「…ミノン。眠れないか?」
寝付けないので夜風に当たろうとデッキに出たら、先客がいた。今は日付が変わる頃…ビビやエーコはぐっすり眠っている。
「ジタン様……はい。」
「オレもだよ。」
現在この舟は、イプセンの古城に向かっている。しかし夜にはエリンも眠る…停泊しているのはその辺の平原だ。
後ろから風に強く吹かれ、髪が乱れて金色がチラチラと視界に入る。掻き上げながら隣に立つと、ミノンがじっとこちらを見た。
「……ジタン様って、綺麗な髪の色してますね。」
唐突に口を開くミノン。前より随分と喋る様になった…以前は彼女の方から話し掛けて来た事なんて、数える程だったのに。
「そうかい?嬉しい事言ってくれるぜ。」
「金色で、明るい太陽みたいです。同じ金でも、冷たい感じの、薄い薄いライラの金の髪とは違う。」
「そうか?オレはライラの髪の色も綺麗だと思うけどなぁ…。」
「…私の生まれ育った世界では、月は一つで、薄い黄色をしているんです。貴方が太陽なら、ライラは月。明るさが違う…。」
ミノンは呟く様に言葉を切ると、綺麗な闇色の目を伏せた。風が彼女の白い外套を揺らして行く。
やがてゆっくりと顔を上げる彼女。すると、ふと目があった。よく笑う様になったミノンがふわりと微笑む。
「…瞳も、青空の色。ジタン様は晴れの日ですね。」
「何だよ〜能天気って言いたいのか?」
「ち、違いますよ!…キラキラ、綺麗だな…って。」
からかう様に言うと、ミノンは慌てて弁解した。懸命に首を振る姿が可愛い。
「…ジタン様は、明るく皆様を照らす太陽ですね。晴れの日の、ピカピカの。」
「ありがとう。でもオレはミノンやダガーみたいな黒髪、好きだぜ?」
「ありがとうございます。……私も、金とか…明るい色が良かったです。」
「…ミノン?」
ミノンが空を見上げる。目線の先には…赤と青の月が光っていた。
「両親からもらったこの髪色は誇りです。だけど、夜空みたいな暗い色じゃなくて……いえ…何でもありません。」
自ら発した言葉を切るミノン。
「ミノン。黒…オレは好きだ。夜空って綺麗だぜ?太陽も綺麗だけど、星だって…キラキラ瞬いて、懸命に光ってて…。」
綺麗だ…と言おうとしたオレは、思わずはっと息を飲んだ。
「……ミノン!」
ミノンの小さな肩がビクリと震える。しまった…彼女の前で急に大声を出すのはタブーなのに。
「……何でしょう…?」
戸惑った顔でこちらを向くミノン。
「あ…いや…えっと…。」
(…ミノンが、闇に溶けるかと思ったんだ。黒に、外套の白がすっと溶けて行きそうに見えた…ここからいなくなって…いや、気のせいだよな。)
気を取り直し、さっき続けようと思っていた事を言葉にする。
「ミノンの髪、綺麗だぜ。…ミノンは太陽でも月でもない、星だ。太陽や月より暗いかもしれないけど、しっかり輝いてる。それに、知ってるかい?星は本当は遠くにあって、近付けば近付く程明るくなるんだぜ。…な?だから、ミノンは星だ。」
「…星…。」
「そうだよ。しっかりした輝きを持っている、時には船乗りを導いてくれる、星だ。ミノンは大切な、オレ達の星だよ。…だから。」
どうか光っていて欲しい。
…オレの、側で。
fin.
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