俺は玲とてきとうに別れを告げた後、校舎裏で一服してから校門を出た。
いつもの見慣れた帰り道。これまたいつものようにぼーっとしながら歩いていると、何かが肩に勢いよく当たった。気を抜いていた俺はその衝撃で体が後ろを向く。

「…ってぇ」

どうやら向かい側から歩いてきた人にぶつかってしまったらしい。それにしてもなかなかの強さだ。お年寄りとかだったら申し訳ないなと思いながら顔を上げれば、そこに立っていたのはイイ感じのお兄さん。真っ先に目に入ったのは、オレンジの髪に無数のピアス。
彼は下品な笑顔でこっちを見てきた。その横にも同じような人間がちらほら立っている。
これは良くない状況ですねー。

「どこ見て歩いてんだよ、あ"ぁ?」

オレンジ頭が予想通りのセリフを吐きやがったので笑いそうになった。お前みたいな奴らの思考回路は全部同じなのかよって言いたくなるぐらいだ。
しかしここで挑発をするのは得策ではない。無駄な争いをしたくない俺は穏便に済ませることにした。

「夢見ながら歩いてました。すんませんね」

「ふざけたこと抜かしてんじゃねーぞッ!お前のせいで怪我したんだよ!どうしてくれんの?病院行かなきゃなんねーから治療費出せや」

どうやら火に油を注いでしまったらしい。
これだからジョークが通じない奴は困っちゃうよ。おまけに「治療費出せ」とか言ってきた。こいつ絶対金目当てでわざと当たってきただろ。俺この見た目だからよくカツアゲされるんだよね。その度に玲が腹抱えて爆笑してる。見てねーで助けろってんだ。
思い出したらなんかイライラしてきた。

「おいテメェ無視してんじゃねーよ。ママから貰ったお小遣いちょっと分けろって言ってんだろッ…!!!」

オレンジ頭が握り拳を作ったのを見て、殴りかかろうとしているのが分かった。
どうしたものか。
避けるだけにするか、それとも一発腹を殴ってみるか。でも俺めんどくさいの嫌なんだよなぁ。

結局俺は体の重心を反らして奴の攻撃をかわすだけにした。俺の行動を見たオレンジ頭とその周りはマヌケな顔をしながら驚いている。そんなに意外だったかよ。
なんか随分なめられてるなぁと思っていたら、今度は胸ぐらを掴まれた。オレンジ頭はニヤリと気色悪い笑みを浮かべる。これでもう避けられないってか。
仕方ない。これは正当防衛だ。

「…ガハッ…!」

俺はオレンジ頭が殴りかかってくる前に襟を掴んで腹に膝を入れた。
今の鳩尾入ってたなぁ。うわ、ゲロ吐いてるし。きったね。

オレンジ頭が戦闘不能になったところで俺は鞄を拾い、踵を返して歩き始めた。はやく山崎の家に行ってくつろぎたい。

「おい!待てよッ…!」

「…ってぇなッ!」

完全に周りの奴らを忘れていた。
足早に去ろうとしているところを後ろから殴られた。
あまりにも卑怯じゃない?
さすがに頭にきたので頭突きをした。ちなみに「頭にきた」と「頭突き」をかけたわけじゃない。俺が持ってる技で1番自信あるのが頭突きなだけ。自慢じゃないけど俺めちゃくちゃ石頭だから。あの玲でさえ涙目になってたぐらい。

「いち、にー、さん、しー…」

後ろを振り返って人数を確認すれば、見た感じ4人はいた。
多いよ…。集団で一人を虐めるのは良くないと思う。
俺はブレザーを脱ぎ捨て、ネクタイを緩めた。そして指をポキポキっと鳴らす。突き指をしたら大変だからね。ただの格好付けではない。断じて違う。



「…はぁっ…はぁっ…ざまぁねーな」

俺の足元に転がる4人のチンピラ。大勢で喧嘩しかけておいてこんな平凡一人に返り討ちにされるなんて黒歴史確定だな。可哀想に。むしろ同情するよ。
俺はオレンジ頭に近寄ると、目を合わせるようにウンコ座りをした。…あ、ヤンキー座りって言った方が良かったかな。

「僕、マザコンだから本気出しちゃったっ!………人を見た目で判断すんじゃねーよクズ」

お星様が付きそうなぐらい声音をあげて言った後、ガン飛ばしながら捨て台詞をかけてやった。
徐々に怒りで奴の表情が歪んでいく様が面白い。しかしこの期に及んで睨みつけてくるのは気にくわない。癪に触るのでまつ毛を全部引っこ抜いてあげた。ブチっていう感触が癖になりそう。
奴が生理的な涙を流したところで、スッキリした俺は「じゃあね」と声をかけて立ち上がる。
今度こそこの場を後にしようと思った時だった。


ガンッ

「…っ!」


急に頭に激痛が走り、頬に生ぬるい液体がつたった。ワイシャツの襟が赤に染まっていく。そこで自分が後ろから鈍器で殴られたことに気がついた。視界がぐるんぐるん回り、ついに膝が地面につく。後ろを振り向けば見知らぬ奴が鉄パイプを片手に笑っていた。
くそ、まだ他にいたのかよ。だから後ろからは卑怯だって言ってんだろーが。
俺はどうにか体制を持ち直し、ジリジリと歩み寄ってくる鉄パイプを持った男に殴りかかった。


戻る

2/7

一覧