好きな人に求められたら応えてしまいますわ。 メイドさんにお世話された私はいつものようにベッドに入り込んで寝たふりをして、完全に彼女たちが下がったのを確認するとベッドからこっそり抜け出した。 ヴィックから寝る前に一人で部屋に来るようにと言われたので、大切な話とはなんだろうと首を傾げながらヴィックの寝室にこっそり入った。私が入ってきた気配に気づいたのだろう。もうすっかりおやすみスタイルのヴィックが私を見て優しく微笑んだ。 あっ、髪の毛結ばずにおろしてる。薄い金色の髪がランプ明かりに照らされてキラキラ輝いて綺麗だ。夜ってことで妖しげな色気を纏っているように感じるのは目の錯覚だろうか。 無防備な寝間着姿の彼を直視した私はなんだか落ち着かなくて出入り口付近で突っ立ったままもじもじしつつ「大切な話って、なに?」と問いかけた。 「そんなところに立ってないで、こっちにおいでリゼット」 ついこの間先生やメイドたちに叱られた私としては、一定の距離を保ったほうが自分の理性を守れると思ったんだけど、そう言われたら彼の座っているベッドまで近づくしかあるまい。もしかしたら人に聞かれたらまずい話なのかもしれないし… ヴィックの前に立つと、彼は手を伸ばして私の両手をそっと掴んだ。 「今日は災難だったね、リゼット」 「あぁ…うん」 もしかしたら私が落ち込んでると気遣ってくれているのかな。私らしくもなく泣いちゃったし、ヴィックは心から心配してくれているのかもしれない。 「髪飾りは残念なことになったけど、中央のペリドットだけは無事だった。前と同じに、とはいかないだろうけどペリドットを再利用してまた作ってもらうように明日にでもお姉さんにお願いしに行こう。材料が足りないのであればこちらで輸入の手続きをする」 「そこまでしてくれて…なんかごめんね」 周りからしてみたら、他に沢山アクセサリーがあるのになんで髪飾りにそこまで? って思われても仕方ないのに、彼はここまで心砕いてくれるのか。それが申し訳なく思いつつも嬉しい。 「大切なものはその人にしかわからない。周りが大したものじゃないと判断しても、本人にとってはものすごく大切だって事はよくある。私はリゼットの憂い顔は見たくない。笑顔になってほしいんだ。その為なら労力なんて惜しくないよ」 くいっと引かれた手。私は引っ張られてヴィックの隣にぽすんと腰掛ける。ベッドのスプリングが小さく軋んだ。 ──夜遅くに未婚の男女がベッドの上で二人きりってのはとてもまずいと思うのだが、腰を引き寄せられてぴっとりくっついてしまうと私は何も言えなくなった。ランプ明かりで照らされた金色の髪が透けて見える。まつげも金色であぁまつげ長いな、綺麗だなとうっとりしてしまうのだ。 あ…だめだ私の脆弱な理性が早くも崩壊しそうになっている。ヴィックのお色気すごい…私は女として負けてるんじゃなかろうか…。 「それと、非常識なあのメイドには辞表を出させて辞めさせることにしたから。メイド長からそのように報告も受けてる。推薦先にもこれから苦情を申し立てるつもりだ」 「あ。そうなんだ…」 これまたあっさりとした報告である。ハンナ・コールは私の髪飾りを壊した以外にも色々やらかしてきたけど、今日のことが決定打になったみたい。 別に彼女のことは同情しない。庇うつもりもない。むしろ彼女の神経がものすごいとは思うんだけどね。彼女のしてることは貧富関係なく非常識だと思うんだ。世の中のメイド協会ってのはああ言う人に推薦状を書くくらいレベル低いのかなぁ…。ちなみにまだ彼女のスパイ容疑が消えたわけじゃなさそうである。 「あのメイドはリゼットとぶつかって階段から落とそうとした時点で解雇を命じたかったんだけど、あそこでリゼットが許しちゃったから私としてもなにも言えなくなったんだ」 「そうだったんだ…ごめんね、大げさにしたくなかったから…」 変なところでお人好しな面を出してしまった私も悪かった。ごめんなさい。 「今度は協会の推薦ではなくもっと身元がはっきりした人間を雇い入れるべきなのかもね。リゼットも女主人としてそれに関わることが増えるから今のうちにちゃんと学ぶんだよ」 「はい…」 今回のことで元々なかった自信が更になくなりましたけどね。 またああいう人が入ってきたら私はちゃんと注意できるだろうか… 「それと今度、君のウェディングドレスの為に腕利きの仕立て屋を招くことになったから、そのつもりでね」 「う…ん? え、もう?」 もうドレス作るの? 早くない? こっちに来てまだ一年も経ってないのに……ヴィックは私が14で縁談を持ちかけられたって話を聞いた時『早い!』って驚いていたんだ。周りも15歳の私を子ども扱いするからもっと年が行ってから結婚するものだと思っていた。 「むしろ遅いほうだよ。早く君を私の妻にしたい」 彼はそう囁くと私の目元にチュッチュとキスの雨を降らせてきた。私は目をつぶってキスを受け止める。