「?…え?」

翌朝、2階で台本と睨みあっていたミノンは急に顔を上げた。

「…サラマンダー様…!?」

階段を駆け降りてドアを開けるミノン。やはりと言うべきか、庭の径をサラマンダーが歩いていた。

「…これから空いてるか。」

呼び鈴を鳴らすどころかドアの前に立つより早くミノンが出て来たというのに、全く動じる事なく歩みを止めてサラマンダーが言う。

「え?…は…はい。空いています。」

「ブルメシア行くぞ。」

「ブ…ブルメシアに?何故ですか?」

「良いから行く。…雨に降られても大丈夫な様に支度しろ。あと台本も持って来い。」

「台本…?……わかりました。少しお待ち下さい。」







「全く…一体何用じゃ?」

しとしとと雨の降る蒼の王都の入り口では、雨用のコートも着ずにフライヤが立っていた。左手には愛用の槍を握っている。

「急に呼び出しおって…どういうつもりじゃ。自分から誘う等、おぬしらしくもない。」

サラマンダーの姿を見止めると、フライヤは苛立たし気に尻尾を振りながら問いただし始めた。

「しかもおぬしの事じゃから夜かと思えば…何ゆえこの様な昼間なのじゃ。今日は空いていたから良い様なも……ミノン!?」

「…フライヤ様。」

サラマンダーの陰から出るミノン。

「…お久しぶりです。」

「ひ…久しぶり、ミノン。どうしたのじゃ。」

「えっと…あの……サラマンダー様が、ブルメシアに行くぞ…って…。」

フライヤの視線がサラマンダーに戻り、再び不機嫌そうな雰囲気を纏う。

「…どういう事じゃ、サラマンダー?」

サラマンダーはフライヤの言及を無視すると、少し屈んでミノンに囁いた。

「お前が今、悩んでいる事…こいつに話してみろ。」

「…え?」

「俺に話すより…余程良いと思うぞ。」

「………。」

「…ミノン?…何か私が力になれる事があるなら、遠慮無く言いなさい。」

「……………そっか…。」

雨音に消えそうな声で呟くミノン。

「ん?」

「あの…フライヤ様。少しお話があります…もしよろしければ、お付き合い下さいませんか?」

「ああ…喜んで。…ここでは何じゃから、私の家に来るといい。」

「良いんですか?」

「勿論じゃ。ほらサラマンダー、おぬしもそんな所に突っ立っておるでない。」

「………。」



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