涼 味

カメラが回る合図を聞いて、閉じていた目を開いた。今の私はアサ。夏休みにおばあちゃんの家に来てる女子高生。

カチンコが鳴らされる。



「『おばあちゃん、久しぶり』」
「『アサちゃん、大きくなったねぇ、ゆっくりしておいき』」
「『ありがと』」

靴を脱いで、おばあちゃんに案内されるまま廊下を歩く。
すると、障子が開いて、そこからひょっこりと顔を出すのはナツキ。ひとつ上の従兄弟、会うのはすごく久しぶり。


「『アサ?』」
「『ナツキ…?来てたんだ』」
「『まあな、受験勉強のために邪魔されないばあちゃん家に篭もってる』」
「『ふーん、頑張ってね』」
「『おう』」



「はいカット!」


次は一緒にご飯を食べるシーンの撮影。

スタッフさんに小道具のお泊まりのための大荷物を渡して、上着を脱ぐ。メイクさんがほんの少しチークを足してくれた。



「皆さん今日はお疲れ様ですー」


監督さんの挨拶でその日の撮影は終わった。

家の中の撮影が中心で、おばあちゃん役の女優さんと私、ナツキ役の皇さんが大活躍。


「皇さんお疲れ様です」
「名字さん、お疲れ様。見ないうちに演技上手くなったか?」
「え!本当ですか!そろそろ女優名乗れますかね」
「まだモデルだろ。もうちょい頑張れ」
「むむむむむ」


からかうように笑う皇さんと別れて、マネージャーさんの車に乗り込んだ。


今日は新しく始まる連続ドラマの撮影だった。
主演は私、なんと初主演。
恋愛モノで、今日は撮影にいなかったけど今をときめく人気アイドルの男の子が演じるソラと、実力派俳優の皇天馬が演じるナツキの2人の間で揺れ動くさまを描くストーリー。
要は三角関係モノだ。王道な感じでラストはちょっと泣ける感じ。涙もろい私は台本読んで泣いた。


アイドルの男の子は、一緒に仕事をしたことがないので正直ちょっと不安だ。
でも、ナツキ役の皇さんは、以前私が端役として出たドラマで共演していて、年齢が近いからかよく気にかけてもらった。

私は元々は雑誌のモデルで、そこから少しずつ映像に出させてもらうようになってきていている。だから、演技はまだまだ。それを何とかしたくて、以前、皇さんにアドバイスを貰ったことがあったのだ。
今回お褒めいただいたのは正直かなり嬉しい。だって皇天馬だ、子役からずっと活躍してる皇天馬。
でもまだモデルに毛が生えたようなもんなので、もっとカメラに映る自分を研究して自然な演技ができるようになりたいなぁ。


「明日からの撮影は藤田くんも来ますね」
「そうですね」
「楽しみじゃないんですか?」
「もー、今更イケメンに会えるくらいで喜んだりしないです」
「あれ、名前ちゃんが仕事の度にかっこいい人に会って喜んでるのを見るの、結構楽しかったんですけどねぇ」
「佐々木さん性格悪い!」
「あはは」


藤田くんっていうのがソラ役のイケメンアイドル。超人気アイドルグループの中でもトップクラスの人気。甘いマスクと王子様キャラのいかにもなアイドルで、あざとい感じも人気がある。
佐々木さんはマネージャーさんね。既婚男性、36歳、趣味はサイクリング。


「うーん、私、カワイイ系タイプじゃないんで」
「へぇそうなんだ」
「男らしい引っ張ってくれる人がいいです」
「ふーん」
「なので佐々木さんみたいになよなよしてる人はダメですね」
「なっ?!失礼だよ名前ちゃん」
「冗談ですよ、奥さんの前では男らしいですもんね?」
「ンーーー?まあ、ウン、そうだね」
「なんですかその反応!だめですよシャンとしないと!奥さん出産も近いんでしょ、支えてあげなきゃ」
「女子高生にこんなこと言われるなんて…」
「私も女なんで、奥さんの味方なんで」



マネージャーさんはちょっと頼りないところもあるけど基本的にはデキる大人です。


今日は初日の撮影であんまり長くなかったけど、明日からはお外での撮影もある。気を引き締めていかなきゃ。

そんなこんなで私の初主演ドラマ。
成功させるために頑張っていきます!


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