「……え?」

「………。」

切り出したは良いものの何と付け足したら良いのかわからず、だんまりになってしまう。しかしよく考えたらこれでは装身具類に限定出来ていない──そうでもしなきゃ今のこいつが欲しいと思うものはきっと俺には叶えてやれない。そう思って、付け足そうとした時…。

「…ありません。」

にっこり笑って、ミノンははっきりとそう言った。

「………は?」

「はっ…て……ありませんよ、欲しいものなんか。私、幸せですから。」

あなたがいれば──と小さな声で付け加えられ、またあの気持ちが甦る。不快ではないが…足元が覚束なくなる様な感情。…まだこれが何なのか、解る兆しはない。

「…これ以上、何も要りません。」

今しがた迷いなく「幸せ」と言い切った少女は、すり…と甘えるように肩を寄せて来た。まるでそれを体現するかのような、幸せそうな笑みを浮かべて。

俺にはそれが──信じられなかった。

何故そう言い切れるのだろう。欲しいものなど、沢山あるはずだ。例えば<自由><愛><孤独の払拭>……<幸福>。みんな俺には到底与えられはしないが、それでも彼女の欲しいものには変わりないはずだろう。言っても仕方ないと諦め心の内に秘めるならまだわかる…だが、なぜそんな風に「幸せ」と言い切れる?

端的に言ってしまえば…俺には到底彼女が幸せとは思えなかったのだ。

「……おまえがそう思うなら、それで良い。」

当初の計画とは違ってしまうが、何も要らないと言っている彼女に何かを押し付けるのもまた計画の主旨と違うだろう。…[女に装身具(アクセサリー)を贈る]などという似合わないにも程のある計画を言われたまま実行に移していることに今さら気付き、内心ため息が出る。どうにもあの女には流されやすい。

「…あの…どうして、そんなことを急に?」

「……別に。…気が向いた。」

「…そ…そうですか…。」

流石に「おまえが依存しすぎてるから」と暴露するわけにもいかないだろうと誤魔化すと、ミノンは大体の見た目だけは普通のまま…ほんの少しだけ不満そうにした。こういう表情の僅かな差異が最近、…比較的わかる様になってきた気がするのは気のせいだろうか。

「………。」

不意にぽすっ…と寄り掛かられる。いつもより温かい感触──少し、熱っぽい。

「……熱、あるだろ。」

「…っ……気のせいですよ。」

僅かに肩を震わせた後にこりと笑ってはぐらかそうとするので、強制的に額に手を当てる。明らかに熱い…最初に抱き着かれた時はこんな風に熱くなかったから、また上がって来ているのを黙っていたんだろう。

「…気のせいじゃない。」

「……大丈夫です。」

「駄目だ。」

強制的に抱き上げベッドへと運ぶ。これは通常の発熱と違い病が原因ではないが、体力を消耗するのは一緒だ…ただでさえ無い体力を無駄に使わせることもない。

「や、やだっ…やめて下さい…っ!嫌です、私…大丈夫です…!」

「駄目だっつってんだろ。大人しく寝てろ。」

「嫌です…!だって、だって…また、帰っちゃう…!…やめて、一人にしないで…っ!」

泣きそうになりながら懇願する声に、三度(みたび)あの気持ちが甦る。

おまえは、俺が来なかったら──来られなくなったら、どうするんだ?

「……おまえが眠るまで傍にいる。…もともと今日は、あまり長くはいられない予定だった。」

「…っ…。」

「………大人しく寝ないと、眠るまでいてやれない。」

まるで本物のガキを寝かしつけるようにして齢18の少女をベッドに横たえると、漆黒の瞳は未練がましくこちらを見つめて来た。小さな右手が躊躇いがちに此方へと伸ばされる。

「……手……。」



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