道を聞こうとしただけなのに
上京した友人の家に遊びに行こうと田舎から出てきた私は、何か手土産でも買って行こうと駅を離れたのが間違いだった。
手土産は買えたものの、向かおうとしていた駅に辿り着くことが出来ない。
携帯に表示されたマップはどこを指しているのかも分からず、道に迷ってしまった。
こんなことなら、地元で手土産を買っておくべきだった、と後悔する。
とにかく道行く人に道を聞こうと、声を掛けるが、立ち止まってくれない。
ふと、白髪に丸いサングラスをした男性が携帯を弄りながら店の前で立ち止まっており、誰かと待ち合わせしているようにも見える。
迷惑かもしれないが、かれこれ三十分も同じ所をグルグルしている為、背に腹はかえられない。
「あ、あのー……」
「ナンパはご遠慮くださーい」
彼は近くで見ると外国人かなと思うほど整った顔立ちと青い瞳を持っていて驚いた。
一瞬私を見て、気怠そうにそう言い放つと、私は思わず萎縮してしまう。
ナンパじゃなくて、道を聞きたいだけだったのに。
「そ、じゃなくて……」
「声ちっさ」
ナンパと思われているのもそうだが、何だか自分の行為が恥ずかしく思えて来て、声が小さくなってしまった。
そんな時、彼が立っていた店から黒髪で切れ目の男がやって来る。
「遅ぇよ、傑。待ってる間にナンパされた」
「す、すみませ……」
恥ずかしくて、ギュッと携帯を握って去ろうとすると、黒髪の彼は待って、と優しく声を掛けてくれた。
「何か困りごとかな」
「えっ」
「道?」
「は、はい。ここにいたはずなんですけど、この駅までの帰り方が分からなくなって……」
「そうか。ここの駅は分かりにくいよね。それに、この携帯の地図も分かりにくい……紙とペン持ってない?」
「あります」
私はバッグからメモ帳とペンを取り出すと、彼に差し出した。
「ごめんね、彼を随分と待たせてしまったから、機嫌悪いんだ」
「何で傑が謝んの?てか、ナンパじゃないなら言えばいいのに」
「その高圧的な態度をどうにかしろ」
ちょっとした口喧嘩をしながらも、黒髪の彼は丁寧に地図を書いてくれると、手渡してくれた。
「はい。この道を進んで、高架下を通るんだ。ここがややこしいよね」
「あ、ありがとうございます……!」
「どういたしまして。お礼、したくなったら……」
そう、メモ帳の次のページをぺらりと捲ると、そこには連絡先が書かれていた。
「ここに、連絡して?」
「は、はい……ありがとう、ございました!」
彼はにこりと笑うと、私はこちらがナンパされたのか?と恥ずかしくなり、ドキドキしながら足早にその場を立ち去った。
「傑がナンパしてんじゃん」
「いいだろう?可愛かったし」
「連絡来たら俺にも教えて」
「断ってたじゃないか」
「ナンパしてくる奴が面倒なだけ」
「冷たい男には教えないよ」
「ずっる」
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