味覚でさえ私のものに
教室で呪術についての資料を読み漁りながら、私は糖分が足りない、とポケットに忍ばせていたグミを口に入れる。
それを隣の席でジッとこちらを見ていた恋人の傑は、グミの袋を取りながら、小首を傾げる。
「涼華、こんなの食べていたっけ」
「いや、甘い物が頭の回転が良くなったり集中出来ると聞いて。それ、悟のオススメだって。チョコもある」
ひとつひとつ包装された一口サイズのチョコを取ると、ひょいと彼に投げる。
「そんなに甘い物、好きじゃなかったろう?」
「食べてたら好きになってきた」
私は噛みごたえのあるグミを噛んでいると、傑はふーん、と何やら意味ありげな相槌を打つと、私は視線を本から傑へ向ける。
「どうしたの?」
「何だか、悟好みの味覚になっているのが、気に入らなくてね」
そんなことで?と私は態とらしく肩を竦めてみせると、彼は不満そうにまたグミを食べた私の顎を掴む。
「味覚であっても、悟の物って気がしてならないね。私の味を覚えてくれ」
彼は私にキスをすると、口の中に残っていたグミを器用に舌で掬い、自分の口へと移動させた。
「どこに嫉妬してるの……」
「私って結構、嫉妬深いんだよ?」
「知ってる」
そう答えると、私はこれじゃあ集中出来ないな、と本を閉じる。
「教えて、傑の味」
「もう日が暮れる。丁度良いね」
少しばかり彼に不純なことを期待する。
準備があるから、また後で部屋で待ってるよ、とそのまま別れた。
メールが来て傑の部屋へ行くと、用意されたのはざる蕎麦。
大好物なんだ、と話す彼に、私は私の味、を変な意味に捉えてしまっていて、そっちか……と内心で呟いた。
久々に食べたざる蕎麦は美味しかった。
「うん、美味しい」
「良かった。それじゃあ今度は、涼華が期待しているような味を教えてあげよう」
悪戯っぽく笑った彼に見透かされていて、私は恥ずかしくなった。
甘ったるくなった口はきっと、苦いものになるに違いない。
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