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「落ち着け名前!!まだそうと決まった訳じゃない!!」

「でもっ…!!でもその可能性が高いんでしょ!?」


悠仁と別れた後。

全くもって他の京都校の選手たちの姿が見えない事を不審に思って探ってみたところ、なんと彼らはまとまって悠仁の方に向かっているという事が発覚した。

更には悠仁と別れた付近から響いてきた銃声。それが意味するところは直近の出来事から考えたとしても恐らく───


「悠仁を…!!悠仁を殺すつもりでっ…!!」


恵の腕の中で震え、もがく名前。

名前のその姿を見て、野薔薇も抗議するように声を上げた。


「名前は特に悠仁との繋がりが深いの!!勝ちも大事かもしれないけど、せっかく助かった悠仁にまた万が一の事でもあったりしたら…!!!」

「お前も落ち着け野薔薇」


声を荒らげる野薔薇の額を正面からトンッと突いた真希は、見捨てたりしねーよと返した。


「まだそうと決まった訳でもないが、そもそも仲間が死んだら勝ち負けもない事くらい私らにだって分かってるっての」


だから安心しろってと名前の頭を撫でる真希の瞳は柔らかく、そして強かった。


「真希さん…」


涙で濡れた名前の瞳が真希と合う。
それだけで真希には十分だった。


「戻るぞ恵」

「了解です」


踵を返して悠仁と別れた場所に戻ろうとする真希を見て、名前も零れかけた涙を拭った。


─── …今度こそ私が悠仁を支えるって、そう決めたんだ!!それなのにこんなところで泣いてるばかりで、悠仁をまた失ったりなんてしない…!!


「…─── “フェニックス”」

「は?」


名前が叫んで空に手を翳した瞬間、鋭い鳴き声と大きな影が真希達の頭上にかかり、次の瞬間燃え盛る炎のような真っ赤な体を持つ鳥が降り立ってきた。


「ちょ、待……名前ちゃん?」

「こんぶ」


初めて見る伝説上の生き物の姿にパンダ達が驚きを隠せないでいる間もなく、名前は再びフェンリル!と叫ぶ。


「ガウッ」


次に現れたのは綺麗な毛並みをした大きな狼で、その首だったり足には鉄鎖が巻き付いていた。


「これも伝説上の生き物なのか?」


びっくりの連続で語尾の震えるパンダに対し、名前は肯定するように頷く。


「…フェンリルはフェニックスと違って北欧神話の生き物なんですけど、いい子です」


名前がフェンリルの頭を撫でると、フェンリルは獰猛な顔付きながらも目を細めて嬉しそうに名前の手を舐めた。


「悠仁を探してきて」


名前がそう言うと、フェンリルは白というよりは銀色に近い毛並みを揺らして森の方へと駆けて行く。

驚く一同に戸惑うように苦笑しつつ、名前は次に擦り寄ってきたフェニックスの頭を撫でた。


「まだ全部は扱いきれてないんですけど…さっきのフェンリルやフェニックス(この子)含め何体かは懐いてくれて、扱えるようになったんです。…五条先生との修行のお陰で」


修行を経て扱えるようになった式神達は出してもいいという許可をもらえたのでと続ける名前を前に、パンダ達は更なる次元の違いを感じて圧倒されっぱなしだった。


「…フェニックス」


名前がそう呼ぶと、フェニックスは名前の意図を理解したように羽をたたみ、背を低くした。

名前が恵の手を取って乗るように示す為、戸惑いつつもフェニックスの背に足をかける恵。


「…驚きすぎて声も出ないな」


続いて名前に手を取られた真希もまたフェニックスの背に乗ると、信じられないという顔で跨ったフェニックスを見下ろした。


「…パンダ先輩達は、」

「俺と野薔薇は別ルートから向かうよ」


パンダのその言葉に頷いた名前は、自身も恵に引き上げてもらってフェニックスの背に乗った。

名前が乗ったことを確認し、高く飛び上がるフェニックス。


「“鵺”」


フェニックスが飛び立った瞬間、頭上に自分たち以外の先客がいる事に気がついた恵が鵺を召喚し、箒に乗って偵察中だった西宮を叩き落とさせた。


「あそこだ!!」


真希の方は京都校の選手らしき五人を見つけ、鋭く叫ぶ。

真希の指さす方にフェニックスを向かわせた名前は、彼らに近付くと同時にフェニックスから飛び降りた。


「!?」


ガキンッ


名前に切りつけられた男─── 京都校二年の立花 朝日は、背負っていた薙刀で間一髪その攻撃を防ぐ。


「フェニックス!!」


目の端で五人のうち二人が森の中に逃げ込んだ事に気が付いた名前は、恵と真希も飛び降りたことで身軽になったフェニックスに指示して二人を追わせた。


「あれはお前の式神か?」


薙刀で応戦しつつ、驚いたように名前に問いかける朝日。

けれども名前はその質問に答えること無く、手にした村正を振りかぶったのだった。


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