけておかなきゃいけないの?」
「つけていてほしい。いつだって君は私の物だって分かるだろう?ほら、つけて」


キッチンカウンターの小皿に置いていた指輪に気づき、それを取ると、すぐに私の薬指に嵌めた。
独占欲などあったのか。昼は話題をかわしていたというのに。


「夫婦になるって、いいね。涼華の全ては私の物って感じがして」
「傑って独占欲あったんだね」
「見せていないだけだよ。だからずっと、私達の証を身につけておいて?」


返事をする間もなく、彼は私の唇に吸いつくと、これから行為をするような甘いキスをしてくる。


「傑、夕飯、食べなきゃ」
「そうだね、折角作ってくれたんだから」


彼はキッチンから料理を取っていき、ダイニングテーブルへと持って行くと、私はその場で、薬指の結婚指輪を撫でる。
少し見せた彼の独占欲が嬉しくて、思わず口元が緩んでしまう。


「冷めてしまうよ?」
「食べるよ」


何気ない一時。
あぁ、これが幸せなんだね、傑。










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