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「加茂さん。アンタら虎杖殺す気ですか?」


加茂とやり合っている恵がそう聞くと、加茂はフッと笑って首を傾げた。


「殺す理由がないな」

「あるでしょ」


上や御三家にならいくらでもと恵が続けたところで、戻ってきたフェンリルが名前に駆け寄った。


「良かった…!悠仁は無事なのね」


朝日の薙刀を払ってフェンリルから悠仁の無事を聞いた名前は、けれどもフェンリルの術式を解除した後厳しい顔で恵と真希の方を向いた。


「…この人たちはやっぱり、悠仁の事を殺そうとしてたみたい」


悠仁はすぐにフェンリルが名前の式神だと気付き、京都校の全員が自分に襲いかかってきた事、けれどもそれを止めた東堂と今は戦闘中だという事を伝えてくれていたのだった。


「それなら手加減なんてしない。フェニックス!!」

「!?」


そう言って名前が右手を真上に上げると、すぐさま戻ってきたフェニックスが咥えていた“何か”を放り投げた。


「それはッ!! メカ丸の!!」


フェニックスが投げ落としたのは京都校二年の、先程森に逃げた二人のうちの一人、究極メカ丸の腕だった。

驚愕する京都校の三人に冷たい瞳を向ける名前を援護するよう、真希はフンと鼻を鳴らす。


「どうやら早々にうちの“一番”を怒らせたようだな。お前ら、もう本気で勝ち目ねぇよ?」


真希はそう言うと手にする呪具を肩に担いで不敵に笑う。


「そんな…こんな短時間でメカ丸が腕を持ってかれるだなんて!!」

「“持ってかれたのが腕”なだけで、体の方も無事じゃねぇかもな?」

「!!」


その真希の挑発に乗って刀を振り抜く三輪。


「焼き払っていいよ」

─── クソッ!!」


名前がフェニックスに命じた瞬間、フェニックスは鋭い嘴を開いて炎を吐き出した。

真希と恵を避けて吐き出された炎は見事に京都校の三人に降りかかり、程度こそあれどもろにその炎を食らった三人は、三者三様に顔を顰めて焼かれた部分を押さえる。


「ッ!! なんて威力だよあの鳥…!!」

「あれはただの鳥じゃない!!不死鳥だ!!まさか、まさかそれを扱えるだなんて…」

「ここは俺が食い止めます!加茂さんと霞は───


朝日のセリフの途中で再び迫るフェニックスの炎。

その炎を避けつつ行ってください!!と叫ぶ朝日に応じて、加茂と三輪はそれぞれ別々の方向に散って行った。


「名前!!私と恵はあの二人を追う!!お前も無理はするな!!」


名前が頷いたのを見て真希は三輪を、恵は加茂を追って走った。


「お前の相手は俺だ」


それを見届けた後、朝日は再びまた名前と向かい合いそう言った。


「………」

「そんな怒んなよ。楽しくやろうぜ?」

「“ワイバーン”」

「オイオイオイ…!!」


けれども朝日の言う事など聞く気もないとばかりに両手を突き上げた名前はフェニックスの術式を解くと、次にワイバーンを召喚したのだった。


「グオオオオオオオォ────── !!!!」


宿儺との初対面の時には扱えていなかったワイバーン。

けれども今は自分を召喚したのが名前だという事を理解し、そして名前が自分の主人だということも正しく認識している為、ワイバーンは降り立った名前の隣から鋭い瞳を朝日に向けていたのだった。


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