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悪役令嬢のその後【キャロライン視点】

 乙女ゲームの隠し攻略対象キャラ・ヴィクトル・エーゲシュトランド公子によって、私の世界は壊された。

 夜遅くの突然の襲撃。屋敷の門を破壊してなだれ込んでくる暴動者たち。
 部屋に押しかけてきた暴漢共に私は犯されそうになった。
 逃げようとした私は床に引き倒され、ドレスや下着を引き裂かれた。露になった裸体をなめるように見渡す男たちの目は獣そのものだった。じたばた暴れても無駄だった。複数人で抑え込まれて下着を脱がされ、足を大きくカエルのように開かされたのだ。ニヤニヤする男たちは順番について話しながら、下穿きを緩めていた。
 無理やり男根を突き立てられそうになり、もうだめだと思ったその時、その蛮行を制止する声が響き渡った。

『やめないか! 無抵抗の女に手を出すな!』

 それは、前世の私が愛し、今世の私が結ばれたいと願った公子様。
 彼は私の姿を認めると渋い表情を浮かべていた。

『我らの目的は領主の首だ。前もって女に乱暴するのは禁止だと言っただろう』

 ──皮肉なことにこの暴動を先導したのは私の推しであるヴィクトル様だった。

『どうしてこんなひどいこと!』
『お前の親がしたことを俺もやり返しただけ。我が国はこれよりもひどい目に遭ったぞ』

 彼は私への憎しみを隠さなかった。
 軽蔑と侮蔑の瞳で冷たく見下ろすその瞳。
 違うの、私は溺愛エンドに進みたかっただけなのに。
 淡い水色の瞳に私が映って、それで愛していると囁かれたかっただけなの。

『幾人もの娘が今のお前のように身体を開く羽目になったんだろうな。最後まで致されなかっただけマシと思え』

 そしてその足で、地下室に隠れていた私の両親を始末しに向かっていった。




 ──城壁の一番高いところに吊るされた両親の生首を見上げた私は呆然としていた。

 目を閉じた彼らはもう目を開かない。数時間前までお話ししていたはずなのに、もう私の名を呼んでくれないのだ。
 転生先といえど、私は彼らから生まれて育ったのだ。親として慕っていたことには変わりない。
 一晩で私は自分の大切なものを一気に奪われたのだ。

 自分がされたことをお返ししただけだと彼は言っていた。
 私は知らなかったの。陛下に命じられたお父様がエーゲシュトランドを襲わせたなんて。だって乙女ゲームにはそんな設定なかったもの。
 ヴィクトル様は私を憎んでいた。それこそ殺したいほどに。私がしたことじゃないと訴えても、彼の怒りを買うだけだった。

 彼は最後に私に言った。『復讐したいならいつでもかかってくるがいい。正々堂々と迎え撃つ』と。
 私をこの場で殺さないのは、彼なりの慈悲なのかもしれない。
 でもそうじゃない。私が望んでいたことはそういうことじゃないの。

 私はあなたを愛しているの。
 私はあなたに愛されたかった。だからこの世界を変えようと努力したのに。

『──…こんなはずじゃなかったのに』

 ヒロインによって強制力が働かないように、周りの攻略対象への接し方は気を使ったし、それなりの立場に立てたと思っていたのに。
 何もかもあのスラムの娘のせい。


 私に残されたのは、結局──悪役令嬢の末路だった。
 どんなに裏工作しようと、悪役として生まれた私には幸せになる道はなかったのね。これが強制力というものなのかしら。

 裁判にかけられたヴィクトル様の姿を見るのが辛くて、私は裁判に出廷することもなく屋敷に引きこもっていた。彼は即日処刑されるだろうとあちこちで噂されていた。
 両親を殺した仇となってしまった彼だけど、それでも私は彼を愛していた。だから彼が処刑される姿なんか見たくなかったのだ。

