お嬢様なんて柄じゃない | ナノ さようなら、私。こんにちは、エリカちゃん。

挙動不審な彼女【加納慎悟視点】



「なんなんだあの人は…」

 今日一日様子がおかしかったけど、笑さんはまた変な事を言ってこの場から走って逃げて行った。外で食べようが室内で食べようがホットドッグは一緒だろうに。 
 『丸山さんに招待券を貰ったから一緒に行かない?』と誘われた時も不思議に思ったけど…あの人は一体何を考えているんだ?

「…慎悟様、二階堂様もああ言っていますし、私達も食事をいたしましょ?」

 丸山さんにそう声を掛けられたが、俺は落ち着いて食事するような気分じゃなかった。
 あの人はエリカとは別の意味で放って置けない。エリカよりはしっかりした人だけど、時折短気を起こす事があるから目を離せないというか…

「…丸山さん、ちょっとここで待っていてくれないか。あの人を探してくる」
「えっ…」
「後で必ず迎えに行くから。食事も先にしてくれて構わない」
「あっ! …慎悟様!」

 エリカの体なのに、あの人が入ってからは全く別人の体のようだ。比べ物にならないくらい足が速い。膝を怪我して弱っていたくせに、あんなに走って大丈夫なのかあの人は。

 
 
「マジ! すげー可愛い子だったの! 探してんだけど見つかんねーんだよ」
「お前らの下心にビビって逃げられたんだろ」
「いやいや俺は紳士的に声掛けたし!」

 笑さんが食べたいと行っていたホットドッグが販売している売店付近を探していると、ある男達が友人らしき男に興奮した様子で話しているのが聞こえてきた。

「白いワンピースでさ、可憐そうな美少女! 髪はお下げにしててさぁ…めっちゃ可愛かったぜ!」
「でもすげぇ足が速くてさ、追いつけなかった」
「嫌がられてんじゃねーか」

 中の人が可憐かどうかはわからないが、特徴は一致している。今日の彼女は白いワンピースを着用、髪は二つ結びにしていたから。
 やっぱり。
 目を離したらこんなことが起きそうだったからはぐれないように注意したというのに……連絡先を交換していないのも仇になった。
 …となると、この男から逃れるために遠くへ逃走したと考えられる……俺は一瞬迷子センターに呼び出しをお願いしようかと思ったが、一先ず先に自分で探して見つからなかったら、それに頼ろうと決めた。
 その後、植物園をざっくり捜索して見つからなかったので、隣の動物園に足を踏み入れた。
 …本当にあの人は手がかかる。勝手にどっかに行って、こっちが心配していることに全く気づいていない。



「あの子かわいいな」
「1人か? お前声かけてみろよ」

 動物園内を探して探して…こんなに走ったのは久々かもしれない。
 ふれあいパークという、小動物と触れ合えるイベントブースでようやく彼女を見つけた。あの人はうさぎを膝に乗せてのんびり和んでいた。
 同年代か少し年の離れた男たちから注目を浴びているのに気づかないのは、ただ単に鈍いのか、見られることに慣れているからか……
 …どちらか悩む所だが、彼女は今にも男に声を掛けられそうになっていた。それを妨害するようにして間に割って入ると、その男たちに一瞥をくれてやる。

「んだよ…男連れかよ…」

 男たちが悪態をついて諦めて散っていくのを見送って、彼女に目を向ける。しかし笑さんは俺がいることに気づいていないらしい。未だうさぎを撫でてぼんやりしている。
 こっちが必死になって捜していたというのに随分呑気な。

 笑さんの前に立ちはだかると、彼女よりも先に、彼女の膝の上にいるうさぎが反応した。それにつられて顔を上げた笑さんの表情はマヌケなものだった。…エリカが絶対にしない表情だ。

 …どう見ても顔はエリカなのに、やっぱり別の人間に見える。

 …何故皆これに気づかないのだろうか?





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mokuji
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