自分で言うのも何だが…俺はかなり酒に強い方だと思う。

どれだけ飲んでも酔わないし、キツい酒でも水割りせずに飲める。ペース配分も得意と言えば得意なのかもしれない。

酔わない故、よく言われる様に気分の変化など起きないが…何故か飲むことはわりに好きだ。

──飲みませんよ…飲めない事分かってますし。

しかし俺の身近にいる黒髪の少女は、正反対に酒を全く飲まない。いつも酒瓶を空ける俺の隣で、おとなしく果汁(ジュース)か紅茶を飲んでいる。

元々かなりガキっぽいやつだから、似合いだと思って「何故飲まないんだ」「飲めないとはどういう事だ」と訊ねた事はなかった。特に疑問に思った事もなかった。


………訊ねておきゃ良かった。



*C25OH──とある天使と火蜥蜴と酒精の話*



事の起こりは、ある意味些細なことだった。

俺がいつもの様にあいつ──ミノンをその勤め先である酒場に迎えに行くと、<天使>の舞台は既に終盤に差し掛かっていた。よく通る声が楽しそうに音程を上下していく。

やがてあいつが深い礼をして、拍手が沸き起こった。人数が少ないのにこれだけの音量なのは…聞いているのが相当熱心なやつだということなのだろうか。一応適当に手を打ち合わす。

…こうして出入口辺りに寄りかかっていると、普段あいつは目敏く俺を見つけ駆け寄って来るのだが…今日は少し違った。引き留める存在がいたのだ。

「あ、あの、これ…良かったら!」

若い男の声と共に、目測でおよそ8インチ(約20p)四方、高さ1.5インチ(4p弱)程の紙箱があいつへ向かって差し出される。…貢ぎ物か?

「ゆ…有名な店の、チョコレートなんです!そのっ、おいしかったから、ぜひあなたにも……お口に合うか、わからないのですが…。」

真っ赤な顔を隠すように頭を下げ、差し出し続ける青年。わたわたと戸惑っていたミノンは…しばらくの後、ふわりと笑って受け取った。

「…ありがとう、ございます。…甘いもの…好きだから、とても…嬉しいです。」

その笑顔を見て、緊張していたらしい青年の雰囲気が和らぐ。訥々とした答えではあったが喜んでいるということも、幸いきちんと伝わった様だ。和やかな空気は微笑ましかったが…何となく気に入らなかったので椅子に座り酒を頼む。

グラスを手に取りかけた時、腰の辺りに軽い衝撃が走った。そのままの勢いで胴に抱き着かれる。

「サラマンダー様っ!」

首だけで振り返れば、突撃して来たミノンがにこにこと笑いながらこちらを見上げていた。

「おかえりなさいませ!お変わりありませんか?」

「…ああ。」

軽く頭を撫で、隣の椅子に座らせてやる。ミノンは衣装であるロングドレスの裾を手早く整えると、例の紙箱をカウンターに置いた。

「あの、これ、さっき頂いたんです。」

嬉々として箱を開けるミノン。中に並んでいたのは、直径1インチ(約2.5p)程のチョコレートだった。一粒一粒に異なる装飾が施されていて、まるで宝石か何かのようだ…可愛いもの、甘いもの好きの彼女には嬉しい贈り物だろう。

「一緒に頂きませんか?」

「……いや、俺はいい。…甘いものは好きじゃねえ。」

正直に断ると、予想通りミノンは少し残念そうに眉尻を下げた。しかしすぐに笑顔を取り戻す。

「じゃあ、頂きますね。」

そっと一つを手に取り、口に運ぶミノン。静かに咀嚼し…やがて首を傾げる。

「……どうかしたか?」

ミノンは直ってからこくんと飲み込むと、不思議そうな顔で口を開いた。



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