 サザランドを継ぐために他所から養子でやってきたお義兄様がバタバタ動き回って処理に大変そうだったのは分かっていたけど、もう何もしたくなかった。ここにリセットボタンがあればいいのにと毎日考えていた。

 鬱々した日々を送る私の元に、とある人が会いに来た。

「あぁ、愛しのキャロル、こんなに痩せてしまって」

 私の愛称を呼びながら、優しく頬を撫でたのは元婚約者のマルクだった。
 第二王子殿下による横やりが入ったため、婚約白紙になった相手だったけど、彼とはそれなりに友好的に接していた。乙女ゲームのシナリオでは蛇蝎のごとく嫌われていたはずだけど、ここでは違う。

 私を心配してお忍びで会いに来てくれた優しい元婚約者の優しさに触れた私は、涙が溢れるのを止められなかった。

「キャロル、ここを出よう。まもなくサザランド伯爵家はなくなる。諸外国の横やりが入ってきたことで、陛下や君のお父上のしたことが明るみになったんだ。義兄上は爵位を受け継がずに返上するつもりだそうだ。そうなれば君は平民に下り、その尊い身を悪用されぬよう修道院に入れられることになるだろう」
「えっ……」

 マルクから、ヴィクトル様の裁判の風向きが変わったのだと言われたとき、私はどんな感情だっただろう。
 彼が処刑される可能性が低くなったことに喜べばいいのか、両親を殺した仇が生きているこの状況を悔しがるべきなのかわからなかった。

 彼に言われるがままに、着の身着のままでマルクの家の馬車に乗って連れてこられたのは彼の領地の屋敷の離れだった。婚約者時代に私も何度かここへ連れてきてもらったことがある。

「既製品になってしまうけど、女性用の衣類をいくつか用意している。足りないものがあったら言ってほしい」
「ありがとう……縁が切れてしまった私にこんなに親切にしてくれるなんて……」

 私の境遇を心配してここまでしてくれるなんて。元婚約者という今では縁がない相手なのになんて優しい人なのだろうと私は彼に感謝していた。

「君を手に入れるためなら、お安い御用だよ」
「……え?」

 聞き間違えだろうか。
 私を手に入れる、ってどういう意味? ぎぎぎとぎこちない動きでマルクを見上げると、好青年風の顔立ちの彼はにっこりと笑っていた。

「残念だけど、こうなってしまえば君を妻にはできない。僕も然るべき令嬢との結婚が決まっているから君にはこの離れで過ごしてもらうことになるけど……」

 でも、大丈夫だよ。世話をする人間は厳選しているからね。とマルクは言った。

「でもその前に、君の初めてをいただこうかな」

 彼はじりじりと私に近づく。
 身の危険を感じた私はこれでようやく状況がまずいことに気が付いた。
 もしかして、マルクは私を愛人にしようとしているの!? 冗談でしょう!?

「君は昔から、“好きな人がいたら身を引くから”と事あるごとに言っていたけど、僕が愛しているのは君だよ、キャロル」

 首元のクラバットを外したマルクは、いつもの貴族青年らしい余裕を無くしていた。
 まるであの晩に私を襲ってきた男たちと同じ目をしていた。

 逃げ場を失った私は寝台に引き倒され、身に着けていたものをすべて脱がされた。
 そして男の情欲に流されるがまま、奪われたのだ。

「あぁ、キャロル、キャロル可愛いよ」
「っ、ひ」

 私の上で獣のように息を荒げながら私の名を呼ぶ男は、熱い鉄杭で私を犯した。
 普通のひ弱な女が男の力に敵うわけがない。
 おとなしく受け入れるしかなく、破瓜の痛みに呻くだけだ。

「おいおいマルク。私たちを差し置いて抜け駆けはやめてくれよ」
「キャロルのお尻は僕がもらおうかなぁ」
「最初なんだから手加減してやれよ…」

 ベッドのきしむ音とお互いの肌がぶつかる音で気づかなかった。
 いつの間にか他の人間が寝室に入ってきていた。
 彼らは、乙女ゲームの攻略対象。第二王子と隠しキャラのヴィクトル様以外のメンバーがそろっていた。

