一途で



「クズだな」

 以来続く私のモヤモヤの解消法を知っているのは硝子だけだった。ダウナー系美少女は、煙草の煙を吐き出しながら今回も的確な指摘を下してくれる。
 ここは校舎裏の焼却炉前。現在通算29回目となる傑へのお手紙を焼却中。今回はちょっぴりセクシーな年上のお姉さんからのメモだった。メールアドレスと電話番号と良かったら連絡して、と一言添えてあったように思う。
 校舎の壁に背中を預けたまま蹲る私に再度「クズ」と硝子が呼びかける。否定出来ない。硝子はよく五条や傑の事をクズと言うが、私もれっきとしたクズの一人だ。

「五条宛の手紙はちゃんと渡してるんだろ?」
「うん。五条はまあいいかなって」
「温度差に引く」
「五条のまで燃やしてたら私ただの異常者じゃん」
「今のままでも十分異常だよ」

 それに、硝子が短くなった煙草を携帯灰皿に押し付けながら続けた。

「夏油は本気の告白は蹴るけど、その場限りならちゃっかり遊んでるだろ。絶対」
「あー!! 言わないでよ!! ああー!! 聞きたくなーーーい!!!」
「現実逃避が煩すぎる」

 煩いのは申し訳ないが叫ばずにはいられなかった。硝子の指摘は、なんとなく分かっている事だったので余計につらい。
 任務で朝帰りは当たり前として、傑はたまにやけに良い香りをさせて帰って来る事がある。あと土曜日の夕方に突然出掛けたりとか。ああ、ダメだ。考えたくない。想像するだけでショックを通り越して吐き気まで催してしまう。
 途端にえずき出した私の頭に「ちょっと本気で吐くつもり?」と口では悪態をつきながらも背中を撫でてくれる硝子の優しさに涙が出る。

「好きだよ硝子……傑の次に」
「うわ、こんな嬉しくない告白初めて」
「やった……硝子の初めてもらっちゃった、うえっ」

 口元を手で押さえて唸る事数分、硝子が背中を撫でる手をいい加減なものに変えて来た頃、校舎の窓が開いた。私の名前を呼ばれる。振り返らずとも声の主は分かった。傑だ。

「あれ、具合でも悪いのかい?」
「どっかのクズのせいでな」
「悟?」
「ハハ、冗談」

 恋心とは偉大だ。好きな人の前で嘔吐するなんて恥ずかしい真似は絶対にしたくない一心で、喉元まで出掛かっていた物を飲み下す事に成功した。頭上で繰り広げられる傑と硝子の会話の不穏さに一筋の汗を垂らしつつ振り返ると、細い眉をハの字に下げた傑と目が合った。

「大丈夫かい? 体調が悪いなら私に言ってくれればよかったのに」
「だ、大丈夫。それより私に何か用?」
「ああ……次の任務だけど、私とペアだから宜しくって言おうと思ってね」
「え"」
「なに、その反応。私との任務は嫌だとでも?」
「違う、けど」

 好きな人とずっと一緒にいられるのだ、傑との任務はすごく嬉しい。けれど高確率で目撃する事になるあの光景を考えると一気に具合が悪くなる。
 胃の中に戻って行ったそれが逆流して来るのが分かった。何なんだ、私は病気か。傑病なのか。ふざけた事を考えて気持ちを落ち着かせようとするけれど勿論効果なんてない。硝子が「おい、マジか」と呟き、只事ではないと悟った傑が窓枠を飛び越えてこちらへ着地する。大きくて温かい手が背中に触れた。その瞬間耐えきれなくなってリバースした。その間、傑は引く事なく背中を撫で続けてくれた。優しい。好き。

「う、ごめ、ごめん」
「大丈夫、謝るな。私こそごめん。朝、君の体調の変化に気づいてやるべきだった」
「すぐるは、悪くないぃ」
「泣かない泣かない。硝子がタオルとスポドリ買いに行ってくれたから、気持ち悪いだろうけどもう少し我慢するんだよ」

