リナリアの幻想 | ナノ
乱暴
すん、と鼻を鳴らした子爵は顔をしかめた。
「臭うからこの女を風呂に入れておけ。…ドブの臭いがする」
汚いものに触ってしまったと突き放すように押し出された私はムッとした。
魔法で消したつもりだったけど、下水道に入ったときの匂いが染み付いて残ってしまっているんだ。
臭いのは仕方ないとはいえ、誰のせいで臭くなったと思っているのか。とても腹が立つ。
魔封じされた私は抵抗の手段を奪われてしまい、そのまま両側に立った男たちに引っ立てられる形で浴室へと押し込まれると、そこにはふたりの女性が待っていた。
お仕着せを着たその女性らは静かにこちらを見ている。彼女たちの目はどんよりと淀み、どこか焦点が合っていない。
メイドさん、だろうか?
「あ、あの…」
「……」
声をかけてみたけど応答がない。彼女たちは私の服に手をかけると脱がせ始めた。
「あの。待ってください。私はここから脱出したくて」
「……」
同じ女性ということで同情して逃してくれないだろうかと思ってもう一度声をかけるけど、やっぱり応答がない。
……耳が聴こえないのだろうか? 動作でもたつくことはないから、目が見えないというわけではなさそうだ。
「あの…あなた達も無理やりここに連れて来られたの…?」
「……」
やっぱり、返事がない。彼女たちの目は死んでいる。
そこに彼女たちの意思は見えなかった。
異様な雰囲気を醸し出す女性たちは黙々と私をお風呂に入れて、きれいに磨く。女性相手なら私でも抵抗できたけど、彼女たちの異様さが恐ろしくて戸惑っていた私は固まってただされるがままであった。
お風呂でお世話されているときは変なことは何もされなかった。
されなかったけど、準備されていた服がおかしかった。
洗い上がった身体をタオルで優しく拭われたと思ったら、女性たちは紐とレースでできた小さい布切れを私に着させようとした。
着ている意味があるのかわからない、娼婦が身につけるようなえげつない夜用下着だったのだ。
「こんなの紐じゃないの!」
思わず叫んだ私だったが、彼女たちは何も聞こえないと言わんばかりに私の身体にそれらを装着して、上からネグリジェもどきの夜着を着せた。
「終わったか」
「きゃああ!」
無許可で扉を開けたのはさっきの男たちだった。
なんてことを。外から伺いもせずに浴室の扉を開けるとは、紳士の風上にも置けない。
私は非難の視線を相手に向けたが、男たちはなんのそので、再び私の腕を掴むと浴室から引きずり出した。
「ロート様がお待ちかねだ、歩け」
「離して!」
抵抗するにも、男に力で敵うわけもない。そのまま引きずられるようにして近くの部屋に押し込められた。
連れてこられたのは地下の監禁部屋ではない。
細い秘密通路のような道を経て辿り着いたその部屋は見たところ貴族が使うために存在するような部屋なのだが──…
部屋の中には乗馬用の鞭や首輪、手枷、拘束具などが飾られていて不穏な空気を感じ取った。
手前に小さなテーブルとソファがあり、そこに子爵はいた。先程まで服を着ていたのに、いつの間にかバスローブに着替えていたらしい。
それを見た私は、これから行われるとこを想像してゾッとした。
「いや!」
男たちの手を振り払って部屋の外に飛び出そうとしたが、その動きを想定していた男のひとりに捕まえられて地面に叩きつけられた。背中を打ち付けた私は肺を思いっきり圧迫されたような衝撃を受けてケホケホとむせた。
「おいおい、見えるような傷をつけるなよ? 萎えるから」
苦痛に呻く私を見下ろした子爵は楽しそうに笑っていた。
「おら手間かけさせんじゃねぇよ。立て」
「うぅっ…!」
手下の男から腕を捻り上げられるようにして無理やり立たされた私の手首にカシャンと何かがはめられた。
鎖と繋がったそれを見て私は息を呑む。抵抗を封じるために手枷をつけられたのだ。
「離してよ…っ!」
私は渾身の力で腕を振り払って、部屋の隅に逃げた。扉の前には男たちがいる。子爵も待ちかねている。
この抵抗も大した時間稼ぎにはならないだろう。