「あ……」

 そういうことなのか。
 彼らは私を共用の娼婦にしようとしているんだ。
 どうして、私は彼らとそういう関係になりたいとは思っていなかったのに。ただ、乙女ゲーム上で知ったトラウマや地雷に気を付けて接していただけ。それなのに。

「キャロル、キスをしよう」

 横やりを無視して、私を犯し続けるマルクはうっとりとした目で私を見ていた。
 この眼差しはヒロインが受けるものだったのに。
 唇を塞がれ、窒息しそうなディープキスをされた私の目じりから涙があふれだした。

 こんなのじゃ、ない。
 私はヴィクトル様と結ばれる未来を夢見ていただけ。
 彼の淡い水色の瞳に見つめられて愛を囁かれたかっただけ。

「うぅ……キャロル、出すよっ」

 マルクは腰の動きを加速させて一人達した。じわりと胎内に広がる熱ののちに、灼熱の棒がずるりと抜かれた。
 私は寝台の天井を見上げて呆然としていた。
 どうしてこんなことになっているんだろう。衝撃が大きすぎてどういう反応をすればいいのかがわからない。

「可愛いキャロル、寝てはダメだよ……私を受け入れて……」

 入れ替わりで別の男が私を犯す。マルクが出したものが潤滑油となって簡単に受け入れた。
 首筋をなめられ、痕を残すように強く吸われる。
 乳房を揉みしだかれ、ツンと尖る飾りを吸われると、鼻にかかった声が漏れた。

「ンっ!」
「あぁ、最高だキャロル、俺のに絡みついてきて……!」

 かわるがわる男たちが私を犯し、精を吐き出した。
 愛している、可愛いよ、最高だよと褒めたたえられてもそれは娼婦に向けるリップサービスのように聞こえて私の心は揺れなかった。

「奥に出すよっ!」

 あの晩に暴漢たちに嬲りものにされたのと、今の状況は何が違うというの?
 こちらのほうが幾分大事に抱いてくれているかもしれないけど、こちらには逃げ場がないじゃない。
 私が拒絶してもきっと彼らは手放してくれない。


◇◆◇


「君が誰の子を産んでも大切にするよ。私生児という形にはなるけど、尊い血を持つ君の子だ。なんとでもなるさ」
「お、奥様になる方にどう言うつもりなの、こんなの許されない……」
「許されない? ──僕を捨てて王子殿下と結婚しようとした君が悪いんだよ」

 マルクはそういって冷たく私を睨みつけた。
 だって仕方ないじゃない。身分が上の人からの求婚だった。それに父が決めたから──

 あぁ、そうか。第二王子殿下に求婚された時からずれ始めたんだ、きっと。
 私はそのつもりがなくてもヒロインの役割を奪ってしまったからこんなズレが生まれたんだ。

「ご、ごめんなさ」
「今更謝ったって遅いよ。僕は君と結婚したかったのに、それを裏切ったのは君だ。君は僕に償う義務がある」

 責められて私は委縮する。
 仕方ないと納得してくれていたと思っていた。だって私たちの婚約だって政略だったもの。
 それなのにマルクは私に執着していた。
 一方的な婚約破棄を納得してなかったんだ。

「脱ぐんだ」
 
 冷たい声で命令された私は震える手で着ているものを脱いだ。
 今日も私は彼の娼婦として抱かれるしかない。
 両親も身分も財産もなにもかも失った私にはそうするしか生きる術がないのだ。

「いいね……綺麗だよ、キャロル」

 うっとりとした彼の手が身体の隅々まで撫でた。私はその手に翻弄されることだけに専念した。


 彼を油断させて逃げてもきっと無駄だ。この離れに勤めるのはマルクの息がかかった使用人のみ。それも相当口が堅い人間だ。
 きっと私はここから逃げられないのだろう。

 マルクは私を逃がす気がない。多分一生。


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