 アンタは私の保護者か。そう茶化してやりたいのは山々だけど今の私にその気力がある筈もない。好きな人の前で吐いたショックとまたあの光景を見る事になるかもしれない恐怖。二つの間に挟まれた私の心はしおしおに縮んでしまっているようだった。

「なんだよお前、任務が怖くて吐いたって?」

 落ち着いて教室に戻るや否やの五条の発言である。頭には来たが反論はしなかった。傑の鉄拳が五条のふわふわ頭に落とされたからだ。

 そうしてやって来た任務当日。任務地は県の山奥にある小村だそうで、任務地までは新幹線と市電、そして路面バスを乗り継いで向かう事になった。

「帰りは補助監督が迎えに来るってさ」
「よかったぁ……この長旅と乗り継ぎ疲れるわ……」

 新幹線で一時間。市電で二時間。そして今、目的地まで一時間は掛かる路面バスを待っている。高専のある莚麓山くらいの田舎町には人気があまりなく、バス停で待っているのも私と傑だけだった。途中自販機で買った地元名産の緑茶で乾いた喉を潤していると、目の前に小さな袋が差し出される。カップケーキが二個入っていて透明な袋の開け口には可愛らしいリボンが巻かれていた。

「食べる? 高専の正門前で君を待っている時にもらったんだ」
「……私にやるのはマズくない?」
「確かにあまり良くはないかもしれないが、私ひとりじゃ食べきれないから手伝ってほしいんだよ」

 多分、高専最寄り駅でチラチラこちらを見ていた年下っぽい女の子から貰ったのだろう。手紙がついていたらしきシールの剥がし跡を目敏く見つけてしまう自分が憎い。こみ上げる物をグッと飲み込み、傑の手から袋を奪う。片方はチョコ、もう片方はレーズン入りだった。傑はあまり甘い物が好きではないので必然的に私がチョコ入りのカップケーキを食べる事になった。半ば自暴自棄になって齧り付いたカップケーキは手作りらしい暖かな味がした。美味しい、多分私より上手だ。
 想いが詰まったそれを、第三者の、しかも想い人の幼馴染なんてふざけた位置にしがみついている私が食べているなんて彼女は夢にも思わないだろう。私なら三日間は寝込む。ごめんね、ごめん、ごめん。一気に頬張り嚥下した。傑はまだ三分の一しか食べていなくて、肩で息をする私に「そんなにお腹が空いていたのかい?」と楽しそうに笑った。足りないのなら、と差し出されたレーズン入りのカップケーキも一気に口の中に放り込んだ。レーズンは嫌いなのに、後で具合が悪くなっては困るのに、私の汚い意地であの子の想いをほぼ全て私の胃に収めてしまった。

「ごめんなさい」
「いいよ。君の空腹が紛れたのなら私もあげた甲斐があった」

 違うよ傑、私はアンタに謝ったわけじゃないんだよ。
 遠くから路面バスが走って来るのが見えた。先に立ち上がって手を差し伸べて来る傑に、私は小さく嗚咽を溢した。

 一時間どころか二時間近く掛けてようやく辿り着いた村は呪霊の残穢がいたる所にこびり着き、村人達から正気を吸い上げているようだった。
 土地の信仰が何時しか呪いを集め形を成した対象呪霊の等級は一級。私はサポートに専念して攻撃は全て傑に任せる事にした。顔面から夥しく生えた触手からは肌を焼く粘液が爛れ、隙間から見える大きな口には鋭い牙が覗いている。
 触手が伸びた。傑が軽く避けて手持ちの呪霊を発現させ、鋭い手で触手を切断する。対象が怯んだその隙を見逃さない。私の術式は、対象の動きを一定期間止めるというものだ。ここは幼馴染の腕の見せ所。タイミングはバッチリだ。術式発動と同時に対象が動きを止める。相手は格上の一級なので、今の私では十秒がギリギリだ。けれど傑にかかれば十秒でもおつりが来る。先程の呪霊を仕舞い込み、間髪入れずに発現した芋虫型の呪霊が対象を捕獲した。私の術式が切れてもなお、対象はピタリと動きを止め、傑の翳した掌の中に黒い球体として集約される。

