ジタン達に追い付いた時には、伝説に描かれる竜の如き召喚獣が圧倒的な破壊を繰り返していた。人智を超えた力に、一瞬にして何百もの人間の命が蹂躙され……消えて行く。──状況は読めない。

その存在を忘れかけていた少女を地に下ろすと、大きく後ろにバランスを崩しかけ……何とか踏みとどまった。ビビが顔を覗き込み、呼び掛ける。だが変わらず返事はなく、少女が顔を上げることもなかった。

一際大きな爆発音がする。──女王が巻き込まれたのはここからでも目視出来た。こんな規模の爆発は未だ知らない、故に確定など出来ないが……余程の強運の持ち主じゃなきゃ死ぬだろう。元々手段として利用する位にしか興味はなかったし、大国の王が欠けたらどうなるのかなど庶民…それも末端の人間には関係がない。だから何の感情も湧かず、一つの事件の顛末を聞かされる様にして俺はそれを見ていた。……小娘や王女の悲鳴に、数多の人間の死に慣れきっている自分を再確認する。死には──殺戮には悲鳴を上げるものと知ったのは、そして忘れたのは……いつだったか。

取り乱し駆け出した王女を追い、またジタンと小娘がいなくなる。今度は明確に意思を持って此方を見たビビは、俺が少女を持ち上げたのを見届けると二人の後を追った。このお遊びみたいな行程を過ごすうち、ある程度諦めていたとはいえ……慣れないことをしている違和感に苦味を覚える。壊れた人形など、放っておけば良いものを。

海岸へ降りれば、死の間際らしき女王と──それに泣きながら寄り添う王女がいた。……散々利用され、宝珠の為なら構わないとこんなものを雇ってまで殺されかけたというのに……馬鹿だとしか思えない。俺の知らない[母親]への感情が、そうさせるのだろうか。だとしたらそれは随分と不合理で身の破滅を導きかねないものだ。無い方が良いんじゃないだろうか。

ふと、もう子守りは良いだろうと、ずっと微動だにしなかった少女を降ろすことにする。すると足場が悪かったせいか少女は支えを失った瞬間前に倒れて来た。自然と身体全体で受け止める形になる。だが、力なく凭れ掛かって来る痩躯はひどく軽く……ともすれば少女の存在を稀薄にすら感じさせる程だった。……本当に──生きているのか、こいつ。

このまま支えているのも面倒だと、半端に抱き抱えて適当な石に寄り掛かる姿勢で座らせる。──息を呑んだのはその時だった。

少女の頬に、似合わないモノが光るのを見つけたのだ。不意を突かれた様な驚きに……足が凍り付く。

それは酷く不自然だった。何の表情も感情もない顔の、何も映していない様な虚ろな瞳から、何かを表すであろう雫がいくつもいくつも零れ落ちる。人形、その形容が何より相応しい体(てい)の中、たった一つそれだけが少女が人間である事を主張していた。

女王は臨終を迎えたらしい……王女の泣く声が聞こえる。これからどうするのだろうかと、ジタンの方へ目線を向けようとした時──。

音を立てて、少女の身体が崩れ落ちる。

それはまるで、ふつりと操り人形の糸が切れたかの様だった。片腕で抱き起こして揺さぶってみたが反応はない。瞼は固く閉ざされ、顔色はいつか見た蝋人形の如く蒼白で……残る涙の痕さえなければ、人形そのものだった。

「……サラマンダー。……ミノン!?」

此方に歩いて来ていたジタンが、途中で少女が倒れていることに気付き駆け出す。少女のすぐ傍らに膝をつくと、血の気のない頬に手をやり眉を顰めた。手袋を取り、目尻に残っていた雫をそっと拭う。

「どうして………なんかあったのか、わかるか?」

控え目な聞き方には、俺がそれをわかっていることは望み薄だという思いが見てとれた。だが同時に……ジタンと少女との距離も。俺の勘違いでなければ、ジタンもわかっていない様だった。少女の──内面の様なものを。

「………知らねえ。」

ビビならわかるんじゃねえのか…と半ば押し付ける様に付け足す。するとジタンは頷き、少女を軽々と横向きに抱えた。……人間ってそう持つのか。

「……これから、アレクサンドリアに行く。一緒に……来てくれるか?」

何故か疑問形で文末を結ばれる。妙な訊き方をするものだと思った。まだこいつは俺の目的を把握していないらしい。

「………おまえの行く所ならな。」

ジタンは目を見開いた後……何故か中途半端に、目だけで笑った。


「じゃ、一緒に行くか。」



fin.



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