「やあ」 突如として現れた男に恵が五条先生!と叫んだことで、どうやら敵ではないと分かり名前と悠仁がほっとしたのも束の間。 「…っ、!」 五条なる彼から感じる気配に、自分の中でまた呪力が暴走しそうになり体を震わせる名前。 けれどもその震えを素早く感じ取った悠仁は安心させるように名前の肩に手を置くと、ニッと笑った。 「大丈夫だ名前。今度もまた絶対、止めてやるから!」 「悠仁…」 さっきまであれほど反応していた宿儺の指を飲み込んだ悠仁であるというのに、何故だか名前は不思議と心が落ち着いていくのが分かった。 それはまるで時人が傍にいるかのような、心地のいい居心地の良さで。 「とりあえず色々と状況が飲み込めないでいるんだけど、何でここに名前がいるの?あと、特級呪物は?」 状況把握に努めようと生徒である恵の方を向いて質問を投げつつ、名前の方に足を踏み出す五条。 それを見て名前の肩が強ばった事に気が付いた悠仁は、五条から名前を守るかのように背に庇った。 恵はその五条を見つつ、名前については俺もまだよく分かってませんが、特級呪物の方は─── と悠仁の方を見やった。 「…あー」 恵のその視線を受け、いたたまれないように自ら口を開く悠仁。 「俺、それ食べちゃいました」 悠仁のその言葉に、踏み出した足をピシリと止めて固まる五条。 「…マジ?」 確認するように恵の方を見てそう問う五条に対し、恵も肯定するように頷いた。 それを受けた五条は名前にではなく悠仁の方に近付いて彼を観察する。 「ハハッ。本当だ。混じってるよ」 悠仁を観察して可笑しそうに笑った五条は、宿儺と代われるかい?と聞いた。 五条の意図は分からないものの、代われると思いますけど…と続けた悠仁は、背後にいる名前を窺った。 「出たらアイツまた名前に迫りそうだし、名前もまた暴走しちまうかもしれないから」 「大丈夫。彼女の身の安全は保証するし、僕強いから。10秒経ったら戻っておいで」 「でも、」 それでも尚食い下がろうとする悠仁の隙をついて名前を奪った五条は、名前が暴れ出す前に彼女の額を突いて気絶させた。 「ちょっ!!」 「大丈夫。ちょっと気絶させたってだけで、それ以上のことは何もしてないから」 そう言って気絶した名前を恵に預からせた五条は、始めようかと言って悠仁の方を見た。 納得してはいないものの、10秒間だけならばととりあえず宿儺と体を代わる悠仁。 「小娘を渡せ」 開口一番そう言う彼の体には再び模様が浮き上がっていて、間違いなく宿儺本人であると思われた。 「彼女の身柄はこっちで預からなきゃいけないんでね。悪いけど、その要求には応じられそうにない」 ならば力づくでとばかりに迫る宿儺を難なく躱した五条は、彼の背後に回って頭を殴った。 けれどもすぐさま体を起こした宿儺は、いつの時代でも呪術師というのはやっかいなものだと呟いて五条の立っている地面ごと粉砕する。 「二度目はない。小娘を渡せ」 「…8…9…」 「!」 砕かれた瓦礫は五条達を傷つけることなく、浮き上がらせた瓦礫の隙間から数を数えて宿儺を見ている五条。 そして五条が10と数えた所で体を代わった悠仁は、恵が抱えている名前の元へとすぐさま走りよった。 「驚いた」 本当に宿儺を制御出来ている悠仁に感心したような声を洩らす五条。 そして五条は、これから先のことを考えると面白くて仕方がないというように空を仰いだのだった。 ×
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