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スラム生まれの公妃様【三人称視点】

 スラムの中でたくましく生きてきた貧しい女の子は、国と両親を奪われ何もかも失った公子様と出会いました。生きることの厳しさを共に学びながら2人は次第に心寄せ合うようになったのです。
 公子様が国の仇を取ったそのあと、彼が望んだのはスラム生まれの貧しい女の子と一緒になること。彼は女の子にプロポーズしました。

 公子から大公になった彼は彼女と一緒になるために、それはそれは陰ながら努力しました。障害ばかりでしたが、数々の障害を乗り越える度に2人の距離は縮まりました。
 女の子がエーゲシュトランドに移住して一年と少し経過した頃、大公様の我慢の限界が突破しました。早く女の子をお嫁さんにしたいという彼の希望を汲んで大急ぎで結婚式が整えられたのです。外の国の貴族たちからはやっぱり身分違いの二人の結婚に反対の声を上げるものがいましたが、修羅場をくぐり抜けてきた彼らの絆は強固なもので冷たい視線にも負けませんでした。

 ボロボロの服を着た少女は、まるでみにくいアヒルの子のように変わりました。最高級のウェディングドレスを身にまとう美しい花嫁はスラム育ちの娘には見えません。麗しい大公様の隣に並ぶ愛らしい公妃様。彼らは幸せそうに国民からの祝福を受け止め、永遠の愛を誓いました。
 ふたりはいくつになっても相思相愛の仲良し夫婦で、沢山の子孫に恵まれ、いつまでもいつまでも幸せに暮らしたのです。



 彼らの半生は子供向けの物語にもなりましたが、なぜか彼らの話には必ずと言ってもいいほどカエルが登場します。
 国を追われ、一文無しになって行き倒れ、飢えにあえぐ公子に向かってスラムの少女が言ったのです。

『お腹が空いているの? パンがないならカエルを食べたらいいじゃない』

 実際には彼女はそんな事を言っていないという歴史研究家の意見もありましたが、童話のそのセリフでリゼット大公妃は有名になりました。
 その物語をアイデアにして食用カエルの繁殖に踏み切った人物がカエルの丸焼きを屋台で販売するようになり、評判を呼んでエーゲシュトランド公国のローカルグルメとして広がりました。公妃様が広めたさつまいもと共に、国民たちのお腹を満たしてくれる存在となったのです。

 一時は滅亡の危機に瀕したエーゲシュトランド公国はヴィクトル1世統治世代中期には様々な政策や事業で経済を盛り返して、周辺国を大きく引き離してとても裕福な国になりました。
 彼の作った国では寒さに震えることも、飢えに苦しむこともなく、国民皆が穏やかに幸せに暮らしましたとさ。

 ~めでたしめでたし~




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