「…あ!」
少しずつ階段を降りている途中、ミノンは小さく声を上げて走り出した。
「ちょっ、ミノン!?ドレスで階段を走るな…!」
慌てて後を追うジタン。ミノンは少し先にあった窓を開けて乗り出すと、下に…地面に向かって叫んだ。
「…サラマンダー様!」
「サ…サラマンダー!?…うわっ!ホントだ!」
ジタンもミノンの後ろから覗き込む。建物の裏にあたるそこには、月明かりでも判る程に赤い髪をした大男が立っていた。
「どうなさったんですか?今日はヴィータじゃありませんよね?」
ミノンの問いに答えず、無言で手招きするサラマンダー。
「…降りて来い、ってか?」
「多分…一体どうしたんでしょう。…わかりました、少々お待ち下さい!」
「…あ!だから走るなってば…!」
「お待たせしました。」
「………。」
「久しぶりだな、サラマンダー。元気にしてたか?」
「……ああ。」
「…サラマンダー様?」
小首を傾げて問い掛けるミノンの頭の位置はいつもより少し高い。
「どうなさったんですか?」
ドレス姿で走る事を咎め続けられ、衣装の裾を汚さない様にする事も考慮した結果…ミノンは人気の無い裏に入ってから少しだけ浮いていた。
「………その服。」
「え?」
「着替えて来い。…つーか化粧も落として来い。待ってっから。」
「あ…は、はい。」
すーっと入り口に向かうミノン。長い漆黒の髪が動きに合わせてなびく。
「……大人っぽくてびっくりしちまっただろ。」
ミノンの姿が見えなくなると、ジタンはニヤリと笑いながら言った。
「ドレス着て舞台化粧して髪おろしただけなのに、かなり印象変わるよな〜…惚れ直したかい?」
「…寝言は寝て言え。いつ俺があいつに惚れた。」
「……じゃあ、何で付き合ってるんだ?」
笑顔のまま、すっ…と真面目な空気を纏うジタン。
「惚れてもないヤツの外出に、わざわざ…それも[お前が]付き合うのか?」
声の調子が少し低くなる。
「…アイツは…ミノンは女の子だ。でも、同時に剣士の端くれ…それに……あとはお前も知ってるだろ。」
青い月の光を受けて煌めく蒼い瞳。
「だから…ホントならこの街の一人歩きも、リンドブルムの路地裏巡りも、危なくはないはずだ。なのに…何で。」
表情は真顔に近いものになっていた。
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