「…あ!サラマンダー様!」

以前と同じ切り株に腰掛けていたミノンは、サラマンダーが門を開けた瞬間に駆け出した。

「あの、れ……っと…きゃっ!」

「…上手く行ったんだな。」

木の根に突っ掛けたミノンをがっしりと受け止めてサラマンダーが言う。

「は…はい!団長も、ジタン様も…みんな、良いって言って下さいました!」

「…そうか。」

姿勢を直してきちんと立つミノン。随分と上にあるサラマンダーの顔を精一杯見上げる。

「…ありがとうございました。」

「……はぁ?」

「1月前も、3日前も……私がこの歌劇を続けられたのは、サラマンダー様のお陰です。」

「………。」

「だから、ありがとうございます。」

「………どうも。」

そっぽを向くと、サラマンダーは呟く様に言った。

「…[愛する人]…全然、難しい事じゃなかったです。大好き…それだけで良かったんですね。」

「……そうか。」

「私、私にしか出来ないマリアをやります。きっと…きっと。あ…それで、あの…。」

「…何だ。」

少し顔を紅くして懐を探るミノン。

「これ…。」

両手で小さな紙切れを差し出す。

「……チケットか?」

「舞台…観に来て下さい。」

「………仕事がなかったらな。」

小さな紙片を摘むサラマンダー。

「あ…ありがとうございます!」

「……遅くなったな…さっさと行くぞ。」

「はい。」







「あと半月かぁ…長かったんだか、短かったんだかなあ…。」

きらびやかな舞台衣裳を纏ったジタンが感慨無量といった様子で言う。

「ミノンは舞台初めてだったし、ずいぶん長く感じたんじゃねえか?」

「はい。長かったです…でも、楽しかったです。」

真っ白なドレスと舞台用の濃いメイクのまま、ぼろぼろになった台本を握り締めて笑うミノン。宝石の付いたティアラが光る。

「いっぱい、いっぱい大変でしたけど…いっぱい、いっぱい…楽しかった。」

「そっか!ミノンが楽しめたなら何よりだよ。」

二人のいる2階席から見える舞台では、練習が終わってからしばらく経つ今でも機材や楽器がせわしなく動いている。初めての通し練習で見つかった問題点の調整には、まだ時間がかかる様だ。

「本番は誰か招待したか?」

「はい。フライヤ様と、サラマンダー様を。」

「へえ…フライヤいっつも忙しそうなのに、よく誘えたな。…つーかサラマンダー、来るんだ。」

「はい。…どうか?」

「いや…正直、大人しくオペラ聞いてるアイツが想像出来ねえ。」

「そうですか?…確かに、いつもヴィータでは立って聞いてらっしゃる気がしますが…でも、きっと来て下さると思います。」

「…そうだな。」

「おや…まだこんな所にいたのか、君達。」

「団長!」

「もう遅いぞ。早く着替えて家に帰りなさい。」

「うーっす。…ミノン、階段は危ねえからゆっくりだぞ。」

「はい。」



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