「終わった?」
「うん。ご苦労様」

 私は、傑が呪霊を飲み込む瞬間を見るのが嫌いではなかった。本人は苦い顔をしているからきっと気持ちの良い作業ではないのだろうけど、大きく開いた口や、嚥下した瞬間に上下する喉元、一瞬引き攣る口端、全てが傑らしくって何時だって目が離せない。

「さて、今日はこのまま泊まりだっけ?」
「うん。確か村長さんの家に泊めてもらえるみたいだよ」
「じゃあ行こうか。そう広くない村みたいだけど迷子になっちゃダメだよ?」
「お母さんか!」

 村長の家は、この村で一番大きいとの事だったが寮より一回りは小さな古い平屋建ての一軒家だった。
 この村を害していたものは私達が退治したのでもう安心してもいい。呪術師や呪霊と言う言葉を使わず端的に説明をする傑の口調は慣れた物で、村長だと言う白髪頭の老人は疑う事もなく、傑の手を取ると涙ながらに何度もお礼を口にした。とは言ってもお礼を告げられたのは傑だけで、この村長確実に私の事は見ていない。存在すら認識していないレベルだ。嫌な予感がする。米神がひくつくのが分かった。
 案の定、その嫌な予感は現実のものとなった。夜、お礼を兼ねてと開かれた宴の席で傑の周りには若い女性が数人たむろしていた。おい、そこのお姉さん近過ぎじゃないか? 待って、その子もなに肩に触ってんの。わあっ筋肉すごい、じゃないよ。傑もなんで黙って触らせてるの。
 今回のモヤモヤは、村長に存在を無視された事もあってかショックよりも怒りが勝った。女性を侍らせている傑とは対照的に一人寂しく料理を突く私の元へは、たまに酒臭いおじさんが絡みに来るだけだ。「あの兄ちゃん良い男だな。どんな関係なんだい?」と詮索を受ける度「幼馴染です」「同級生ですー」と受け応えするのにも段々嫌気がさして来た。いっそのこと「恋人です」って嘘を吐いてこの場の空気を凍りつかせてやろうか、なんて。

「お嬢ちゃん?」

 これ以上モヤモヤを増やしたくなくて御膳の中へ向けていた視線を上げてしまった瞬間全身が凍りつく。私の真横でヘラヘラ笑っていたおじさんが恐る恐ると顔を覗き込んで来た。酒、酒だ。酒の香りだ。
 気がつけば私の足はその場から発っていた。笑い声に包まれる広い座敷を端から端まで早足に通り過ぎる。そして辿り着いた上座。目的は酒に酔って顔を真っ赤にした村長ではない。

「待て……!」

 思えば私の目的は何時だって傑だった。傑がいるから、たとえ嫌でも毎日幼稚園に通った、小学校にも通った、中学校にだって通った。四級呪霊が怖くても、クラスメイトから冷たい視線を浴びたとしても、それでも毎日毎日毎日、傑、傑、傑、傑だけが私の目的だったのだ。だから呪術高専にだって入った。怪我は嫌だ。呪霊は怖い。もう辞めたい。そんな負の感情を抑え込んでまで、後輩の言葉を借りるならばクソみたいな呪術界にしがみついたのは、傑がいるから。それ以外に理由はない。
 だから私は、傑が取られるのが我慢ならないのだ。フラれてるのに諦めが悪い自分は時々嫌になるし傑に憧れた同性の彼女から達には罪悪感だって湧くけれど、それでも止める事は出来なかった。
 制止の声は完全に無視した。傑の手から盃を奪い取り一気に煽ると、喉が焼けるような熱を感じた。無色透明の液体で匂いを嗅ぐと特有の匂いがする。今、私が一気飲みしたのは酒である。多分、種類は日本酒。未成年者飲酒。立派な犯罪行為だ。

