嘘に嘘を重ねた結果









今日はエイプリルフールだ。
同期に何の嘘をついてやろうか、と教室に向かいながら考える。
ここは無難に彼氏が出来た、でいいか。
お、いい所に悟がいる。
廊下を歩いていたら彼におーい、と声を掛ける。


「悟、聞いて!」
「うるさ、何?」
「私、ついに彼氏が出来たんだよ」
「マジ?相手誰?」


すごく冷静に対応してきた悟に、私はただ戸惑う。
もっといいリアクションを期待してたのに。というか、そこまで細かい設定を考えてはいなかった。


「えーと……背が高くて……」
「クイズ形式かよ。傑?」
「あー、そうそう、傑」


もういいや、大きいリアクションが欲しい。
そりゃ驚くでしょ、傑と私がいきなり付き合い始めたら。


「驚きもねーわ。ヨカッタネ」
「えー!もっといいリアクションが欲しかったのに」
「朝から何の報告だよ、お前ら」


お前ら?

私はハッとして振り返ると、真後ろに傑がいた。全部聞かれてたのか。
なら、傑に嘘は吐けないかな。あとは硝子だけ。


「今日、エイプリ……んっ!?」


傑はいきなり私の顎を掴むと、キスをしてきた。
頭が真っ白になり、やけに長いそれにハッと気づいてパニックになる。
苦しい、と感じていると、彼はやっと離れる。
腰が抜けそうになる私を支えて、傑は呆れている悟に笑顔を向けた。


「報告が遅れたね、悟」
「朝から見せつけんなよ、めんど」


何が起こった?とボーッとしている間に、そこに硝子がやって来ると、悟は私達を指す。


「やっと付き合ったんだって」
「マジ?ヨカッタネ」


どうでもよさそうにさっさと教室に入って行く彼らに、私は混乱する。
すると、傑は私の顔を覗き込む。


「言霊って、分かるよね?」
「へ?」
「例え嘘や冗談だったとしても、言葉にすれば、それが現実になることもある」
「エ、エイプリルフール……」
「関係ないね」


そう言って彼はまた私に軽く触れるだけのキスをした。


「もう、嘘だとは言えないね?」


悪戯っぽく笑った彼に、私は後に引けないと感じた。


嘘が現実になった瞬間でした。










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