そのキスが唇に降りてきていつものようにキスをされていると、なんだかぐっと身体を押された。 ヴィック、体重かけないでよ重い。私は体中に力を込めて倒れないように耐えた。背筋が重さに耐えきれずプルプルしている。 「…リゼット、力を抜いて」 一旦唇を離したヴィックに注意されたが、私は首を横に振った。 「力抜いたら倒れちゃうでしょうが!」 なぜ私を押すのだ。私はここに話を聞きに来たんだぞ!? 「いやいや大切な話は?」 「終わったよ?」 「これで終わり!?」 内容がこれなら日中でも良くなかった? 倒れそうな身体を押し返して攻防を繰り広げていたが、悲しいかな。いくら野生児と定評のある私でも男の力には敵わなかった。ぽふりと柔らかい寝具に倒されてしまう。 ──私を組み敷くヴィックを見上げた時悟った。 なるほど、このために呼んだってわけですか…… 「ま、待って、ヴィックあのね」 「待たないよ」 ヴィックの目は本気だった。私はあっという間に寝間着のネグリジェを乱され、ヴィックに翻弄されてしまったのである。 □■□ 「あぁ…ん、あ」 広い広い寝室には私のはしたない喘ぎ声が響いていた。こんなに声を出したら使用人の誰かに気づかれてしまうかもしれないのに、声を抑えようとするとヴィックが私を更に啼かせようとするのだ。 可愛いねと私を愛でるヴィックの声が私の神経を鋭くさせて余計に感じてしまう。乱されたネグリジェはもうお腹に引っかかっているだけで、上半身と下半身を覆っていない。私の丸い胸に吸い付くヴィックも下半身だけ着ているだけで上半身は服を脱ぎ去っている。 もう季節は冬だ。暖炉の火も弱まった今では布団をかぶらないと寒いはずなのだが、今は布団を払いたいくらい暑い。私もヴィックも体温上昇していて布団の中が熱帯状態なのだ。 「ひ、」 ヴィックの空いていた手がするりと太ももを撫でた。ドロワーズすら身にまとっていない私の下肢に直接触れた彼の指が一箇所で止まると、そこをぬるりと撫でられた。──意識していないうちにそこは濡れていたようで私は恥ずかしくてぎゅっと足を閉じた。 「大丈夫、怖くないよ」 私の耳元で囁かれた声にゾクッと身体が震えた。裂陰を撫でるようにぬるぬるとヴィックの指が行き来する。彼の手の動きに反応して私の腰が揺れた。 「んあっ…!」 時折ある一箇所を弾かれると下半身から脳天に向かって白い電流が駆け巡ってきて、何がなんだかわからなくなる。私が喘ぐ姿をヴィックはうっとりした顔で眺めていた。 私が感じている姿を楽しんでいるのだろう。濡れた指先で執拗にそこを優しく撫でられると、喘ぎ声を抑えられなくなった。自分の身体の奥が疼いてたまらなくなった。 「力を抜いてね」 ぬっ…とゆっくり、彼の指が誰にも触れさせたことのないところに入り込んできた。怖くなった私がいやいやと首を横に振ると、ヴィックは私を宥めるようにキスをしてくる。その間も浅く指を動かして未開のそこを慣らすように広げていた。傷つけて裂けないように開拓されているのは私にもわかったが、やはり少し怖かった。 指1本を入れられて少し慣れてくると、指が2本に増えて動きが少し大胆になる。自分の身体から発する濡れた音が下肢から聞こえてきて恥ずかしい。 「やっぱりここが一番感じるかな?」 「ひぅ…! ま、ってそこはぁ…」 私は刺激に打ち震える。いつの間にか彼の指が3本入れられてバラバラに動かされていた。もう片方の手は秘芯を親指でぬるぬると撫で続けてくる。身体にバチバチと細い火花が走っているみたいだ。先程よりも強すぎる快感が全身を駆け巡り、私は背をのけぞらせる。 「あぁあぁあーっ!」 悲鳴を上げた私は真っ白な世界を見た。その後に訪れたのは全身を苛む倦怠感、どくどくと動く心臓の鼓動、そして彼の指を締め付けるように蠕動する私の秘められた部分。 「リゼット…」 大きく息をして胸を上下させている私の目元に口付けるヴィック。私は彼の腕の中で幸福感に満たされていた。 感じたことのない快感にぼんやりする私の視界は涙で滲んでいた。あぁもう駄目だ。彼が欲しい。明日先生たちに叱られてもいい。私は今すぐ彼のものになりたい。 「ヴィック、抱いて…?」 掠れた声でお願いすると、ヴィックはたまらないとばかりに口づけてきた。もぞもぞと布が擦れる音とリップ音が響き渡る。早く、早くとお互いにお互いのことしか見えていなかったのだろう。周りの異変に気づくことなく、夢中になっていた。 ピタリと熱くて硬いなにかがトロトロに溶かされた秘部にくっつけられたのを感じ取り、とうとう私達は結ばれるのだと破瓜の瞬間を身構える。 ──こわい、だけど彼が欲しい。物足りないから私を満たして。 彼の薄水色の瞳と目が合う。そして言葉を交わすことなくキスした。それが合図だった。 「んっ…」 「きゃあああああああ!!!」 ヴィックがグッと腰を押し付けたその時。突然、至近距離で布を引き裂くような悲鳴が聞こえた。 無論、私でもヴィックでもない第三者の悲鳴であった。 |