「おさまるどころか、いよいよ荒れて来たのであるな…。」
「………。」
暗雲立ち込める空をブルーナルシスの広間からガラス越しに見るスタイナーとサラマンダー。外では風がごうごうと音を立て、窓には次々と大きな雨粒が叩きつけられている。床は絶えずゆらゆらと揺れ、嵐による波の荒れ様が感じられた。
「…こんなんで…あいつら帰って来れんのか?」
「うむ…。」
今の空模様からは全く想像する事が出来ないが…僅か1時間程前までは綺麗に晴れていた為、ジタン、クイナ、フライヤ、エーコの4人は外へ出掛けてしまっているのだ。
「………。」
「な…何、心配要りませんぞ姫さま!きっと今頃はどこかで雨宿り中でありましょう。」
サラマンダーの言葉に少し肩を震わせ、心配そうに手を合わせたダガーにスタイナーが笑ってみせる。
「………。」
ダガーが小さく頷いた時、エンジンルーム…つまりは外に通じるドアが開いた。
「ふぅ〜、やっと何とかなったぜ。」
「これで余程の事がない限り、流されはしないと思うケロ。」
心無しかいつもより元気に跳び跳ねるシドと、その指示を元に船の固定作業をして来たブランクが入って来る。雨ガッパを着ていたというのに、所々はびしょ濡れだ。
「ジタン達は帰ったケロ?」
「いいえ、まだ…。」
「あいつら、カッパとか雨具は持ってるのか?」
「ああ。ミノン殿が今朝、夕方は荒れるとおっしゃってな。朝は知っての通り快晴だった為、にわかには信じがたかったが…ミノン殿の言う事、と信じて持って行ったのだ。見事に当たったな…。」
「成る程…。…この天気では見通しも悪いケロ。動くのは危険と踏んで待機中なのかもしれ」
「おい。」
突然シドの言葉を遮るサラマンダー。
「…何であるか?」
「モーグリの鳴き声がしないか?」
「…モーグリ?自分には聞こえんが…おぬしの気のせいではないか?…そもそもこの様な場とはいえ…。」
サラマンダーの言葉に首を傾げていたダガーが、今にも説教を始めようとしているスタイナーの鎧を軽く叩く。
「こちらは大公ど…は!なんでしょうか、姫さま。」
「………。」
ダガーは口元に左手の人差し指をやると、右耳に開いた手のひらを当てた。言葉にするのならば、「静かにして、耳を澄ませて。」だろうか。
「す…すみませぬ。」
「………。」
何かを感じた様に頷き、窓辺に歩み寄るダガー。
「………!」
鍵を外し取っ手に手をかけると、思い切り引いて窓を開け放した。
「ひ…姫さま!?」
途端、暴風と雨粒と共に何かが飛び込んで来る。
「ク〜ポ〜!…クポッ、…ぷふぇ!」
そのまま勢い余って壁にぶつかってしまったのは…いつも何かとお世話になるモーグリ、モグオだった。
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