「おいしい〜!」
「本当。こんな料理、今まで食べた事無いわ。」
(…懐かしい…。)
夕食は和食で、流石にミノンは漂流者の存在を考え出した。
「世界にはまだ知らない食べ物がいっぱいアルね〜ワタシ、来て良かったアルよ〜!」
「オレも!」
浴衣姿のガーネットを見たジタンは、リレイズや色々で何とかショックとホーリーを耐えて良かったと心の底から思ったらしい。指導者が居なかった割には、男性達もよく着られていた。
「ねえ、上に卓球場っていうのがあるんだって!食べたら行ってみましょう!」
食後、一同は2階の卓球場に集まった。サラマンダーはエーコに無理矢理引っ張って来られた様だ。
「…とまぁ、だいたいのルールはこんな感じだ。わかったか?」
「バッチリよ!」
ジタンの説明の後、エーコが自信満々に胸を張る。卓球は一時期リンドブルムで流行ったらしく、ジタンはかなり詳しかった。
「よっし、じゃあ始めようぜ!シングルスか?ダブルスか?」
「ダブルスに一票!」
元気良く言うエーコ。
「じゃあダブルスな!最初にやるヤツは…?」
「はいはーい、エーコやるっ!おとうさんに教えてもらったから、上手いわよ!」
またもエーコが元気良く言う。体中から沸き立つやる気は目に見えそうな程だ。
「お、やる気満々だな!相方はどうするんだ?」
「うーん…フライヤ!」
ビシッとラケットでフライヤを指名するエーコ。
「私か?構わぬが…誰とやるのじゃ?」
「ミノンとサラマンダー!拒否権無しよ!」
エーコは左手でまたもビシッと、今度は隅の方に立っていた二人を指し示した。
「わ…私ですか!?」
「…何故俺なんだ…。」
「直感よ!」
(…な〜んてね。サラマンダーって、絶対ミノンの事好きだと思うのよ!何となくミノンに甘いし…いっつも守ってあげてるし。それにミノンだって、よくサラマンダーの傍にいるもの。気付かないだけで絶っ対サラマンダーの事好きなんだわ!だからエーコが、鈍感な二人の恋のキューピッドになるのよ!)
何か張り切ってしまっている7才児。本当に7才だろうか…。
「…どうします?」
「………お前は良いのか。」
「…はい。…実は少し、やってみたくて…。…サラマンダー様は?」
「……興味ねえな。」
ミノンの表情が僅かにしゅんとするのを、エーコは見逃さなかった。
「あーあミノンかわいそ!サラマンダーとやりたかったのに!」
「えっ!?そ…そんな事は…!」
エーコの言葉に慌てて弁解しようとするミノン。
「あのね、そーやって我慢しちゃうの良くないわよミノン!?」
「あ…あの…。」
語彙では勝るはずなのに、大人びているとはいえ僅か7才の少女に言い負かされてしまうのは…やはり性格のせいなのだろうか。
「………。」
サラマンダーが盛大に溜め息を吐く。
「…一試合だけだぞ。」
「やったっ!」
小躍りするエーコ。裏稼業世界No.1の男は、少女に甘く幼女に弱かった。
「じゃあ最初はミノンのサーブからな!」
「確か…こんな…。」
カコン…
順調に跳ねる球。
「来たわ…フライヤ、お願い!」
「任せろ!」
カコン!
「………。」
フライヤが打ち返した球をサラマンダーが返す。
「来たわね…フェイス!」
待ってましたとばかりに、エーコがフライヤにフェイスをかけた。
「ふ…助かったぞエーコ。それ!」
何時にも増して力強いフライヤの球がミノンの方へ飛ぶ。
「え、どうしよっ…えい!」
ビュン!…ガツン!
エーコとフライヤの間を、一筋の風が通り抜けた。
「ご…ごめんなさい!」
「な、何…今の…。」
観客も含め全員が呆気に取られる。
「少し、強く打ち過ぎましたね…。」
(…少し…か?)
冷静なサラマンダーのツッコミは、誰にも聞かれる事はなかった。
「さ…再開しましょ。」
「えい。」
「それ!」
「……。」
「やあ!」
勝負はしばらく続いた。時折何かが壁にぶつかっていたり、光っていたりしたのはきっと…きっと、気のせいだ。
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