船が入り込んだのは、大きな城の中だった。



U-@リンドブルム



「これはまた随分と型の古いカーゴシップですな。」

「わたくしはアレクサンドリア王国の王女、ガーネット=ティル=アレクサンドロスです。シド大公殿に会いに参りました。」

あからさまに疑いながら近づいてきた兵士達は、最初ダガー様の言葉を聞き入れなかった。乗ってきたものを見れば信じられないのも道理だろう。しかし、ダガー様が首から下げた宝石を示した途端、態度を変えて駆けて行く。上の人間を呼びに行った様だ。

「失礼しました、ガーネット姫さま。」

周囲の人に「オルベルタ様」と呼ばれた初老の男性はすぐダガー様が本人だとわかった様で、手早く兵士達を下がらせた。何故か私とジタン様も含めて、シド大公に会いに行くことになる。ダガー様のお父様……つまりは元アレクサンドリア王の親友だった人らしい。



大公の間には──誰もいなかった。しかしオルベルタ様には何か考えがあるようにも見える。

「ブリブリ。ブリブリッ! 久しブリー!」

オルベルタ様が空の玉座に向かって呼ぶと、虫が……どう見ても人間に見えないものが出て来た。オルベルタ様は普通の人間に見えるけれど……。

一騒動あったが、結局はその「ブリ虫」が「シド大公」で、術でその姿になっているということだった。今日は疲れているだろうと客室へ案内される。



部屋で特に何もせず休憩していると、ジタン様が訪ねて来た。

「なぁミノン。これから出掛けないか?」

「……?」

「商業区でおまえの剣、買おうぜ。武器屋があったらって言ってたろ?」

「……商業……区……。」

「あれ、知らない? じゃあ案内してやるよ! リンドブルムはオレの故郷でさ、庭みたいなもんなんだ。……もしかして、疲れてるか?」

「いえ……大丈夫です。……ご迷惑でなければ、喜んで。」

「よし、決まりだな!」



エアキャブという乗り物に乗って、商業区という所に向かう。窓から見える町はとても広く、沢山の人がいて、沢山の店があった。沢山の人種がいて、沢山の文化があった。

「ここが商業区だ。店がいっぱいあってな、日常品から武器まで何でも揃ってるんだぜ。」

違和感なく手を引かれる。ジタン様は広く複雑な街を迷いなく歩くと、一番のお薦めだという武器屋に案内してくれた。

「どんなのが良いんだ? 短剣か? 長剣か? まさか騎士剣か?」

「……あまり……重いものは、使えないので、細身の……軽そうな……。」

力を使って補助をしてもなお不足があるほど元来は脆弱なため、覚えたのは身軽な戦術だった。様々な武器が並ぶ中、長短一対の剣が目に留まる。

「…………。」

「お、なんだ? それが良いのか?」

長い方はかなり細く、白く見える刀身が印象的だ。鍔には細かい模様が入っていて、護拳の部分は羽根を模した造りになっている。短い方は淡い金色の刃に簡素な柄をしていた。

「ユニコーン……だってさ。見た事ないな。親父さん、これ何なんだ? 実戦で使えるのか?」

「珍しいだろ? 見た目は装飾用みたいだが、この質は間違いなく実戦用だ。それに斬りを犠牲にした分、速さや突きに長けてる。」

「……でもこれ、剣戟に耐えられねえんじゃ? レイピアにしたって随分と細いじゃねえか。」

長剣を指差すジタン様に、店主は短剣の方を指差して言った。

「いいや、受け止めるのはそっちだ。折れちまうからな。……今ならセットでお手頃価格な900ギルだぜ。」

「ふーん……ミノン、どうする?」

まるで、私の希望を全て採り入れた様な剣達だ。細身で軽く、速さと突きに長ける長剣……盾となり受け流す為の短剣。これ以上に良い品があろうか。

「……お願い……します。」

「よし、決まり!」

「毎度あり〜。」

両方を腰に挿してみる。幸い邪魔にはならなさそうだ。

「ローブで普段は見えないけど……これからあの華麗な剣が見られると思うと、楽しみだぜ!」

華麗……お世辞だろうか。



案内ついでとのことで、次はジタン様の行き付けの飲食店に向かった。あまり格式は高くなさそうだ。見た目からすると居酒屋だろうか。

「今日のスペシャルは……沈黙のスープか、悪くないな。」

慣れた様子で中に入ると、ジタン様は店主らしき人物に向かって叫んだ。

「おやっさん、いつもの安っちいスープを一つ頼むよ!」

「だ、だれだ〜!? うちのスープにケチつける奴は! ……お! ジタンか!」

短い会話を終えたジタン様は、今度は料理を運んでいる女の人に声をかけた。見たところ親しいという雰囲気ではないが……ナンパ、だろうか。

「そこのシッポ、他の客に迷惑だぞ……。」

騒がしかったのか、低めの女声で咎められる。まっ赤な外套を羽織った、亜人種の女の人だ。

「なんだと!? そういうおまえもシッポがあるじゃねえか!」

「私のシッポをおまえのと一緒にしないでほしいな。」

女の人がゆっくりと振り向く。するとジタン様は目を見開いて驚いた。

「……久しぶりじゃな、ジタン。」

知り合いだったらしい。ジタン様の表情を見て女の人が笑う。

「よ、よぉ!」

ジタン様はいつもの調子に戻ると、散々名前を間違えて怒られた。思い出せないわけではなさそうなのに……わざとだろうか。

「ホント、久しぶりだな、フライヤ。」

「ほんと、相変わらずじゃな。」

「あれからどうなんだ?」

二人の間で様々な会話が交わされる。狩猟祭……恋人の消息……私にはわからないことばかりだ。

「……ところでそちらのお嬢さん、名を何と言う?」

「っ!」

急に自分に会話の矛先が来て、また固まってしまう。

「…………美音……です……。」

「ほう、可愛らしい響きじゃな。」

「……ありがとう……ございます。」

今度こそ……と思って口を動かすと、何とか喋ることが出来た。訥々としてしまったが、言葉にはなっていたと思う。

「丁寧な子じゃの。ジタンも見習ったらどうじゃ。」

「全力で遠慮しとくぜ。ミノン、帰るぞ。……またな、フライヤ!」

「……ごきげんよう……。」




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