リナリアの幻想 | ナノ
抵抗
痛い、気持ち悪い…!
私の秘部が濡れないから焦れたのだろうか。
空いた手で乾いている秘芯を押しつぶされてぐりぐり動かされたが、痛いだけ。それで愛撫のつもりらしい。それらはあまりにもお粗末すぎた。
その間もがしがしと膣を指で擦られるが、ただただ痛い。
「いやっ……! 痛い、痛い、やめて…!」
涙がにじむ。
苦痛に叫ぶも、誰も助けてくれない。身を捩っても、手枷がそれ以上の動きを許さず逃げることもできない。すべての抵抗が無に帰す。
私はこのままこの男に犯され、孕まされて、望まぬ子を産まされるのか。
ルーカスはこんなことしなかった。
媚薬に浮かされながらも、乱暴なことはしなかった。私を大切に抱いてくれた。時間を掛けて私を高みへといざなってくれた。たくさん私を愛してくれた!
私はあの時、好きな男性に抱かれる喜びを知った。とても幸せで与えられる痛みすら愛おしかったのだ。
だけど今は違う。
望んでいない行為をよく知らない男に強要され、乱暴を受けているだけ。
同じ行為でも全く意味合いが違う。感じるわけがない。一方的に苦痛を押し付けられるだけのそれは拷問同然である。
「感じてるのか、濡れてきたぞ」
子爵がからかうように声をかけてきたが、不快である。
そんなわけ無いでしょう、痛いのよ。
あんたが乱暴に触るから血が出たんじゃないの。
この、下手くそ……!
悲しみ通り越して怒りすら湧いてきた。
「まぁいい、一度子種を出してしまえば、なんとかなるだろう」
思ったように濡れないので諦めた子爵は私の膣から指を抜いた。そして勃ち上がった男根をしごいて見せつけた。
同じ男性に存在するものなのに、私には違うものに見える。
「ぃや…! いやっ!」
気持ち悪くて、次に行われるであろう行為に抵抗しようとして腰を引いたが、捕獲されて身動きを完全に封じられてしまった。
「優秀な子供を孕め。私の新しい身体となる魔力持ちの男児を」
嫌だ、嫌。
忘れたくない。彼に抱かれたときの感触を。
足の間に身体を割り込ませて、ピトリと秘部にくっつけられた生々しい感触にゾッとする。にちゅ、と押し付けられた感覚に全身寒イボが立った。
「イヤッ! ルーカス助けて!」
耐えられなくなった私は、まだ自由に動く足をバタつかせて抵抗した。暴れて暴れて、子爵を蹴りつける。
それ以上はなんとしてでも拒みたかった。
「ルーカス! ルーカス!!」
ここにはいない彼に助けを求めて叫んだ。
……ルーカス助けに来てよ!
私を守ってくれるって言ったじゃないの!
私が望んでいるのは彼だけなの。他の男を受け入れるなんて絶対に嫌。今の現状を諦めて受け入れるなんて絶対に嫌。
あの晩、彼とキスを交わしたときに言えばよかった。私もあなたを愛していると。
彼の手を素直に取っていればよかったのに。彼の想いに応えたら良かったのに。
「無駄だ。助けは来ない」
子爵は暴れる私の太ももを力任せに上から押さえつけて動きを封じた。
初めてルーカスと結ばれたあの日の晩とは違う。彼を求めて彼を受け入れたあの幸せな夜とは正反対だ。
この行為に私の気持ちは反映されていない。私は一方的に奪われて利用されようとしている。
魔法が使えない上に、身体を拘束されて抑えつけられた私は無力だ。
だけど諦めるつもりはない。この最低最悪の卑劣男を受け入れてたまるか。
「あんたの子なんか産まない! 絶対に嫌!」
私は絶対にこの男の言いなりにはならない。絶対に心折れたりしない。
その意味を込めて睨み付けてやる。
「なんだと…?」
すると子爵はそれに反応したので、私は続けて言ってやった。
「なんで私があんたの望みを叶えてあげなきゃいけないのよ! 貴族様の魔力至上主義に、一介の平民を巻き込まないでくれる!?」
そもそもそうだろう。
この男は過去にもウルスラさんを含めたたくさんの女性たちを利用して傷つけてきた。だけど被害にあった女性たちは、たまたま魔力を持っていただけの罪なき無関係の女性たちじゃないか。
この男が魔力に取り憑かれているのはわかるが、それは私達には関係ない。
それで差別をされていて大変だったのは察するけど、それをしたのは私達じゃないじゃないの。
なんでこんなことされなきゃならないのか。理解できないし、してあげようとも思わない。
「大体、あんた下手なのよ! …むっ」
「私を拒絶するな…!」
更に口撃してやろうと口を開いたのだが、それ以上聞いていられなかったのだろう。がっと顔の下半分を手で塞がれる。頬に手が食い込むくらい強く。
口だけでなく鼻まで塞がって息ができない。苦しさに涙が目尻から溢れて耳の中に流れ込んだ。
「ふざけるな! お前に私の何がわかる!」
私の口撃に引っかかった子爵は何やらぎゃんぎゃん喚き始めた。
行為の続行は一旦阻止できたけど、今度は息を堰き止められて生命の危機が訪れそう……
「貴き血を受け継ぐ貴族の子を産めるのは光栄なことに違いないのに、どの女も喚いて嫌がって逃げようとする! 私はこの歴史あるハイドフェルト子爵家の血を受け継ぐものだぞ! それなのにただの平民女が口答えするな!!」
私の鼻と口を力いっぱい抑え込んだまま、子爵が顔を真っ赤にして怒鳴りつけてくるが、私は反論すら出来なかった。
息が、出来ない…くるしい
目の前がボヤけ始めたその時、『バチン』となにかが弾けて破かれた音が響き渡った。