だけど黙って犯されるのはゴメンだった。
「私に近づかないで!」
威嚇するように叫んでみたが、子爵は笑みを保ったままだ。むしろ、私が喚いて抵抗する姿を見て楽しんでいるようにも見える。
私の頭の先から爪先まで視線を送った子爵はニヤリといやらしく笑った。
「処女じゃないのが不満だが、顔も身体も上物だから楽しめそうだ」
と言われた私はふと自分の体を見下ろして恥ずかしくなった。
このネグリジェもどきの夜着がスケスケの素材だから、際どい下着から身体まで丸見えなんだ。全裸でいるよりも逆に卑猥な格好していると自覚した私は身体を腕で隠した。
「さぁ、来るんだ」
「!」
目の前にやってきた子爵に腕を掴まれたと思ったら、力任せに大きなベッドに投げ飛ばされた。その反動でぎしんぎしんとベッドのスプリングが悲鳴を上げる。
ジャラリ、と頭上で音がしたと思えば、私の両腕がくいっと引っ張られた。
再び与えられた衝撃に私が呻いていた隙にすかさず手枷についている鎖をベッド脇に固定されたのだ。
両腕が使えなくなってしまった。しまった。と青ざめたときには遅かった。
私の体に跨がった子爵はずいっと私の顔に近づいて、ヘーゼル色の瞳で覗き込んでくる。
「美しい顔だ……君と私の血を継いだ、新しい身体はどんな姿かたちをしているだろうか」
恍惚とした様子でつぶやく子爵。
ふと彼の言動に疑問を抱いた。
さっきもちょっと引っかかったけど……新しい身体ってなに? この人は魔力を持った子どもが欲しいんだよね?
それなのに新しい身体って表現はなんかおかしい気がするのだけど…
「無事、魔力持ちの身体を産めば、それなりの扱いをしてやろう。従順にしていればひどくはしない…」
するりと指で唇を撫でられた。
私は反抗の意味を込めてそれに噛み付いた。
「っ…! このっ!」
ぱしりと頬を叩かれ、頬に熱が走った。その後もう片方もばしんと叩かれる。加減を忘れたのか、自分の感情のままに暴力を振るう男。
痛みを感じながら、どこか冷静な私は心のなかで突っ込んだ。
この男、あの連続婦女暴行男と同じじゃない。自分の思い通りに行かなければ力で組み伏せる。
貴族の血が流れていても同じ行動するんだなって。
怒りで興奮していたのか、顔を真っ赤にした子爵は、何度か私を平手打ちして満足したのだろう、ふぅふぅと肩で大きく息をして落ち着きを見せると、私の身体に触れ始めた。
愛情も労りもない、ただ欲だけを感じさせる触り方で両胸をワシワシと握られ、痛みを与えられた私は眉間にシワを寄せて耐えた。
心もとないひらひらの夜着をめくられると、これまた隠している意味のない下着姿をお披露目する羽目になる。
子爵はレースの胸当てをずらした。こぼれ落ちた私の乳房を鷲掴み、噛み付くように胸の飾りにしゃぶりつかれる。
それには不快感しかない。
じゅうじゅうと下品な音を立てて吸われ、時折舌で舐め回されるが、悪寒に襲われるだけだった。
汚される恐怖に泣きたくなった。まるでナメクジが身体を這い回っているようで気持ち悪い。
「いやぁぁ…!」
身体をねじって動こうにも、手枷が邪魔をして制限される。
子爵は乳房全体を舐め回すようにしゃぶりつくすと、私の太ももを大きく開かせた。
「触らないで! いやっそこだけは…!」
足をバタバタ動かそうとしたが、しっかり抑え込まれていて無駄な抵抗に終わった。
隙間に指を差し込まれ、紐のような下着をずらされて秘部を晒されてしまった私はとうとう泣いてしまう。
嫌だ、なんでこんな人に見られなくてはならないの…
「ちっ濡れてないのか」
私が反応していないことが気に入らないようで、子爵は不機嫌に舌打ちしていた。
そして何を思ったのか乾いた指を、乾いた私の秘部に突っ込んだのだ。
「…っ!?」
乾いたそこに気遣いなく乱暴にがしがし指を突っ込まれて、秘部に鋭い痛みが走った。
「いたっ…痛い! やめてよ痛い!」
身体を抑えつけられていて、動くと余計に乱暴にされた。
どんなに悲鳴を上げても、相手がやめる気配は一切なかった。