「馬鹿! 酒なんて飲んだ事ないだろう!?」

 勢いで飲酒してしまった私よりも焦った様子で、傑が私の肩を鷲掴んだ。何時にも増して顔が怖いから、怒っているようだった。
 そっか、傑怒ってるんだ。そう思うと段々気持ちがグラグラ揺れて来る。モヤモヤが怒りから違う種類に変わって爆発しそうで、咄嗟に口元を押さえるとすかさず傑が反対側の手を取ってくれた。「彼女を休ませたいので部屋を」と言う傑の声は淡々としている。流石に侍っていた女性陣も引き止める事が出来ずに道を開けて、先程私が押しのけたおじさんが赤かった顔を青に変えて襖を開け放った。
 案内された部屋は、この家の一番奥に位置していた。八畳ほどの和室には布団が一組敷いてあって、それがやけに露骨に見えて思わず顔を顰めてしまう。恩人を女でもてなすなんて時代遅れにも程があるだろう。未成年者にも酒を勧めるし、なんなんだこの村。

「ほら、水」
「いらない」
「ダメ。飲みな」

 お互いに布団は視界に入れない位置に座り込んで、胡座をかいた傑はコップに入った冷水を私へ勧めた。このまま飲まなければ無理やり口をこじ開けられて流し込まれそうだったので、渋々受け取り喉を潤すと酒で焼けた喉が冷める感覚がした。

「まったく……私なら上手く避けられたのに何でわざわざ盃を奪ったりなんてしたんだ……」

 傑の声は、心底理解出来ないと言いたそうで。一瞬冷めた熱がまた喉を焼くようだった。
 多分、元々細かった私の理性の糸は、今ひどく脆くなっていて少しの刺激で簡単に千切れてしまう。止めなければと思うのに、それでも口が動くのは私自身がその糸に鋏を入れようとしているからなのかもしれない。

「傑は、なんでそんなに私の事心配してくれるの?」

 これは、ずっと疑問でずっと答えを求めていてずっと返答を知っている事だった。
 心臓は、爆発しそうな程速く脈打っていて、正直今にも倒れてしまいそう。それでも耐えて祈るような気持ちで返答を待つのに、傑はやっぱりずっと優しいから予想通りの返答をしてしまうのだ。

「大事な幼馴染なんだ。心配するのは当たり前だろう」

 プツンと理性の糸は容易く千切れた。
 握りしめていたコップを放り投げて、膝立ちのまま傑のそばににじり寄る。傑が訝しげに私の名前を呼んだけど返事はしてやらなかった。
 私の、酒に浮かされた熱い手は傑の後頭部に回されて綺麗に結んだお団子のゴムを乱暴に引っ張った。どうやら痛んでいたようで簡単に引き千切れて一本の黒い紐になったそれを背中に放り投げる。

「おい、何す、」
「傑はさ、優しいよね」
「は?」
「告白して来た女への対応も、街で逆ナンされた時の断り方も、任務先で助けた相手への労りも、こんな、フラれてもずっと諦められないで幼馴染なんて位置に縋りついてる私にも、ずっとずっと優しいんだよ傑」
「待て、話が見えない」
「見えるでしょう!?」

 ただの厄介な酔っ払い、それが今の私だ。意思に反して涙がぼろぼろ溢れるし、私を宥めようと肩に置かれた手を突っぱねて逆に胸倉を掴んでしまうし、酒臭い息を浴びせるみたいに顔まで近づけてしまう、本当に面倒くさいだろうな。ごめんなさい。

