言葉を選んだら途切れがちにはなってしまったけど、気持ちに偽りはない。昨日から懐いていた思いが口に出せて少しすっきりする。

最初にミノンと会った時、無性に「この子は守らないと」って思った。ガーネットに対する感情とは少し違う。彼女は……手を伸ばしていなければ、すっといなくなってしまいそうで。

今も大事に思う気持ちが薄れたわけじゃないけど、何となく──もう、必要ないんじゃないか。そんな気がする。それはきっと、サラマンダーがいてくれるからなんだろう。恋人ができるってのはそういうことなんだろうか。

「………そうか。」

「ミノンだけじゃないぜ?おまえもだよ。……幸せか?」

サラマンダーに最初会った時は、すごく渇いた感じがして……どこか虚無感に駆られたのを覚えてる。彼が誰からも愛されず──誰も愛さずに、生きてきた気がしたから。後からわかった話じゃ、あの酒屋の店主が愛していてくれたんだけど……それも、死んでしまってた心には届かなかったみたいで。

そんな彼が、今、彼女にあんなに愛され──彼女をこんなにも愛している。本当に、奇跡だと思う。

「………まあな。」

彼が口にしたのはぶっきらぼうな答えだったけど、そこには確かな気持ちが籠ってると感じた。ああ、やっぱり人を愛するってすごいことだ。

「……ミノン!」

オレまで幸せに浸かってた時、誰かが階段をそろそろと降りてくる音がした。振り返れば、手すりに縋る様にしてミノンが降りて来てる。急いで立ち上がろうとしたら、サラマンダーが横をすり抜けてった。相変わらずこういう時の行動は素早いな……。

「どうしたんだ?寝てて良いのに……。」

サラマンダーは階段の途中で黙ってミノンを当然の様に抱き抱えると、そのまま一階に降りてきた。漆黒の瞳はぼんやりしてて、調子が芳しくないのは一目瞭然だ。上半身もサラマンダーにくたりと凭れかかってる。

「……やっぱり、……ご飯……心配、で……。」

「あ、ああ……大丈夫だよ、ちゃんとサラマンダーが用意してくれたからさ。」

「そう、……良かった……。」

まああれじゃあ心配になるのもよくわかるってもんだ。全部食べた後だったから、実情をお見せすることにはならなかったのが幸いだろう。いや、あるイミ見た方が良いのか?とりあえず少しは教えるべきだと思うぞ!

「……そのくらいで降りて来るな。」

サラマンダーは強制的に上へ連れて行こうとしたけど、腕の中から何か言われたらしく、ミノンを抱えたまま渋々と椅子に座った。人並外れた長身である彼の腕の中にいると、標準に比べてもだいぶ小柄な彼女は子供みたいに見える。昨日と違って……なんというか甘い雰囲気がないせいか、恋人じゃなくて親子みたいだ。やっぱりこの二人の恋愛は親愛と紙一重なんだなと実感する。──多分、昨日の夜も何もしてないし。ミノンが眠かったからとかそういうんじゃなくて、だ。あの様子じゃ今まで何もしてないと思う。プラトニック・ラブって実在するんだな……見守る側としてはありがたい気もするけど。

背凭れに寄っかかって大きな溜め息を吐くと、サラマンダーはコーヒーを飲みながら緩慢な動作でミノンを抱き締めた。やがてどこか懐かしい光をその大きな手から放つ。隆々とした体躯に抱かれたミノンは、ぼんやりとしながらも幸せそうに目を細めた。これは──そうだ、チャクラだ。目にするのはいつ以来だろうか。チャクラは気の乱れを整える効果があるのだと、いつか聞いた。今のミノンの状態も良くなるのかもしれない。

「……ありがとうございます。」

何度か掛けてもらった後、ミノンは柔らかく微笑んだ。心なしか少し血色が良くなった様に見える。

「………外に出てくる。少し平気か。」

「はい。」

回復を確認したサラマンダーが言葉少なに意思を告げると、ミノンはしっかり自分の足で立った。玄関から彼の姿が消えるのを見送って、自分の椅子に座る。

「……大丈夫か?ミノン。」

「はい。ご心配おかけして、申し訳ありませんでした。今、サラマンダー様が調整してくださったので……だいぶ良くなった気がします。」

さっきまでの様子に比べたら、受け答えはすごくしっかりしていた。まだ具合が悪そうな感じは残ってるけど、ちゃんと笑ってる。すげえなサラマンダー……こんなとこでも支えてたのか。

「サラマンダーはどうしたんだ?」

「あ……たぶん庭に、煙草を吸いに行かれたのだと思います。私のいる前では、絶対に吸われませんから……。」

「へえ……。」

旅の間もそうだったけど、あんな厭人的な感じを纏っていながら、サラマンダーは人を思いやることができる人間だった。じゃなきゃビビやエーコが、そしてミノンがあんなになつく訳がない。きっと内面が出にくいヤツなんだと思う。そして多分それは今も変わらなくて……端から見ても“恋人同士”ってわかるほど態度に表れちゃいないかもしれないけど、しっかり心の中では愛しているんだろう。

「………なあ、ミノン。」

どういう風に伝えるかしばらく考えた後、一番思ったのに近い形で気持ちを言葉にする。

「はい?」

「サラマンダーってさ、すっごくミノンのこと、好きなんだな。」





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