「ぎゃははははっ!お前らこんな弱そうな奴に手こずってたわけ!?そりゃ傑作だわ!」

「いやまじでナメない方が良いっすよ。鉄パイプで殴られて血だらけになっても暴れてましたからね」

「…へぇ、面白いなこいつ。お、なんかポケットに入ってんじゃん。…んだよタバコかよ。しかもメンソール」

朦朧とする意識の中で男たちの会話が聞こえてきた。しかし頭が痛すぎて何を話しているのか聞き取る余裕はない。それでも軽快な音楽やラップ音がずっと流れていることは分かった。
…そうか。俺は途中で気を失って見知らぬ場所に連れて行かれたらしい。ここはどこだ。

「これ押し付けたら起きんじゃね?」

「それ良い考えだわ」

「あ"あ"っ!!」

「ジュッ」という音とともに、鎖骨に焼けるような痛みが走った。
いや、これは焼けている。
頭痛をこらえながら目を開ければ、俺の腹に跨っている男が火のついたタバコを鎖骨に押し当てていた。
なんだ根性焼きかよ。熱した鉄でも当てられたのかと思った。ビビらせやがって。
俺は目を開けたついでに目の前の男を睨みつけた。

「この状況でガン飛ばすとは肝が座ってんねぇ。俺、お前みたいなやつが顔を歪ませるところ見るの大好きなんだよな」

男はそう言いながら根性焼きした部分をつねってきた。皮膚をえぐられるような痛みが体を襲う。思わず声を出しそうになったが、唇を噛んでどうにかこらえた。

今すぐぶん殴りたいが、手は拘束され、腰にはこいつが跨ってるため足も使えない。圧倒的に不利なのは俺だ。胸糞悪いが、ここは下手に出て少しでも状況を良い方向に持っていくのが賢い。ぶん殴るのはその後だ。

「何が目当てだ。金か?それともお前の手下を殴ったことに対する謝罪?」

「そんなまさか。金も謝罪も興味ねーよ。ただお前で遊びたいだけ。交渉しようとか余計なこと考えても無駄だぜ?」

全部読まれてるってか。しかも愉快犯ときた。悪趣味な野郎だな。これは話し合おうとする分無駄な努力だ。
俺は喉に力を入れ、目の前の男に向かって唾を吐き出した。

「ふっ。その面よく似合ってるよ」

俺が飛ばした唾は男の頬に見事ヒットした。昔から梅干しの種とか飛ばすのが得意だったからな。驚異的なコントロールは今でも健在だ。
呑気にそんなことを考えていたら頬を殴られた。まぁ当たり前か。
というか頭怪我してんだから手加減しろよ。
マシになってた目眩が再び俺を襲った。

「お前いいね。ますます気に入ったわ」

男は片方の広角を上げて薄く笑うと、俺の前髪を掴んで上を向かせた。その衝撃で頭痛が激しさを増す。痛みで顔を歪めていると、徐々に男の顔が近づいてくるのが分かった。まさかと思えば、時すでに遅し。俺は唇を重ねられていた。
まじかよこいつ、ありえねぇ。
首を左右に振りながら抵抗した。しかし男は止めるどころか俺の唇をべろりと舐め、咥内に舌を入れようとしてくる。俺は全身に鳥肌を立たせながら口を固く閉ざした。
すると男が俺の鼻をつまんできた。こうなれば息ができない。口を開けてしまうのも時間の問題だ。

「……っぷは!…はぁっ…やめっ、んっ…」

息苦しさに耐えきれず口を開ければ、すかさず熱い舌が入ってきた。逃げる俺の舌を追い回すように咥内で暴れる。
気持ち悪い。
このまま奴の舌を噛みちぎろうとしたときだった。端で見てたオレンジ頭が俺の股間をやんわり踏みつけた。
お前元気そうじゃねーか。ムカつく。肋骨一本ぐらい折っとけば良かった。

「このまま踏み潰されたくなかったら大人しくしてろよ?」

オレンジ頭はしてやったりな顔で軽く足に力を入れた。
あーあ、息子が人質に取られちゃったよ。まだ首にナイフを突きつけられた方がマシってもんだ。それだったら躊躇なく噛みちぎってたのに。この状況だったら死んだほうがマシだし。
だが男というのは悲しい生き物で、いざとなると股間だけは生贄にできない。それに潰されたところで死ねないからな。それはただの生き地獄だ。
俺は背中に悪寒が走るのを感じながら抵抗することを諦めた。



「んっ…ふっ…」

「従順なら可愛いのにな」

ようやく反吐が出るようなキスから解放されたと思ったら、目の前の男は可愛いとか抜かしやがった。
頭おかしいんじゃねーのこいつ。俺は男だ。しかも自他ともに認める平凡顔。せめて格好いいと言って欲しい。

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