「抱いてよ」
「はい?」
「ううっ、かわいいおんなのことあそんでんでしょう!? ならわたしのこともだいてよぉ!!」
「はあ!?」

 珍しい事もあるもので、傑は顔を真っ赤にさせて狼狽出した。私が解いたせいですっかり流されてしまった黒髪をブンブン横に振って拒否を示す。大きな手が胸倉を掴む私の手に覆い被さって引き剥がそうと力を込めた。だが、私にも意地がある。そう簡単に離してやる気はなかった。

「待て、待ちなさい、本当に待ってくれ。何を言ってるのか自分で分かっているのか?」
「わか、っ、ヒック、わかってるよ! わかってないのは、すぐる、でしょう!?」
「私が何を分かってないって?」

 傑は、赤かった顔を不機嫌に染めた。一瞬怯みそうになるけれどグッと涙を耐えるように唇を噛んで踏み止まった。もういい、この際だ。全部言ってしまおう。たとえ、もう幼馴染としてすら傍にいられなくなってしまったとしても、このまま一生死ぬまで耐え続けるよりはきっと良いはずだ。
 深呼吸を繰り返して気持ちの落ち着きを図る。大丈夫、言える。

「私、傑宛のラブレターとか、連絡先書かれたメモ帳とか、何度も預かった事がある。なんで傑の手に渡らないと思う? 私が全部燃やしてるんだよ。傑を、誰かに取られたくなくて、全部全部、焼却炉に焼べたの」

 決心して口にした筈なのに、反応が怖くって傑の顔が見れない。それでも胸倉を掴む手だけは緩めずに、重たい額を厚い胸板に押し付けた。

「私、傑の事好きなんだよ。幼稚園の頃からずっと一途に、傑だけが好きだった。中学校で傑がモテ出してからはつらくって、傑は私を贔屓にしてくれてたから卒業式の後告白したのにフラれるし、私に内緒でいつの間にかピアスまで変えちゃって、中学に良い思い出なんてまったくない」

 嘘だ。本当は良い思い出だってある。全部、傑関連だけど。

「本当は呪術師にだってなりたいわけじゃない……傑みたいな格好良い事考えてるわけでもないし、怪我は痛いし、死ぬのは怖い。でも傑がいるからしがみついてる。幼馴染でもいいから傑のそばにずっといたくて、だから呪術師になりたいって思ってるの」

 ひどい責任転嫁だ。勝手に生きる理由のような扱いをされて、私が傑の立場なら確実に怒ってしまう。もうこんな女知らないと無理やり引き剥がして部屋を出て行ってしまうかもしれない。
 そんな空想をしてガタガタと手が震えた。先程の一大決心は、ただのハッタリだったのだと自分で悟る。今度は酒の力ではなく、自分の情けなさで涙が溢れた。胸倉を掴んだ手は相変わらず離れないままで、私は顔から垂れ流す水分を拭う事さえせずに鼻を啜る。

「やっぱりやだぁ……ごめん、ごめんね傑……お願いだから嫌いにならないで……っ、でも幼馴染でいるのはつらいよ、悲しいよ、苦しいよぉ……フるなら徹底的にやってよ、でないと諦めないから、うっ、うう、傑が他の人のものになるのは嫌だぁっ」
「……支離滅裂だな」
「うっ、うぇ、あああ、やだよぉ、傑、傑、傑、大好きだよ。ずっとずっと一番大好きだよ、だから、お願いだから、私に全部ちょうだいよ……ひっ、う、私に、ぃ、傑の全部ちょうだい……」

 思い返せば、モヤモヤを吐瀉物としてでなく言葉で吐き出すのは今回が初めてだった。だから子供のようなしゃっくりも、嗚咽も、抑え方がよく分からない。なんだかんだまだ酒が抜け切れていないのもあったと思う。
 結局私は、意識が途絶えるまで傑の胸元に額を押し付けたまま「傑」と名前を呼び続け「大好き」と呪いを吐き出し続けた。意外な事に傑の手は私と同じくらい熱く、震え続ける私の手に掛かったまま動く事はなかった。