ゆっくりと開く扉。ついに訪れた魔女との対面の瞬間に、ごくりと唾を飲む。

「…お待たせ…致しました…。」

すっと扉を押し開けて出て来たのは……邪悪な笑みを浮かべた老婆でも、氷の様な微笑を湛えた美女でもなかった。

「!?」

普通の…女の子。

あたしよりは年上だけど、14か15くらいにしか見えない。コウモリも従えてなければ魔法の杖も持ってないし…少し変わった服装ではあるけど怪しげなアクセサリーも着けてない。しかも着ているローブは真っ白だ。

つまるところ…どちらかと言えば魔女っていうより白魔道士っぽい雰囲気の──子供だった。

「…あ…あな…た…が…魔女…さん…?」

「……はい…もしかしたら…。」

「も…もしかしたら?」

「……こいつは魔女じゃねえ。だが…どんな魔法も使える女っつったら恐らくはこいつだ。」

魔女さんを支える様に付き従っているさっきの大男が面倒そうに返してくる。その言葉を聞き、何て言うか…ぼんやりとしてる魔女さんは、目を擦りながら大男を見上げた。

「え…な、何ですかそれ…私そんなんじゃない…。」

「…どうせ噂の一人歩きだろう…気にするな。」

「……はい……。」

またあたし達の方を見る魔女さん。しばらくの間ぼーっとした目線をさ迷わせ、やがてあたしに抱き付いたままだったニコラに目を留めた。

「…そちらは?」

「あ……ニコラ、顔を上げて。」

「……た…たましい…とられない…?」

「…うん…きっと、大丈夫よ。」

記憶の中の父さんに良く似たくしゃくしゃの金髪を撫でてやる。ニコラは小さく頷くと、涙で濡れた情けない顔のまま魔女さんの方を向いた。

「えっ…何で泣いて…!?」

冷たい水で目が覚めたみたいに驚いた顔をしてバッと大男を見上げる魔女さん。

「………。…何でもするっつーから…魔女に魂でも売る気かっつった…ら…泣き出した…。」

「さっ…サラマンダー様…っ!」

何だか罰が悪そうに大男…サラマンダーさん?が言うと、魔女さんはぱっちりと目を見開いて叫んだ。途中で突っ掛けながらも勢い良くあたし達の方に走って来る。

「ごめんなさい怖がらせて…!大丈夫です、そんな事しませんよ…。」

ニコラに目線を合わせる様にしゃがむ魔女さん。

「でもっ…ぼくたち…おかね、ないから…!」

「だから魂ですか?…そんなもの売ったらいけません…何よりも大事にしなくては。」

魔女さんは穏やかだけど真剣な眼差しで諭すと、優しい手つきでニコラの涙を拭った。さっきまで「触られたら魂抜かれるかも…!」とか思ってたのが嘘みたいに力が抜ける。

「…サラマンダー様も…お戯れは時と言葉を選んでください。まして相手はこんなに小さな子なのに…。」

「………悪かった。……だがふざけてはねえ……少し…試すつもりだった。」

「…覚悟をですか?…もう…。」

一番最初に睨まれた時の凄みはどこに行ったのかと思うくらい、魔女さんに言われっぱなしのサラマンダーさん。何て言うか…すごく…意外だ。

「あ…あのっ…おたわむれって…なあに…?」

「…冗談…小さな嘘の事ですよ。私は魂など取りはしませんし、お金も見返りも欲しません。」

「ほっ…ほんとう!?」

すっかりぼんやりした所がなくなった魔女さんはすっくと立ち上がると、安心させるみたいにふわりと笑った。

「はい。ご病気の仲間がいらっしゃるんですよね?ご案内頂けますか?」

「た…助けてくれるの!?」

あまりに驚いた事が多すぎて、あまりに魔女さんの言い方が至極当然といった感じで…うまく状況が飲み込めずに聞き返してしまう。

「ええ、もちろん。サラマンダー様も、ご一緒……きゃっ!」

サラマンダーさんの方に歩き出した瞬間、力が抜けたみたいに転ぶ魔女さん。…そういえば、さっき走った時も突っ掛けて…。

「おい、しっかりしろ…!」

「す…すみません…。」

サラマンダーさんはすぐに駆け寄って助け起こすと、寄り添わせるみたいにして支えた。…そっか…しもべなんかじゃなくて、恋人だったんだ。

「……チッ…やっぱり起こすんじゃなかった…。」

「っ!そ…そんな事ありません!私、大丈夫です!」

「これのどこが大丈夫なんだよ!…っ、いい加減にしやがれ!そういって無茶して三日三晩ずっと昏睡状態だったのは一体どこのどいつだ!?」

「…わ…私です!でも私が無茶しないと誰かが死んでしまうなら、私はしばらく眠ったって構いません…!三日位…なんですかっ!」

…な…何だかマズイ雰囲気だ。これってもしかして…夫婦喧嘩…!?

「っざけんな!おまえは眠ってて起きたら三日後だろうが、俺は微動だにしねえおまえを三日ずっと見てんだぞ!?」

「わっ…私だってあなたと三日も共に在れないのはとても辛いです!でも人の命は掛け替えのないものでしょう…!?」

「おまえが倒れちゃ元も子もねえだろこの馬鹿!」

「ばっ…馬鹿って言った方が馬鹿なんですよっ!?」

「っ、ああそうだ…俺は大馬鹿だから、他の人間の命なんざよりおまえが元気な方が良いんだよ…!」

「……っ!」

言葉を詰まらせ、ぎゅっとサラマンダーさんに抱き着く魔女さん。サラマンダーさんもそれに応える様に抱き締める。…夫婦喧嘩じゃなくてノロケかよと思ったのは内緒だ。

「……ふーふげんか、終わったのかなぁ……。」

きょとんとしたニコラの言葉によって、魔女さん達はようやく現在の目的を思い出してくれたのだった。



[[前へ]] [[次へ]]


5/8



[戻る]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -