「シド大公……ご無礼をお許しください……。」



U-B選択



入ってきた血塗れの兵士が言うには、フライヤ様の故郷であるブルメシアという国が襲われたらしい。相手はアレクサンドリア軍と大量の黒魔道士兵……そう伝えると、ブルメシアの兵士は目の前で息絶えた。

「……お母様がブルメシアを……!?」

人が死んだ。
私の、目の前で。

なぜ私は今、力を使わなかった?

使えばあの人は助かった。助けるのではなかったのか?

体に電気が走り始める。前も……いつだったか……。

混乱する頭では聞くことができなかったが、ダガー様はリンドブルムに残されることになった様だ。王女を戦争になど連れて行けない……もっともだ。

「……ミノン、おまえはどうする?」

「…………考えます。……少し、失礼します。」

「っ、おい、ミノン!?」

「ごめんなさい……一人に、してください。」



しんとした客室で一人になっても、まだ頭の中は混乱していた。体は痺れる様だし……どうしたというのだろう。

(何故、助けなかった。そうだ、無闇に助けては理を乱す……でも、私は何の為にここにいる? 助ける為では、ないのか。)

考えていて、耐えられなくなった。

どうして何もかも上手くいかないのだろう。私は救う為、ここにいるはずだ。なのに何一つ救うことができない。

襲い来る苦しさに横になると、痺れる痛みで意識が遠くなった。この痛みは、何なのだろう。


──……その力を以て、人々を……。



どれだけの時間が経ったのか。控えめに扉を叩く音で目を覚ます。

「……ミノン。」

「…………ジタン様?」

「入って良いか?」

「……はい。」

返事をすれば、ジタン様はひどく遠慮がちに入って来た。まだ痺れたままの体を何とか起こす。

「悪い、気付いてやれなかった。顔色悪いな……急に色々で疲れちまったか……。……隣良いか?」

こくりと頷くと、ジタン様は私と同じ様に腰掛けた。青の瞳にまっすぐ見つめられる。

「あのさ、……なんか、悩みとかさ……あるのか?」

「……っ!」

核心を突いた言葉に思わず目を瞠る。わかってしまうものなのだろうか。……悩み、と言えるのかもわからないけれど。

「…………。……無理にとは言わないけど……オレで良ければ、話せよ。いや、誰か呼んで来ても良い。……一人で考え込むのは、良くない。」

「…………。」

ジタン様の――“彼”の瞳は、真摯な光を宿していた。……訊いてみようか。必要とされるのか……私の存在は。

「……ジタン様。行動しなければ犠牲が出る。でも、行動したら、もっと大変なことになるかもしれない。……あなたなら、どちらを選ばれますか?」

行動する為に私はここにいると思っていた。だけど行動しないこともできる。どちらなのかは、やはりこの人が決めた方が良いのではないか。私には……決めることなど、できない。

「……それが、ミノンの悩みなのか?」

「…………。」

もし行動しないと言われたら、私は必要ない。ここから去って、…………。

「……そうだな。……オレは、出来る限りのことはやるって決めてる。だから……オレなら、行動するぜ。」

「…………大変なことに、なるかもしれないんですよ? それでも……?」

「だって、大変なことって起こるかわからねえんだろ? だったらできることやって、少しでも目先の被害を食い止めたいじゃねえか! たとえ結果を後悔することになったって、その時の気持ちを後悔はしないぜ。」

この人らしい……と、わけもなく思った。

「そう、ですね。……それも……一つの考え方です。」

少し良くなった痺れを堪えて立ち上がる。

「ミノン? お、おい……ちょっと待てよ、さっきから何かおかしい……まさか、おまえ……。」

「勝手ながら、ここで一度お暇申し上げます。……また会える日を、お待ちしております。」

「……!?」

「皆様にも、お伝えください。では……ごきげんよう。」

小さくお辞儀をして、空間を移動する。


行き先はブルメシア。

必要とされた。だから、やると決めた。





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