「ジタン! おねえちゃん、どうするって?」
ミノンの客室から戻ると、ビビが真っ先に訊いてきた。まだ自分の中でもよく整理できてないことを、なるべく正確に伝える。
「……ミノンは……オレ達とも行かないし、ダガーと一緒にもいないってさ。」
「えっ!?」
U-Cブルメシア(sideZ)
「どうして……!?」
「わからない。……けど、元々ミノンが何でオレ達について来てたか、オレは知らないんだ。よく考えたら、ミノンのことなんてろくに知らない。」
尋ねる機会も勇気も持てていなかったことに今さら気付く。オレがミノンに関して知っていることってなんだ? ……せいぜい名前と見た目と、表面的な性格くらいじゃないか。
「わたしも確かに……よく知らないけど……。」
「……なんとか説得できない? ダガーおねえちゃんたちと、一緒にいるようにとか。ひとりなんて……さびしいよ……。」
オレだって、彼女を一人にするつもりなんかなかった。部屋に入った時は、ダガー達と一緒にいるように説得するつもりだった。だけど、彼女の行動はずっと早くて──止められなかった。
「……無理だ。もう、ミノンはここにはいない。……皆様によろしくっつって、出てった。」
「えっ……!?」
「それはまた、随分と急じゃの……。」
「……何か悩んでたみたいなんだ。オレがアドバイスしたら、それも一つの考えですねって……。」
そう、彼女は悩んでいたんだ。そのはずなのに、そこに入り込む隙なんかなくて……説得とかそんなことを考える余裕なんか、なかった様に思う。まるで花びらが風にさらわれるみたいに――彼女はいなくなってしまったから。
「……なんの、だろう……。」
「わからない……でも、また会える日を待ってるって言ってたんだ。きっとそのうち、帰って来るさ……。」
ただ無茶をしないでいてくれていることだけを願う。──もし、あの力を使って何かをするつもりなら……<彼女>が傷むことがないようにとも。
「皆さん、狩猟祭伝統の狩猟料理が出来上がりました……どうぞお食べ下さい。」
良い匂いの料理が運ばれて来る。気がかりはいっぱいあるけど、腹が減っては戦は出来ぬってのは有名な話だ……門が開くまで時間があるそうだし。
「この料理は手で食べるのが習わしブリ、カッコ等気にせずガツガツ食べてくれブリ。」
美味いので言われた通りガツガツ食べていると、ダガーが食べていないのに気がついた。お姫さまだし、苦手なのか?
「お召し上がりにならないので?」
「ええ、ごめんなさい。」
少し気になったが、夢中で食べているうちに何だか眠たくなって来た。腹一杯で眠くな……ってそんなバカな!
そう思った時には既に遅く、意識は抗えず眠りの底に落ちていった。
気が付くと、ダガーとスタイナーがいなかった。皆が次々と起き出す。
「睡眠系の薬の様じゃな。」
「スリプル草だ……。」
「やられたブリな……。」
「……眠れないって言うからダガーに分けてやったんだ……。」
どのタイミングかはわからないけど、料理に混ぜられたんだろう。信じられない使い方に内心で頭を抱える。まさか、こんなことになるなんて……!
「箱入りと思っていたが、あの娘、意外とやるものじゃ。」
「ちっ、一体何考えてんだっ!? まさか先にブルメシアへ向かったのか?」
急いでリンドブルムを発ち、ブルメシアを目指して歩き始める。途中の沼でクイナというク族を仲間に加えて、オレ達はギザマルークの洞窟へ向かった。
洞窟内のブルメシア兵は満身創痍で、口々に王の安否を気遣っていた。フライヤの表情がだんだん険しくなる。
本来なら神だという洞窟の主──ギザマルークを何とか倒して洞窟を抜けると、王都入り口にある居住区に着いた。こんなところからでもわかるあの臭い……<戦争>という現実を、肌で実感する。
「……!?」
一度目を閉じ息を吐いてから門の中へと足を踏み入れると、何故か次々に倒れていく黒魔道士兵達と慌てるアレクサンドリア兵達に出くわした。原因はさっぱりわからないけれど、とりあえず犠牲者が増えないだろうことに安堵する。だが美しかったであろう町並みは大部分が全壊状態で……フライヤの表情は暗いままだった。
王に会いたいというフライヤの望みを叶える為、更に奥へ向かう。しかし……。
「……フライヤ、この様子じゃ、ブルメシア王の命は、きっと……。」
たどり着いた宮殿は絶望的な状態で……ついにフライヤは膝をついてしまった。主君を失うって気持ちはわからなくて、何も声を掛けられずにその場で立ち尽くす。
「……誰かおる!」
身の置き所に困っていた時、フライヤが不意に立ち上がった。誰かの気配に気付いたらしい。彼女を追いかけて行くと、最奥でブラネとベアトリクス……そして軍人にしては線の細い若い男を見つけた。ベアトリクスに勝負を挑んだ兵を庇い、戦うが……。
強かった。かなわなかった。
「ベアトリクス、もう良いか? クレイラ侵攻の準備をするぞ!」
(クレイラ……!?)
ベアトリクスは行ってしまった。悔しい……だけど、体が動かない。
若い男がこちらを見て何か言った気がするけど、雨の音で聞き取れなかった。銀の竜が羽ばたき飛び去って行く。
途切れ途切れの意識の中、オレは確かに暖かい何かを感じた。何なのかはわからなくて、でも懐かしいような気分になる。
目が覚めた時、雨に濡れて重いはずの体は心なしか軽かった。
クレイラへ、向かわなくては。
***
姿を隠し、上空からブルメシアの王都を見渡す。無惨に破壊された蒼い建物。すでに大部分が廃墟と化してしまっている様だ。
U-Cブルメシア
(軍はほとんどが黒魔道士兵……人間は僅かか。)
深く息を吸って、吐く。やることは決まっていた。これ以上の犠牲を生まないと決めた今、躊躇いはない。
「彼の者達の力を、我が手に。」
集中してから魔力を抜き取る詠唱を口にする。魔力がなければ黒魔道士兵は止まるし、人間はしばらく魔法を使えなくなるからだ。この感覚──自らの内なる力に集中し全ての要素を従わせる感覚は、いたく久しぶりだった。
ジタン様が、あの日の約束を違えることなく守り続けているからだ。
本当に、強い人だと思う。今まで私利私欲にまみれた人間に利用されたことは数知れないが、あの様な約束までする人に会ったことはなかった。
(……それなのに、私は……。)
頭を振って集中する。抜き去った魔力は石の様な見た目になり、次々と私の手に収まった。魂を封じたものと似た見た目だ。力の――結晶。それは何故か、ひどく小さく思えた。
「…………。」
ジタン様達の気配を感じたので、高度を下げてみる。
見えた広間には、大柄な女性と、若く美しい男女と共に……戦い、敗れたらしいジタン様達がいた。知らない調理師のような人も一緒だ。
「ベアトリクス、もう良いか? クレイラ侵攻の準備をするぞ!」
女性二人が歩いて行く。男性も、しばらくすると銀の竜に乗って行った。
そっとジタン様達に回復の術をかける。
次はクレイラ、か。
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